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第一話 その2「その少女、女神にて魔女」

「監視だって……」

 背筋を駆け抜けていく冷たく嫌な感覚が悠一を襲う。もうすぐ夏本番だというのやけに冷たく感じる外気。車内の狭い空間に閉じ込められている悠一の身としてはイリスの放った言葉の威力は絶大であった。

 身構えようとしている悠一に対して、イリスは諭すように言葉の続きを紡ぐ。

「もっとも、監視というよりは正確には警護と言ったほうが早いかしら」

「警護だって。オヤジの仕事の関係なのか?」

「そうね。……やはりレポートにあったアレに関しての記憶は……」

「なにかいったか?」

「いえ、何でもないわ。、」

 イリスの後半の言葉はあまりに小言だったためにそれを聞き逃した悠一が聞き返してきたが、イリスは何もなかったようにお茶を濁した。

「それはそうと、今日からあなたの家にお邪魔するわけだけど--」

「ちょっと待て。俺の耳がおかしなことをきいいた気がするのだが……」

 イリスがすべてを言い終わるまでに、それを遮り悠一が割って入る。悠一にとって、今までで一番の驚きだった。故にきっと自分が聞き間違っているのだとそう思い込み、再度仕切り直そうと思ったのだった。しかし……

「大丈夫。貴方は至って健康体よ。私と今日から同居するの。アーユー、オーケー?」

「ノォォォォォォッォォォォォォ!!!」

 絶叫。心の底からの叫びがそこにはあった。

「なによ。大体、こういうのは困るの私の方なんだからね! 男は気楽なもんでしょ?」

「気楽じゃねぇよ! 一見、外から見たら確かにラッキー見えるかもしれない」

「ラッキーでしょ。私、見てくれはそんなに悪くないわよ?」

 そう言って、服の胸元をちょいと持ち上げて自分の胸元を見るイリスに悠一は顔を真っ赤にし、急いでそっぽを向く。実際、悠一から見ても、イリスという少女はSSS級の美少女だということは明らかであった。息を飲むほどの美少女とは、まさに彼女のことであろう。

 その美貌、異性だということが決定的な悩みの種だったのだ。

 悠一の頭の中を刹那に駆け抜けていくこれからおこれから起こるであろうトラブルの数々。どう考えても、この少女を周りに不審なく我が家に溶け込ませるなど不可能に近いのである。

 それゆえに悠一は頭を抱えていたのだ。 

「第一こんな車どこに置くんだよ!」

「それは愚問ね」

 イリスがそう言って指をさす。その先には、今朝、悠一が家を出たときは無かった車庫が立っていたのである。

「な、なんちゅうことだ……」

「西條家庭の一部とおとなりさんのお宅の庭先を一部借りて建てさせてもらったわ。ほんとお金の力って偉大よね~」

「……悪魔だ」

 


 開いた口がふさがらないとはまさにこのことだろう。立て続けに目の前に現れる信じ難い現象にもはや慣れ始めてきつつある自分に悠一は恐ろしさを感じ始めていた。

 それからイリスを引き連れても何も動じない妹や、仕事から帰ってきたかと思ったオヤジに事を問いただすと、「そういえば、今日からだったな。去年から計画は決まってたんだが、いつか話せばいいと思って忘れていた」なんていうずぼらな返事が帰ってきたりと、悠一の悩みの種は尽きることが一切なかった。

 それでも、唯一の心の拠り所であり、オアシスである自室にたどり着けたのは悠一にとっても大きかった。イリスを使ってなかった隣の客室に押し込んで、自分の部屋にこもった悠一はようやく一息ついていたのだった。

「色々ありすぎだ」

 そのままベットに倒れ込むと、今日の学校の帰り道で出会ってしまった少女のこと、これからどうやって過ごせばいいのか、考えないようにしようと思っているのに関わらず、本人の意思とは別に、どうしてもそのことばかりが頭に浮かんできてしまう。

「でも、なんだかしっくりこないんだよなぁ……」

「なにがしっくりこないこしら?」

「……」

 横になった悠一の目の前にいたのは、他でもないイリスその人だった。

「なんでお前がここにいるんだよ」

 大きな声で突っ込むわけでもなく、眉間をピクピクさせながら悠一は冷静に声を押し殺して話す。ついさっき、横の部屋に押し込んだはずのイリスが自分のベッドに寝転ばっているのだから、驚きではあるが、それ以上に怒りに似た感情が悠一の中で沸き立っていた。

「いたら悪い?」

「大いに悪い」

「貴方は監視対象なのよ」

 ケロッとした顔でそう答えたイリスを見て、悠一は怒る気が一気に失せた。なんというか、この少女には何を言ってもダメだと察してしまったのである。

「そもそも、どうやって俺の部屋に入ってきたんだよ……」

「扉をつけたの」

「はいっ?」

「だからユーイチ(・・・・)と私の部屋をつなぐ扉をつけたのよ」

パチンとウィンクするその姿は誰もが見とれてしまいそうな美少女。しかし、悠一にとっては女神の姿をした魔女そのものにしか見えてならなかった。

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