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第一話 その1「現れた監視者」

 一陣の風が通りを吹き抜ける。 目の前に立つ少女の赤く輝く髪がなびかせた風は悠一の頬を拭っていく。しばらく放心状態ともいえる、思考が停止した数秒を悠一はものすごく長く感じていた。そして、やっとのことで彼の頭が再起動し、思考を始め出す。

「車……そんなばかな。まだ、20世紀から終わりを告げて数十年だぞ……」

「ところが、そんなことがあるのよ。あなたの目の前にある全てが現実よ」

 イリスはそう言って指をパチンっと鳴らす。彼女のその行為に反応するかのように、ガルウィングの扉はゆっくりと閉まり、テールランプが白く輝く。

 ゆっくりと、紅いスポーツカーはまるで何事もなかったかのようにイリスの横までバックしてくる。彼女を通り過ぎ、悠一の真横まで来ると静かに停止した。

 悠一が横目で車の中を確認するが、もちろん人一人と乗っていない。

「どう? 信じてくれたかしら?」

イリスはそう言ってニコリと悠一に対して微笑みかける。非現実的な世界の人間が、現実的な一般高校生にそう話しかける。悠一の心臓を、形容しがたい不安が握りつぶそうとしていた。

「信じるも、信じないも……」

 たしかに、イリスが言ったようにに、悠一の目の前で起きているこの異常現象は、嫌がおうでも認めざるおえない。しかし、彼にとって一番の問題はそこではなかった。

「なんで、俺なんだ?どっからどう見ても一般人のこの俺に」

「そうねぇ。こんなところで話すのもなんだから。よかったら乗ってくれないかしら?」

 油圧ダンパーがシューと小さな音を立てて、ドアを持ち上げる。

「あなたは助手席にお願いね」

 ウィンクをしながらイリスはコツコツと歩いてくると。悠一とは反対側のドアを開け、スポーツカーに乗り込んだ。

「乗るしか、ないか……」

 そうつぶやきながら、悠一も決心を決め、ドアをくぐって、スポーツカーへと乗り込んだ。

「それじゃ、あなたの家に向かいながら事情を説明しましょうか」

 イリスはシフトノブを操作し、車を発進させる。

 外装の赤と違って、内装は黒を基調としたデザイン。発進とともに悠一の後ろで唸りをあげたエンジン音に合わせて体シートに押し付けられるのが彼にはハッキリと分かった。

「大丈夫なのかよ。無免許だろ?」

「この車は私本体なのよ。そもそも、私は免除されてるわ。ああ、外のことなら気にしなくて大丈夫よ。今は、外から車内の本当の姿は見えてないから」

 得意げに笑みを浮かべ、ハンドルを自在に操るイリスを見ながら、悠一はやはりこの車に乗るべきではなかったのではないだろうか早々と後悔の念にかられていた。

 人通りの少ない道とは誰もいないわけではない。しかも、車ゆっくりと走っている。逃げようと思えば逃げれないわけでもない。

「早速本題にいきましょうか。あなたの家まで車じゃほんの数分だから」

「……」

「あなた。自分のお父さん。西條道治さいじょう みちはるが何の仕事をしているか知ってる?」

 いきなり、自分の父の名前が出てくるとは思ってないかっただけに悠一は少々驚いたものの、質問には答えなければという気持ちからか他の詮索はとりあえず置いておくことにした。

「……刑事だけど」

「そうね。でも、ただ単なる刑事とは訳が違う」

「どういうことだよ」

「刑事課特務捜査係。又の名を特務係」

 先程までの笑顔がどこかに消え、どこか険しい表情を浮かべながら、悠一には聞き覚えの無い言葉の列を述べていく。

「なんだよ。その特務係ってやつ。俺はそんなことは聞いたことないぞ」

「まぁ、知らくて当たり前か……。特務係は公にされている組織ではない上に、家族にさえ知らさせることがまずない影の刑事。いわば秘密警察みたいなものよ」

「秘密警察だと……」

 またしても、漫画かアニメみたいな話が飛び出して来て悠一は目を丸くした。

「ええそうよ。主に、国際的なテロ組織や重大事件で影で活躍する警察官なんて、メディアで報道されることありえない」

「その一員が俺のオヤジだっていうのか」

 信じ難い。しかし、今まで目の前で起こってきた事を見ておきながら嘘だと否定出来る確信が悠一には何一つとして存在していなかった。車は閑静な住宅街をすれ抜け、やがて静かに停止する。

 そこは、他でもない悠一の自宅の目の前だった。

 イリスが小さくため息をし、悠一の方へと視線向ける。

「私は、あなたを監視するためにここにやってきたのよ」 

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