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日常、時々

作者: chloe




ちいさな声で話しかける君に


僕は何も言えなかった




僕の日常は大体決まっている

毎朝6時半頃に起きて、洗顔、歯磨き、着替えなどの身支度

家族におはようといって、朝食を食べたりして

そして大体のことが終わったとき、僕は7時半に決まって鏡の前にいるのだ




ちいさな声で話しかけた君の


あの声が反芻する




だから『僕は、大丈夫だ』と

それから家を出る




おはようの飛び交う校内を、僕は無言で通り過ぎ

最初に行くのは焼却炉


よかった、きょうもまた間に合った


焼却炉の横にある錆が目立つ小さめのドラム缶

その中から取り出したそれは思いの外綺麗で


『 あぁ、“ 日常 ”が一つ減った。いいことだ 』


なんて、天を仰いだ




教室につくなり、僕はあるものを探す

視線の巡る先には僕の机があった、あぁ“今日はついてる”


ただし油断はできない

机を覗き込んだ右側、机の陰になるように貼られた一枚の刃

感謝しよう。こんなにも、この手の出来事に慣れてしまったことに




彼女はいつだって笑っている

クラスでも校内でも外でも中でも、どこに行っても注目の的

容姿がどうということでは説明がつかないほど、彼女は愛嬌のある人気者だった




ちいさな声で話しかける君は


僕をどんな風に思っていたかな




雨が降って、僕の日常が一変する

しまった、傘を忘れてしまったな


持ってきたところで夕方には使い物にならなくなってはいるのだが

ないよりはましではあった


さて、走りだす心の準備をしよう

そんな矢先に、非日常。


「傘、ないの?」


彼女は笑って話しかける

僕は黙った彼女を見た


『あるよ』なんていったところで見え透いているし、ないといったところでどうなるのか

結局、僕は黙ることにした


「実はね、あたしもないの」


彼女は僕から視線を外し、雨の降りしきる目の前を見た

僕は何となく目が離せないでいた


「走り出す、心の準備をしないとね」


そういった束の間




彼女は走り出していた

次第に雨粒が大きくなる中を、まるで浴びていないかのように

滴る露を振り払ってなお、走るのをやめなかったが

ちょうど友達が駆けてきて、彼女を自分の傘にいれた


何やら怒られているようだったが、彼女は笑ったままだ

僕は小さくなるまで、それを見ていた


あぁ、そうか

そうなのだ




無言を貫いた僕は


何の準備もしていなかったなぁ、なんて




彼女も“ 準備 ”をしていた

走り出す“ 覚悟 ”をしていた


なんだ、そうなのだ

そうなのだ




笑顔で走り出した君が


僕には羨ましかった




さぁ、ぼくも行こう

一歩を踏み出す覚悟を


いまなら、できるかもしれない







Fin.


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