ろんぐほーむるーむ
6時間目の授業はろんぐほーむるーむってやつだ。
相変わらず眠たげな瞳のフェルガス先生が教壇に立つ。
もちろん口にはタバコをくわえてる。
「え~。ロングホームルームだが、これは学級活動の時間だ。まぁ、クラス内の色んな事を決めたり、行事について話し合ったりするわけだ。基本的に週に1回。何もする事が無い時は適当に遊んでろ」
先生はそう言うと、椅子に座り教卓に足を乗せる。
おいおい。
「1回目の今日やる事は、まず学級委員を決める。こう、神の怒りを鎮める為に捧げる生贄を選ぶ感じで。どうせ、誰もやりたがらねえだろ」
どんな感じだよ。
でも確かに学級委員なんてやりたい奴はいない……
「はい! 俺やります! 」
と思ったら、いました。
俺の隣に。
「ブレイディか。お前はダメだろ」
「えぇっ!? 何でですか! 立候補してるんすよ! 」
「そりゃお前、誰でも良いって訳じゃ無いだろ。何事にも最低ラインってもんがある」
「俺、最低ライン下回ってんの!? 」
気づいて無かったのか。
「他に立候補する奴はいるか~? 」
「フランドリッヒさんが良いと思いま~す」
「私も~」
立候補する者は他におらず、代わりに数人の女子がウィルヘルミナを推薦した。
「フランドリッヒか。確かにうってつけだな。どうだ、フランドリッヒ? 」
「別に構いませんが、留学生である私で良いのですか? 」
「あぁ、良い良い。気にすんな。よし、決定」
神に捧げられる生贄……じゃ無くて、学級委員はウィルヘルミナに決定した。
確かにウィルヘルミナなら問題ないだろう。
真面目そうだしな。
「他にする事は……。あぁ、そうだ。来週からクラスマッチに向けての強化合宿に行くから。実家通いの奴とかは、ちゃんと親御さんに言っとけよ」
「先生。合宿って何処でやるんですか? 」
「未定だ」
来週ならもう決めとかないとマズイんじゃ……。
「こんくらいだな。後は自由時間だ。お喋りでもしてろ。席は立って良いが、教室からは出るなよ」
教師の言う台詞では無いが、生徒にとっちゃありがたい。
俺は立ち上がり、ウィルヘルミナの元へ行く。
「よっ! 学級委員」
「ギル……。ニコラスか」
「あんな簡単に引き受けて良かったのかよ? 」
「問題ない。こういった役職に就くのは慣れている」
役職って程のもんでも無いと思うがな……。
「ウィルヘルミナちゃんはアリアンツ帝国の貴族さんなんですよっ。人の上に立つべき人なんですっ」
「よしてくれ、セリーン。そんな立派な人間では無いよ」
いつの間にかやって来たセリーンが言う。
貴族か。
そう言われれば確かに気品というか、それっぽさはある。
俺は貴族があまり好きじゃないんだが、まぁ他所の国のだしな。
「しかし、何でまたアリアンツの貴族令嬢がトラフォードに? アリアンツにもハイバリーと同じくらいの名門魔術学校あるだろ。名前は……何つったっけ。ほら、あの、ヴェ、ヴェなんとか……」
「ヴェルティンス魔術学校か? 」
「そうそう、そこ。アリアンツのハイバリーみたいなもんだろ? 何でそこに行かず、ここに来たんだ? 」
「色々とあってな」
「色々って何? 」
「それは……」
「ニコラス君! そんな無理に聞いちゃダメですよっ! 」
「あ? 別に無理に聞いちゃいねえよ。言いたくないなら言わなくて良い。うん」
「すまないな」
ウィルヘルミナが申し訳なさそうに言うもんだから、何か悪い事した気分になる。
何となく居心地が悪くなってると、ベイが俺を呼んだ。
「じゃあ、俺行くな」
そう言って、ウィルヘルミナとセリーンから離れた。
「さて、と」
ロングホームルームが終わり、現在は放課後。
クラスメート達は各々、別れの挨拶をして帰宅の途についている。
「うっし。帰ろうぜ、ニコ」
「悪ぃ。俺ちょっと用事あるから先帰ってくれ」
「用事って何だよ? 」
「何でも良いだろ」
「まさか女子に呼び出されたのか!? 」
「いや、違うけど……」
「良かった。もしそうだったらお前を半殺しにしなければいけなくなるからな」
えぇ……。
「じゃあ、先帰っとくわ。あんまり遅くなるなよ」
「おう」
ベイは手を振り、教室から出て行った。
「……俺も行くか」
シリウスの奴が待ってやがるからな。
あぁ、面倒臭い。