宣戦布告
時は流れ、現在は昼休み。
俺はベイ、ウィルヘルミナ、セリーンと食堂で昼食をとっている。
セリーンってのは、シリウスのクソ馬鹿に怪我を負わせられた可哀想な女の子だ。
フルネームはセリーン・ルナホーク。
昨日、自己紹介聞いてた筈だけど名前忘れてた。
あるある。
「今日は本当にありがとうございましたっ」
もう何度目かも分からない感謝の言葉を告げるセリーン。
セリーンは綺麗な黒髪をパッつんにしてる。
だからなのかは分からないが、凄く幼く見えるんだ。
そんな子にずっとお礼を言われてると、何かこう変な気分になってくる。
「もう良いって。それより怪我は大丈夫か? 」
「あっ、はいっ。元々、大した傷では無いので」
「そうか」
そりゃ良かった。
俺はそう思いながら、皿に乗ったじゃがいもをつっつく。
固い!
「しかし、君の強さには驚いたな。魔術を使ってくる相手を素手で倒してしまうとは」
「本当だよ! お前、何者だ!? 」
ウィルヘルミナとベイが会話に入ってくる。
ちょっとベイ君、何か飛んできたんですけど……。
「別に大した事ねえよ。あんなボンクラ貴族、お前らでも倒せるだろ」
「いや、さすがに素手は無理だわ」
「あっ……! 」
俺らが和気藹々と喋ってると、セリーンが天敵と遭遇した小動物みたいな怯えた感じで、何かを見てる。
「ん? 」
セリーンの視線の先を見るため、座ったまま振り返る。
「げ……」
セリーンの視線の先には、シリウスがいた。
不機嫌そうな態度。
後ろには、マッチョとハゲ2人の計3人を従えてる。
取り巻きってやつか。
ハゲ2人は顔がそっくりだから、双子だな。
ずっと見てたら、シリウスがこっちに気づいた。
顔を歪めて、舌打ちしやがった。
「反省してねえな、あれ」
ベイが呆れた様に言う。
俺は頷いといた。
「気を付けた方が良いぞ、ギルクリスト。奴がこのまま、おとなしくしているとは思えない」
「あぁ、分かってるよ。てか、ギルクリストってやめてくんない?
ニコラスって呼んでくれ」
俺がそう言うと、ウィルヘルミナは視線を泳がせる。
何だ?
「わ、分かった。では、ニ、ニコラスと呼ばせてもらおう」
「俺もベイで良いぜ! 」
「分かった」
「あれ!? 何か俺に対してはあっさりじゃねっ!? 」
騒ぐベイ。
飯食う時くらいは静かにしろよ。
「あ、あのっ」
「あ? 何だよセリーン」
「わ、私もニコラス君って呼んで良いですか? 」
「おぉ、もちろん。てか、敬語じゃなくて良いぞ。同い年なのに」
「あっ、敬語は癖なので……。猫さんとかとも敬語で話してしまうんです……」
「へ、へぇ……」
猫さんて……。
しかも猫と話してんのか?
いや、ガキの頃蜘蛛と話してた俺が言えた事じゃないか。
「……アリアドネ」
右手の刻印を見つめてたら、無意識に彼女の名前を口に出してしまった。
「ん? 何か言ったか? 」
ベイが口に飯を突っ込んだまま、訊ねてくる。
「何でもねぇ……」
俺は溜め息を吐いて、席から立つ。
「先行ってるぞ」
3人を置いて、先に食堂から出る。
出る間際に、フェルガス先生が食堂のおばちゃんと揉めてるのを見た。
何やってんだか……。
「ふぅ。良い天気だな……」
俺は今、第4校舎と第3校舎の間にある中庭のベンチに座って、ボケッと空を見上げてる。
考えるのは、さっきの事。
シリウスと会っても、さほど感情は高ぶらなかった。
やっぱ7年も経てば怒りも鎮まるもんだろうか。
自分の事なのに、よく分からない。
確かなのは、あいつのやった事を許す気には全くならないって事くらいだ。
そう思いながら、右手を太陽に翳す。
「おい」
耳に不快な声が響く。
何で耳って目みたいに閉じれないんだろうか。
もしかしたら、どっかにそんな魔術が……
「おい! 聞こえてんのか、てめぇ! 」
「あ? 聞こえてねえよ」
「聞こえてんじゃねえか! 殺すぞ」
はー、やだやだ。
何なのこいつ。
現れたのは言うまでも無くシリウス。
マッチョとハゲ2匹を従えてる。
何すか?
集団暴行っすか?
「何の用だよ。さっきの仕返しにでも来たのか? 」
「仕返し? はっ! お前まさか、あれで俺に勝ったと思ってるのか? 」
「思ってるも何も勝ったけど」
「ふざけるなっ! 」
いきなり怒鳴り、キレるシリウス。
癇癪野郎め。
「固有魔術は使用禁止。魔術教典は50まで。一撃いれただけで終了。あんなのおままごとだろうが! 」
「その、おままごとで負けた奴が何を偉そうに」
「ぐっ! 黙れ! とにかく、あんなものは戦いとは呼べない。よってお前は俺に勝ったとは言えない! 」
こいつ頭おかしいですわ。
「つまり、本気で戦おうって事かよ? 」
「あぁ、そうだ。全力を出しての本当の戦いをする。放課後、闘技場に来い。逃げるなよ、屑」
屑はお前だろーが。
そう言おうとしたが、シリウスの野郎はさっさと帰っちまったから言えなかった。
それにしても、
「面倒な事になったな……」
俺は嘆息して立ち上がり、重い足取りで教室へ向かった。