模擬戦
「おい。そこらへんにしとけ」
「あぁ? 誰だよてめぇ? 」
「君は……」
間に割り込むようにして来た俺に、2人は異なる反応を見せる。
シリウスは俺が双子の兄貴って事に気づいてないみたいだ。
まぁ、7年間1度も会ってないからな。
俺だって、こいつがアホな名乗り方するまで気づかなかったし。
「俺はこの2人のクラスメートだ」
「だから何だよ? しゃしゃり出てくんじゃねえぞ、こら」
こいつ貴族のくせに言葉遣い汚な過ぎだろ?
親の顔が見てみたいぜ。
「そういう訳にもいかん。俺はB組の保安官だからな。どうぞよろしく」
「てめぇ……舐めてんのか? 」
シリウスに胸ぐらをつかまれる。
どうするかな……。
「おいおい。何してんだ、お前ら」
ナイス!
フェルガス先生がようやく異変に気づいてやって来た。
ベイが状況を説明してる。
それが終わると、先生は大きく溜め息を吐く。
「初っぱなからかよ……」
先生はがっくりと項垂れて、頭をかく。
そして、覇気の無い瞳で俺達を 見据える。
「しょうがねぇ。せっかくの実技授業なんだから、模擬戦で決着つけろ」
「流石、先生。話が分かる」
シリウスの野郎はニヤリと笑って、俺から手を離す。
そして、石畳の舞台に上がっていった。
あそこがバトルフィールドって事か。
俺もシリウスに続いて、舞台に上がる。
他の奴等は、舞台を取り囲む様にして集まる。
面倒くせぇ事になっちまったな。
「ニコ~。ぶっ飛ばせ~! 」
ベイが大声で叫ぶ。
その隣ではウィルヘルミナとあの女の子が心配そうに俺を見てる。
まぁ、そりゃそうだろ。
どうしたって貴族と平民じゃ戦闘能力に差がある事が多い。
多いだけで、例外は普通にあるけどな。
つか、俺も本当は貴族だし。
「ルールを言っとくぞ。固有魔術の使用は禁止。魔術教典も使っていいのは50章まで。先に一撃いれた方の勝ちだ」
マジかよ。
俺の力は固有魔術って事にして誤魔化すつもりだったのに。
魔術教典の魔術なんて使えねえし。
つまり、俺は素手であいつと戦わなきゃならんのか。
「良かったなぁ。俺の固有魔術受けたら、お前みたいな奴は、すぐに死んじまうからな」
シリウスが相変わらずのニヤニヤ顔で言ってくる。
変わらねえな、こいつ。
つか、固有魔術持ってんのかよ。
もしかして、さっき手を挙げてたのこいつか?
属性も2つ持ってたしな。
シリウスの性格ならおかしくない。
「どうした。ビビったか? 」
「あ? 別に。お前こそ、負けた時の言い訳考えとけよ」
「てめぇ……」
俺とシリウスは睨み合う。
数秒経って、フェルガス先生の声が響いた。
「始め」
その瞬間、シリウスから炎弾が飛んでくる。
軽く身をよじって躱す。
シリウスは火と風の二重属性だ。
俺はシリウスに詰め寄る。
「ふんっ」
シリウスの周囲に強風が発生。
俺を阻もうとする。
だが、俺は構わず右の拳を振り抜く。
「おらぁ! 」
「なっ!? 」
俺の拳が風を穿つ。
シリウスの野郎はぎょっとするが、寸前で飛び退く。
ちっ。
「何だ今の!? 」
「素手で風の防壁を打ち破ったぞ! 」
ギャラリーの驚く声が聞こえる。
俺は魔術が使えない分、身体や体術はかなり鍛えてる。
正確には、アルバスに鍛えられたといった方がいい。
「魔術教典第9章……」
シリウスがこっちに、右手の人差し指を向ける。
「渦焔」
シリウスの指から線状の炎が放射される。
それは地べたを這いずって、俺の横を通り過ぎた所で旋回。
渦を巻く様に俺を取り囲んだ。
360度全部炎。
熱い。
外からは、シリウスの高笑いが聞こえてきた。
「どうだぁ、おい? 降参するなら消してやる。大火傷する前に降参しな」
やれやれ。
こんなちゃちな術でご機嫌かよ。
「それには及ばねえよ……」
俺は小さく呟き、右足を上げ、地面を思いっきり踏みつける。
それにより、さっきシリウスが起こしたのより強い風が発生。
炎をかき消す。
地面には何か術でもかけられてんのか、ヒビ1つもはいってない。
「――っ! てめぇ、風属性かっ! 」
「あ? あ……あぁ、そうだ! 」
強風に顔をしかめながら、シリウスが予想外の事を言うが、好都合だ。
そういう事にしとこう。
「クソがっ! 魔術教典第……」
「遅えよ」
右の掌を俺に向けて、新たな術を発動しようとするシリウス。
そんなシリウスの懐に俺は一瞬で潜り込む。
「――なっ!? 」
目を見開き驚くシリウスに俺はアッパーをかました。
「がっ! あっ……! 」
場外へ吹っ飛ぶシリウス。
それと同時に歓声――主にクラスメート達から――があがる。
「はい。ギルクリストの勝ち~っと」
舞台に上がってきたフェルガス先生がやる気無さそうに言う。
ベイ達を見ると、満面の笑みだ。
ウィルヘルミナもな。
あいつ、ちゃんと笑えるのか……。
「クソがぁ! 」
ウィルヘルミナに対して若干失礼な事を考えてると、シリウスの怒声が響いた。
あいつは立ち上がり、めちゃくちゃ俺の事を睨んでる。
怖い怖い。
「ふざけやがって……。ぶっ殺す! 」
「おいおい。もう終わりだぞ、ヒル・ピストリウス。先に一撃いれた方の勝ちって言ったろ」
呆れたようにフェルガス先生が言うも、シリウス君には話が通じない。
何事かを喚いてらっしゃる。
「うるっせえんだよ平民がぁ!俺を誰だと思ってんだ? あぁ!? ぶち殺してやるっ! 」
散々、喚き散らすと今度は右手を挙げる。
何する気だ?
「固有魔術発……」
「いい加減にしろ」
どうやら固有魔術を発動しようとしてたらしいシリウス。
しかしそれは、舞台から凄まじいスピードでシリウスの元に移動したフェルガス先生に口を塞がれた事により失敗した。
シリウスやクラスメート達は皆、呆然としてる。
瞬間移動でもしたように見えたんだろう。
俺は普通に走って行くの見えたけど。
しかし速かったな。
「学校じゃあ貴族だろうが教師の方が立場は上だ。逆らうってんなら相応の処分を下す」
いつものボケッとした先生からは想像できない程の、冷たく鋭い雰囲気に、皆が息を呑む。
シリウスにいたっては、もう完全にビビりあがってますね……。
シリウスは先生の手を払うと、ずかずかとA組の連中が固まってる場所に戻って行く。
フェルガス先生はやれやれって感じで肩をすくめた。
それと同時に鐘が鳴る。
先生に解散を言い渡され、俺はベイ達と闘技場を後にした。
あっ。
結局、シリウスの奴謝ってねえ!