貴方とはまた
「多分じゃねえだろ、多分じゃ」
俺は溜め息を吐きながら、地面に打ち伏せるリゼに近付く。
その瞬間、背後から轟音が響く。
振り返ると、遥か後方の林から砂塵が巻き上がり、地面が削れる様な音が響き、木々が次々に切り倒されていっているのが見えた。
「環境破壊もいいとこだな」
「ですねぇ」
俺の言葉に相槌を打ちながら、元の姿に戻る。
髪が縮み、翼も引っ込み、空も明るさを取り戻す。
リリスはその瞬間にサッと浴衣を着直したが、ばっちり胸が見えた。
「見ました? 」
「いや見てない」
めっちゃ早口で答える俺。
リリスはふーんって感じの顔をしてる。
何だよ?
本当はガッツリ見てやったぞ。
貧乳め。
「何か不愉快な事思ってません? 」
「いや別に」
またまた早口で答える俺。
こいつ読心能力でも持ってんのか?
「とりあえずさ、そいつ連れて行こうぜ」
「連れてくって何処にですかぁ? 」
「そりゃあ、騎士団とか…… 。スティーヴンスの奴はくたばっちまってるかもしれねえけど、平団員とかはまだ生きてる奴いるだろ」
「私も生きていますよ」
「うおっ!? 」
背後から突然聞こえてきた声にビクッとなる。
ばっと振り返ると、スティーヴンスがいた。
「何だよ。お前が勝ったのかよ」
「不満そうですね」
「当たり前だろ。3000万がパーだぜ」
「……そちらも勝ったのですね」
「まぁな。俺にかかりゃこんなもんだ」
「やったの殆ど私じゃないですかぁ」
「はぁ? 俺がいなきゃ槍で刺されて死んでたろ」
「ニコ君だって私がいなきゃ、倒せなかったと思いますけどぉ」
「そりゃスティーヴンスのせい……ってそうだ! 早く能力解除しろや! 」
「忙しい人ですね……」
スティーヴンスは溜め息を吐き、慈悲剣を抜く。
そして、それで俺の腹を貫く。
「これで能力は解除され……っ!? 」
剣を戻そうとするスティーヴンスに、青糸で攻撃。
奴はそれを刀身で防ぐ。
「どういうつもりですか? 」
「いや。ちゃんと解除されたのかと思って」
嘘ぴょーん。
本当は一発かましてやろうと思いましたー。
まぁ良いや。
騎士団の隊長格殴っても、あんま良い事無いだろ。
「そんで、懸賞金の方はどうなんの? 1億3000万貰えるとおもうんだけど? 」
「……金品保管所の金庫番号を教えて頂ければ、そちらに振り込むよう手配しておきます」
「あぁ、そうか。分かった」
俺はスティーヴンスに自分の金庫の番号を教える。
金品保管所ってのは、金を預ける場所の事だ。
魔術で作られた特殊な金庫があって、それに金を入れておく訳だな。
金庫には番号が振り分けられてて、
空いてる金庫を買う事で、そこを自分の金庫として使える。
買うって言っても、正確には使用料を払って、払ってるその間だけ使えるだけだ。
管理や泥棒対策は完璧だから、自分で持っておくより遥かに良い。
貴族なんかだと自前でその特殊な金庫を持ってるが、あれはクソみたいに高いからな。
「んじゃあ、俺らは帰るぜ」
「待ってください」
帰ろうとする俺に、スティーヴンスが待ったをかける。
「何だよ? 」
「最後に貴方の名前をお教えください」
「名乗ったろ? 」
「フルネームでは無かったかと」
「……ニコラス……ニコラス・ギルクリストだよ」
「ニコラス・ギルクリスト……。覚えておきます」
「いや、良いよ。忘れろ」
「いえ。貴方とはまた、顔を合わせる事になる気がするので」
「……そうかよ。まぁ、その時は仲良くしようぜ。じゃあな。行くぞ、リリス」
俺は手をヒラヒラと振り、スティーヴンスに背を向け歩く。
「このまま戻って大丈夫ですかねぇ。結構時間経ってると思いますけどぉ」
「フェルガス先生だし、適当な事言ってりゃ大丈夫だろ」
「それもそうですねぇ」
滅茶苦茶失礼な事を言う俺ら。
フェルガス先生ごめんなさい。
でも貴方の普段の勤務態度にも問題があると思います。
「合宿も後二日ですねぇ」
俺が心の中で誰にでもない言い訳をしていると、リリスが相変わらずの呑気な感じで言う。
「二日半だろ。まだ昼くらいだぞ」
「細かいですねぇ」
「セリーンの特訓を終らせねえと。クラスマッチあるしな」
「ルナホークさん出るんですか? 」
「いや、知らねえけど……。そもそもクラスマッチがどんなものかも知らねえ」
「私は出来れば出たく無いですねぇ」
「俺はまぁ……どっちでも良いかな」
そんな他愛も無い話をしながら、俺達は再び平穏な合宿生活に戻った。
これで合宿編は終わりです。




