vs リゼ Ⅲ 夜の女王
リリスの拳を顔面に受けて豪快にふっ飛ぶリゼ。
しかし、すぐに立ち上がる。
と言っても、かなりよろよろだが。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「タフだな」
「ですねぇ」
リゼはゆったりとした動きで槍を構える。
「もう無駄だ」
「黙り……なさい」
俺に言葉を返し、リゼは深く息を吸う。
そして小さく呟いた。
「解宝」
リゼが呟くと同時に、槍が強烈な輝きを発する。
「ちっ! 何だよ!? 」
「眩しいですぅ! 」
光がおさまり、目を細めてリゼを見る。
しかし、そこにある物を見て目をかっと開いた。
「何だぁ? 」
そこにいたのは紅い蠍。
禍々しい姿をした、人間より遥かに巨大な蠍だ。
「色狂邪淫紅蠍」
リゼが言うと、蠍が鋏を突き出してきた。
「ちっ! 」
俺は糸を引き、リリスを自分の傍まで引き寄せる。
「あれ、殴り壊せるか? 」
「今の状態じゃ無理ですねぇ」
「お前マジ使えね……今の状態って何だよ? 」
俺の問いに答えず、イタズラっぽい笑みを浮かべるリリス。
「解宝というのは魔宝に込められた魔力を解放し本来の姿に戻す事を言いまぁす」
「いきなり何だよ? 」
「いえ。私も本来の姿に戻ろうかなぁって」
「意味が分からねえ」
「私ぃ、魔術師じゃあ無いんですよぉ」
「それは聞いた。魔術師じゃないなら何なんだよ? 普通の人間ってか? 」
「それは言えませんけどぉ。本当の名前は教えてあげまぁす」
「は? 本当の名前って……っておい! 」
リリスは糸から身体を離し跳躍。
すると、リリスの身体が変化し始めた。
浴衣がはだけ、背中に黒い翼が生える。
ピンク色の髪が腰のあたりまで伸び、手と足の爪まで伸びた。
さらにそれと同時に、辺りが暗くなり始めた。
「何だ、これ……」
俺は呆然と呟く。
ハッとしてリゼを見るが、奴も空をみている。
「これが私の本当の姿。そして本当の名は夜と悪霊の女王」
言葉を放った次の瞬間には、リリスは蠍の真正面に猛スピードで移動。
蠍が防御姿勢をとる前に殴り飛ばす。
「この雌犬っ! 刺し殺しなさい! 」
リゼが叫ぶと、蠍が尾を構える。
それにより、リリスが尾に向かって駆け出す。
どうやら、誘惑の力も引き継がれてるみたいだ。
しかもパワーアップしてるぜ。
「ニコ君~。糸で助けて下さぁい! 」
「自分でどうにか出来ねえなら、糸から離れるんじゃねえよ! 」
俺は緑糸をリリスの近くまで伸ばす。
リリスがそれに身体を着けると同時に、引き寄せる。
「その姿なら遠距離攻撃は出来るのか? 」
「出来ますよぉ」
リリスはそう言うと、右腕を振り上げる。
「王緋の爪」
リリスが呟き右腕を振る。
すると、緋色の閃光が五本飛んでいく。
それはこちらに向かってくる蠍に命中。
傷つけ、押し返す。
しかし、すぐに直進してくる。
「使用者を攻撃した方が良いですねぇ」
リリスの周囲に黒い煙が渦巻く。
それが、フクロウへと変化した。
「鳴き叫ぶ梟」
フクロウが耳をつんざく様な絶叫をあげる。
「収束」
「アアアアアァァァァァァァァッ! 」
リリスの言葉と同時に、俺の周囲から鳴き声が消え、リゼが耳を抑えて膝をつき発狂した様に叫ぶ。
どうやらフクロウの鳴き声をリゼの耳元に集めたらしい。
リゼが膝をついたのと同じタイミングで、蠍の動きも止まる。
「独立型の魔宝は使用者の意思と魔力供給で動くんですよぉ。だから使用者をそれどころじゃ無くすれば良いんでぇす」
「へぇ。何か急に頼もしくなったな」
「えへへぇ。もっと褒めてくれても良いんですよぉ」
「うるせえ。さっさととどめ刺してこい」
リリスをリゼの傍まで移動させる。
しかし、リゼはまだヤル気みたいだ。
「調子に……乗るんじゃねえぞクソガキどもぉぉぉぉぉぉっ! 」
「わわっ!? 」
「ちっ! 」
リゼが叫ぶと、爆発の様に炎が巻き上がる。
糸を動かし、回避させ、再び近づける。
「死ねクソ雌犬ぅ! 」
喚きながら四方八方に熱線を放つリゼ。
それを、糸を複雑に動かし回避させる。
「地が出てんぞ、オカマ」
「黙れぇ! 犯してバラして食べてクソにしてやるよクソガキィ! 」
「やってみろや」
リリスをリゼの背後に。
「隙だらけですよぅ」
「かっ……はっ! 」
リゼの背中を爪で切り裂く。
鮮血が飛び散り、リゼはよろける。
「雌犬ぅぅぅぅぅ! 」
炎を撒き散らすリゼ。
しかし、狙いは滅茶苦茶で当たらない。
「ハァ……ハァ……。スコルピウス! こいつらを早く刺し殺せ! 」
リゼが叫ぶと、蠍が俺の方へやって来る。
「おいおい。俺かよ」
「お前さえ死ねば、あんな雌犬、槍だけで殺せるんだよぉ! 」
「だとよ。舐められてるぜ、リリス」
「プンプンでぇす」
リリスが言うと、フクロウが蠍の真上にやって来る。
「鳴き叫ぶ梟・音殺」
再びフクロウが鳴く。
先程の甲高い音では無く、心臓まで揺らすような重低音。
その音は真下にいる蠍を押し潰す。
「なっ!? 」
メキメキと音を立てて潰れていく蠍を見て、リゼは口を大きく開き間の抜けた表情を浮かべる。
「そんな……馬鹿な……」
「もう終わりか……? じゃあおとなしく捕まりやが……」
「くっ! 」
俺が言い終わる前に、リゼは背を向け駆け出す。
逃げる気だ。
「おいおい。今さらそれは無えだろ」
「こんな……こんな所で捕まってたまるものですか! 」
元の口調に戻ったリゼが走りながら叫ぶ。
「もっと沢山の可愛い男の子をいたぶって犯して殺してやるのよっ! 」
「屑が……」
「アハハッ! 次は何処に行こうかしら! アハハッ! 」
「次はねえよ」
半円を描くように腕を回す。
それにより、俺の向かいにいたリリスも半円を描くように移動し、逃げるリゼの前に回り込む。
「―っう! 」
「お前みたいな奴の行ける場所は……」
中指を立て、リリスをリゼの正面斜め上に。
「く、来るなぁ! 」
「牢屋か地獄しかねえだろうが! 」
中指を引くと同時に、リリスがリゼの眼前に。
そして、拳を顔面に叩きつけ、そのまま地面に叩き伏せる。
凄まじい轟音が響き、地面には大きくヒビが入る。
打ち伏せたリゼはピクリとも動かない。
「殺してねえよな? 」
「多分♪ 」
俺の問いに、最高にご機嫌な様子でリリスは答えた。
やっと10万字を越えました。




