再会
次の日、学校に行こうとしたら扉が開かなかった。
どれだけ待っても開かず、仕方ないから窓から飛び下りたぜ。
回り込んでロビーに行ったら扉が開けっ放しになってた。
初日からこれかよ。
どこかのアホのせいで、教室にたどり着く前に鐘が鳴っちまった。
だけど、フェルガス先生は俺らより更に遅くやって来た。
寝坊したらしい。
おいおい。
「え~、1時間目は早速、実技授業だ。担当は俺。A組と合同だ。場所は闘技場。遅れんなよ~」
一番遅れそうなアンタが言うなよ……。
現在俺達は、校舎裏にある闘技場にいる。
闘技場は楕円形の構造をしてて、内部は砂の地面に少し高い石畳の舞台がある。
屋根は無く、上を見上げれば綺麗な青空が広がってる。
ちょっと目線を降ろせば、観客席。
昼休みになると弁当をつつきあうカップルで溢れるらしい。
さっきベイに聞いた。
何で知ってんだろ。
「よ~し。始めっか~」
鐘が鳴るのと同時にフェルガス先生がやって来た。
またタバコ吸ってるよ……。
フェルガス先生が来た事で、俺達は整列する。
先生はタバコを携帯用灰皿に捩じ込むと、真面目な顔になって話し出した。
「さて、と。実技なんだが、まずは魔術や魔力属性について軽く説明しようと思う。本来は魔術学で習う事なんだが、お前らは実技授業が先にあるからな。まぁ、話を聞くだけより実際にやった方が身に付くってもんだ」
先生はそう言うと、脇に挟んでた分厚い本を右手に持つ。
「現代魔術は大まかに言って2つある。1つは、この魔術教典に乗ってるやつだ」
ペラペラと本をめくる先生。
「魔術教典は大昔の偉大な魔術師エリファス・クロウリーがエポルエ大陸の様々な国にある膨大な数の術の中から選び抜いた666の術が記された本だ」
選び抜いた割には666個って多いよなって思うけど、エポルエ大陸だけで4000近い術があるらしい。
「1から200が下級、201から499が中級、500から666が上級魔術って事になってる。下級と中級は魔術名を言うだけで発動出来るが、上級は本に書かれた詠唱文を唱える必要がある。これはエリファス・クロウリーが本と術自体にかけた魔術のせいだ。面倒くせぇ事してくれたもんだよなぁ?」
なぁ? って言われても困る。
そもそも俺は魔術使えないから関係無いしな。
「まぁ、これが1つ目だ。2つ目は固有魔術って言われるもんだ。名の通り、その者固有の魔術。原則同じ術は存在せず、血縁者でも全く性質の違うような術だったりする。特殊な例もあるが、これは良い。魔術学で習え。固有魔術は誰でも発現出来る訳じゃなく、一種の才能みたいなもんだ。お前らの中にも既に発現してる奴はいるだろ。あっ、別に手は挙げなくて良いぞ」
A組の誰かが手を挙げてる。
天然野郎か、目立ちたがり屋の自慢か。
後者の気がするぜ……。
「これが、大まかな2つの魔術だ。細かく言えば他にも種類はあるんだが、それは魔術学で習う事だからな。これで説明終わりだ」
持ってるのがきつくなったのか、魔術教典を投げ捨てる先生。
良いのかよ。
「次は魔力属性だな。これも名の通り、魔力の属性だ。魔力には火・水・風・地の4つの属性がある。例えば火属性の魔力を持つ奴が使う火の術は、そうじゃない奴に比べて格段に威力が上がる。同じ術を使ってるのにだ。
ただし、火属性の奴が水属性の魔術を使うと、本来より威力が下がる」
なるほどねぇ。
俺はエレメントの事なんて、これっぽっちも知らない。
何故なら俺の魔力には属性なんてもんは無い。
マジで意味分かんないけど無属性。
これが発覚した時の俺に対するセブルスの罵倒のしようは凄かったぜ。
自分の息子に普通そこまで言うかよってな感じだった。
あぁ、嫌な事思い出した……。
「魔力は自分の属性のものに変換する事も出来る。火属性なら火、水属性なら水ってな感じでな。魔術みたいに術名をいちいち言う必要ねーから、そういう意味では便利だな。因みに、二重属性って言って、魔力属性を2つ持ってる奴もいる。お前らの中にもいるだろ。だから手は挙げなくて良いぞ」
またかよ。
目立ちたがり屋確定だな。
「説明はこんなところかなぁ。んじゃ、お前ら適当に魔術の練習やれ」
そう言って、タバコを取りだし吸い始める怠慢教師。
よくクビにならねぇな……。
「良いかぁ。魔術ってのは魔力を練って発動すんだ。液体を結晶にする様なイメージでやれぇ。ただ、結晶にしてもすぐに溶けてくから、練ったらすぐに発動しろぉ。正確性とスピードが必要だぞぉ」
タバコ吸いながらだからなのか、喋り方がえらい事になってらっしゃる。
「魔力消費量が多ければ、それだけ練るのも難しくなる。魔力操作の技術は1番重要と言っても過言じゃねえ。しっかり、励めよ」
タバコをスパスパしながら言われてもな……。
ちゃんと教える気あるんだろうか。
「ニコ。練習しようぜ」
俺がフェルガス先生を疑惑の眼差しで見つめていると、ベイが声をかけてきた。
「俺はやらねぇ」
「はぁ? 何でだよ」
「天才だから」
沈黙し、冷めた目で見てくるベイ。
あぁっ! 過去のトラウマがっ!
「冗談だよ。俺はほら、固有魔術しか基本的に使わねぇから」
はったりをぶっこく。
俺は魔術なんてもんは、どんだけショボいやつだろうと使えねえ。
「へぇ。ニコも固有魔術持ってんのか」
「も、って事は、お前もあんのか? 」
「まぁ、一応な。ちょっと特殊なやつでさ、今は使えねえけど」
「ふぅん」
割かし気になるが、使えねえんじゃしょうがねぇ。
話だけ聞いたってしょうがねぇしな。
俺とベイがそんな会話をしてると、何やら男女の争う声が聞こえてきた。
そっちに目を向けると、金髪の男女が一触即発な雰囲気を醸し出していらっしゃった。
「喧嘩か? 」
「みたいだな」
俺とベイは野次馬根性丸出しで、そこに近付く。
女の方はウィルヘルミナだった。
毛先のカールしたショートカットの金髪。
顔はめちゃくちゃ整ってるが、どこか冷たい印象を受ける。
昨日、先を譲った時の礼の言い方も、何かすげぇ機械的だったしな。
んで、男の方は誰か分からねぇ。
クラスメートじゃねえから、A組だ。
男のくせに、ポニーテールなんて髪型してやがる。
「彼女に謝れと言っている」
「あぁ? んな所にいるのが悪ぃんだろうが」
ウィルヘルミナの斜め後ろには、隠れるようにして1人の女子が立ってる。
よく見ると、足に軽い擦り傷ができてる。
あのポニテ野郎の術が当たって怪我したって訳か。
んで、ウィルヘルミナが謝罪をしろと言ったが、男は逆ギレと。
そういや、あの女の子は昨日、ウィルヘルミナと一緒にいた子だな。
いかにも、気弱そうな感じの子だ。
「確かに私達のいた場所も悪かった。それは認める。だが、怪我を負わせた以上、すまないと一言くらい言うのが筋じゃないのか? 」
「うるせえんだよ。俺を誰だと思ってんだ? 二十二大貴族が1つ、ヒル・ピストリウス家の次期当主、シリウス・ヒル・ピストリウスだぞ! 平民に下げる頭はねぇ! 」
げっ!
あいつ、シリウスかよ!?
俺は目を見開いて、ポニテ野郎を凝視する。
確かにシリウスは金髪だった。
てか、ピストリウス家は俺以外は皆金髪だ。
俺だけ黒髪で、それが疎外されてた理由の1つでもある。
「頭を下げろとは言っていない。
ただ一言謝るべきだと……」
「うるせえんだよ、バァ~カ。
何で貴族の俺が平民に謝らなくちゃならないんだよ。平民は平民らしくペコペコしてろ」
憎たらしいニヤケ面で言うシリウス。
うむ。
順調にピストリウス家の当主に相応しい屑に育ってるな。
「貴様……」
「何だよ? やっか? 」
これはまずい。
俺はフェルガス先生を見る。
先生はタバコの煙に魔術をかけて、猫や犬の形にする遊びに夢中だった。
俺は即座に視線を戻す。
2人は今にも戦いをおっ始めそうな雰囲気だ。
やれやれ。
ここは元兄貴の俺が行くしかありませんな。
俺はゆっくり、2人の元へ歩み寄った。