魔獣薬
「おい! スティーヴンス! 」
俺が叫ぶと同時に、スティーヴンスが跳躍する。
先程までいた場所には灰になり始めてるマント。
寸前で脱ぎ捨てたらしい。
上空のスティーヴンスは剣を振りかざし、そして降ろす。
「罪無き者が振るう剣は神を殺すか」
そこから剣と同じ形状の光線が無数に降り注ぐ。
「おいおいおい! 」
俺は青糸で盾を生成し、自分とリリスを守る。
光線は地面を砕き、炎をかき消し、なおも降り注ぎ続ける。
「メチャクチャだなおい! 」
しばらくすると、攻撃は止んだ。
スティーヴンスが降り立つ。
「善良な一般市民まで巻き込む攻撃しやがって。これが騎士団様のやる事かよ? 」
「貴方が善良な人間なら、あの光は貴方を傷つけませんよ」
「そうかよ」
俺は吐き捨て、リゼ達を探す。
すぐに見つけた。
煙の向こうにシルエットが浮かんでる。
「あらら」
煙が晴れると同時に見えた光景に、思わずそんな声を出す。
そこにいたのは、血塗れのジェローム。
その後ろに隠れるようにして、リゼがいる。
アイツを盾にしたって事か。
「その剣は人にはダメージ与えられないんじゃ無かったのかよ」
「あの技は犯罪者のみを裁きます」
「マレ……何? 」
「やってくれるわね……」
俺の声に被せるようにリゼが呟く。
「投降するなら、これ以上の攻撃は加えません」
「投降? 冗談でしょう。なんで私が。私は傷一つ負ってないわよ」
「味方を盾にしといて良く言うぜ」
「貴方と初めて意見があいました」
「うるせえよ」
「仲が良いのねえ。羨ましいわぁ」
「何処がだよ」
「フフ……」
リゼは不気味な笑みを浮かべながら、どす黒い液体の入った注射器を取り出す。
そしてそれを、満身創痍のジェロームの首筋に刺した。
「ガッ……アァァァァァァァッ! 」
絶叫するジェローム。
次の瞬間、奴の身体が変化していく。
黒い甲殻に覆われた身体に、二本の長い角。
ありゃ完全に……
「魔獣……」
スティーヴンスが小さく呟く。
こいつの言う通り、どういう訳かジェロームは魔獣に変貌した。
「これは最近裏社会で出回ってるアイテムでね。名を魔獣薬。その名の通り、人間を魔獣にするの」
「そんな物が……」
「騎士団のくせに知らないなんて駄目な子ねえ」
挑発を飛ばすリゼ。
だがスティーヴンスにはあまり意味が無い。
「お前は知ってんのか? 」
「存在は知ってましたが、見るのは初めてですねぇ」
やっぱり協会の人間なら知ってんのか。
「魔獣薬は魔獣の魔力を素にして作られていてね。素となった魔獣の姿、能力を得られるの。この薬の元になった魔獣は異端狩りの王兜。その力は魔術を筆頭にあらゆる異能の力を無効にする事」
「Gaaaaaaaaa! 」
凄まじい咆哮と共に、ジェロームがスティーヴンスに突っ込む。
長い角で突き刺そうとするが、スティーヴンスは何とか剣で防ぐ。
「聖剣の能力はその子には効かないわよ。物理的な攻撃力に乏しいその剣でどこまで戦えるかしらね」
「Gaaaaaaa! 」
「ぐっ! 」
耐えきれず、スティーヴンスは吹き飛ぶ。
すぐさまジェロームも追撃をかける。
あっという間に奴等はこの場からいなくなった。
「さて、と。やっと二人きりになれたわね」
「あの~私もいるんですけどぉ」
「あら。雌犬がいたの。全然気づかなかったわ」
「わざとらし過ぎだろ」
「フフフ」
リゼは長い黒髪をファッとかきあげ、笑みを浮かべる。
「貴方、名前は? 」
「リリスでぇっす! 」
「雌犬じゃないわ。そっちの色男よ」
「むぅ」
「名前なんて聞いてどうすんだよ? 」
俺が言うと、リゼは舌舐めずりをする。
そして、
「決まってるじゃない……貴方の男根を切り取って、そこに名前を刻む為よ! 」
凄惨な笑みを浮かべながら、飛びかかってきた。




