退悪の魔眼
「なんか勢揃いしちゃいましたねぇ」
「一人邪魔な奴がいるがな」
俺はスティーヴンスを見ながら言う。
奴は俺を見るなり、あからさまに溜め息を吐きやがった。
ムカつくぜ。
「おいスティーヴンス! 能力解除しろ! 」
「お断りします」
「はぁ? 状況考えろよ。解除すりゃあ、こんな奴等五秒で片付けてやるぜ」
「あら。言ってくれるじゃない」
挑発的な俺の言葉に、リゼが反応する。
「取り込み中だ。黙ってろオカマ」
「あらヤダ、男前ね~。好みだわ~」
「うえっ」
「生意気なところも可愛いわぁ。そっちの子は何言っても反応しないから面白味が無いのよ」
「知るかよ」
うざってぇオカマだ。
さっさと片付けよう。
「おい、早くしろよ」
「お断りしますと言いましたが」
「融通の効かねえ奴だな 。じゃあどうすんだよ? 」
「私が一人でやります」
「お前みたいなヒョロガリじゃ無理だろ」
スティーヴンスが軽く俺を睨む。
何だよ? ヤるか?
「貴方は騎士団を下に見すぎです」
「良いから。そういうの良いから。早よ解除しろや」
「まともに会話も成り立ちませんね」
「てめえなぁ。ちったぁ年上を敬えよ」
「ニコ君が言うと微妙ですねぇ」
「この剣で一刺しすれば終わりです。しばらくお待ち下さい」
スティーヴンスはそう言って、あの忌々しい鋒の無い剣を握りしめる。
「刺せればな。刺せないだろ」
「刺された貴方が言うと些か滑稽ですね」
「不意打ちしといて良く言うぜ」
「そろそろ良いかしら? 放置プレイはあまり好きじゃないんだけれど」
長々と言い合う俺達に、リゼが割って入る。
それに反応し、スティーヴンスが一歩前に出る。
クソ。どうするかな。
「ジェロームちゃん」
リゼは右手に火球を生成し、地面に放つ。
それをジェロームが輝く瞳で見つめると、あり得ない速度で燃え広がり、周囲を囲む。
「またかよ。どうなってんだ」
アイツの眼の力なのは分かるが、どういう力なのかはさっぱり分からない。
てっきり火を操る力だと思ったが、さっきの地面の崩落の説明がつかない。
「まだ俺の力が分からねえのか? 」
俺の心を見透かした様にジェロームが言う。
心なしか得意気だ。
「俺の瞳の名は退悪の魔眼。瞳で捉えた物の状況を最悪の状態まで悪化させる」
ジェロームの説明でようやく納得がいった。
その力で切り傷を全身に広げてズタズタにしたり、地面の綻びを悪化させて崩落させたって訳だ。
この炎も火そのものを増幅させたんじゃ無くて、焚き火を山火事に悪化させたみたいなもんか。
「厄介な力ですね」
「お前が言うなよ」
こんな状況でも悪態をつくのを怠らない俺。
スティーヴンスは鬱陶しそうにチラッと俺を見たが、すぐに視線をリゼ達に戻した。
「とりあえず、貴方は死んで良いわよ」
リゼがスティーヴンスに巨大な火球を放つ。
周囲は炎に囲まれてるから、避けられる程のスペースは無い。
俺はしょうがなく青糸で壁を作りガードしてやった。
こいつに死なれたら困るからな。
嫌、死ねば解除されるのか?
「ありがとうございます」
「礼はいらねえから、解除しろよ」
「私が攻撃しますので、貴方は防御とサポートをお願いします」
「ふざけんな」
「懸賞金を半額お渡しします」
「全額ならやってやる」
「強欲な人ですね……」
「育ちが悪いんでね」
スティーヴンスは溜め息を吐き、リゼ達に向かって駆け出す。
「おい! 解除しろって! 」
俺は叫ぶが、奴は無視。
リゼへと突っ込む。
「貴方には興味が無いの」
リゼは再び巨大な火球を放つ。
スティーヴンスは凄まじい速度で剣を一振り。
それにより、火球は大きく形を崩すが、火が奴の白いマントに燃え移った。
「馬鹿がぁ! 死ね! 」
それを見逃さず、ジェロームが赤い輝きの灯った瞳でスティーヴンスを見つめる。
次の瞬間、スティーヴンスの全身を炎が包んだ。




