遭遇
「くっそ! やってられねえぜ! 」
「もう帰りましょうよぉ」
大股でづかづかと歩く俺にリリスがうんざりした様に言う。
スティーヴンスに攻撃を封じられた俺は、アイツの制止を無視してスターリング兄弟の兄を探してる最中だ。
スティーヴンスは追っては来ずに、別の場所に言った。
ぶん殴ってやろうとしたが、アイツの力で、拳が当たらなかった。
「帰りましょうてっば~」
「うるせえよ。帰りたきゃ一人で帰れ」
「そんな状態でどうやって捕まえるんですかぁ? 返り討ちにされちゃいますよぉ」
「攻撃は無理でも捕縛は出来るかもしれないだろ」
「無理だと思いますけどぉ」
「やってみなきゃ分からね……」
「ぐわぁぁぁぁ! 」
しつこいリリスを怒鳴り付けてやろうとした瞬間、男の悲鳴が聞こえた。
俺とリリスは顔を合わせ、すぐに駆け出す。
悲鳴のした場所に行くと、数人の騎士団が血塗れで倒れていた。
「んん? 誰だ? てめえら」
そしてそこに立つ一人の男。
スターリング兄弟の兄、ジェローム・スターリングだ。
「よお。探したぜ」
「はぁ? ガキが何の用だよ? 」
「お前を捕まえにきた」
「はっ! 笑わせんな」
ジェロームは右手に持っていた血塗れのナイフを俺に投げ飛ばす。
「おっと」
俺はそれを片手でキャッチ。
キマったぜ!
「これでそんなに斬り裂いたのか? 」
俺はナイフと転がっている騎士団の死体を交互に見ながら言う。
死体は全身を斬り刻まれていて、どう考えてもこんな小さいナイフでやれそうには無い。
「斬り裂いてなんかねえよ。ちょろっと斬っただけだ」
「どこがちょろっとだよ」
「身体に教えてやるよ」
「やだエッチ」
「ガキが! 」
ジェロームは新たなナイフを取り出し、飛びかかってくる。
無茶苦茶に振り回されるナイフを軽く躱し続ける。
まるでナイフの使い方がなってない。
こんなのに殺られるなんて。
さては騎士団って雑魚だな。
「ちっ、うぜえ」
ナイフを当てられないと悟ったのか、ジェロームは引く。
その隙を逃さず赤糸を展開し斬りつける……筈が、糸は何かに引っ張られる様にしてジェロームから外れた。
しまった、忘れてたぜ。
「何だよ、てめぇ魔術師か? 面倒くせぇ」
ジェロームはナイフを二本飛ばしてくる。
俺はそれを青糸で絡めとり、投げ返す。
しかしそれも不自然に外れる。
「何だぁ? 」
それを見てジェロームも首を傾げる。
クソ。
スティーヴンスの野郎マジで面倒くせぇ事してくれやがったぜ。
「手伝いましょうかぁ? 」
後方にいるリリスが呑気に声をかけてくる。
「いらねえよ」
俺は青糸をそのままけしかける。
傷つけなきゃ大丈夫だろ。
青糸を輪の形にして拘束する。
しかし、すんでの所で糸は静止した。
「これも駄目なのかよ! 」
「やっぱり~」
「さっきから何してんだ? てめえ」
屈んで糸の輪から抜けたジェロームはマッチを取り出す。
それに素早く火を点け投げ飛ばす。
マッチは地面に落ち、草に燃え移る。
そこからあり得ない速さで、燃え広がる。
「どうなってんだよ! 」
「ハハッ! 死ね! 」
ジェロームは地面にナイフを突き立てる。
するとそこから地面に亀裂が入り、崩れだした。
「何でだよ! 」
もっと叫びたい気分だが、そんな場合じゃない。
俺は青糸でリリスを掴み、岩から岩へ飛び移り、上昇する。
「おいおい。なんつー身体能力だよ」
そこにジェロームがナイフと火の点いたマッチを飛ばしてくる。
「しゃらくせえ! 」
それを赤糸で切断。
そしてジェロームの元に到着。
そのまま蹴りを放つが、やはり当たらない。
「しぶてえ奴だな! 」
ジェロームがナイフを突き出す。
俺は後方に飛び、回避。
体勢を立て直して、反撃に移ろうとするが、ジェロームの後方にある林から轟音が轟く。
「何だぁ? 」
ジェロームが振り向き、俺もそっちに視線をやる。
本来なら絶好の攻撃チャンスだが、今は違う。
轟音のしばらく後、林が斬り倒され、スティーヴンスが出てきた。
「げ」
嫌な奴にまた出くわした。
俺は顔をしかめるが、次の瞬間には笑みに変わったと思う。
何故なら……
「あら。ジェロームちゃん。ここにいたの」
1億オルエの賞金首、男色殺人鬼のリゼが現れたからだ。




