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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
36/43

慈悲の剣

 

 ウラルの森炎上から一夜明け、俺達は旅館近くの砂浜にいる。

 勿論、海水浴じゃない。

 場所を変えて、クラスマッチへ向けての特訓は継続だ。

 俺とセリーンも、皆と一緒にいる。

 理由は当然、指名手配犯どもが島の何処かにいるからだ。

 単独、もしくは少人数での行動は駄目って事だな。

 まぁ、昨日バリバリ単独行動したけど。

 昨日はあれから、こっそり旅館に帰った。

 またまたリリスが尋常じゃない手際の良さで浴衣を手に入れてきてくれたから、特に問題はなかった。

 ウラルの森は、ほぼ全焼。

 島中が大騒ぎだったけど、奴等の隠れる場所が無くなったと思えば良かったんじゃない?

 ポジティブにいこうぜ!

 

「はっ! 」

「ぶっ! 」


 俺が眼を閉じウンウン頷いていると、セリーンから顔面に水弾をぶちかまされた。

 だいぶん威力上がってきたんじゃないかな……。


「キシシ。何してんだ? お前ら」

「あっ、ラフィーちゃん、オフィーちゃん」


 セリーンの元にちっこい女が2人寄る。

 ラフォリア・エルズベリーとオフィリア・エルズベリーのエルズベリー姉妹だ。

 セリーンもちっこいが、この双子はもっとちっこい。

 ラフォリアは銀髪、オフィリアは金髪でどっちもツインテール。

 笑いかたが変なのが、姉のラフォリアだ。

 妹のオフィリアはベイによると天然ちゃんらしい。


「ギルクリストをシバいてんのか? やるじゃねえか。キシシ」

「セリーンちゃん、スゴい! 強いんだね! 」

「ち、違いますよっ! 特訓に付き合ってもらってるんです! 」

「特訓? それなら、このオフィリアちゃんがやってやるぜ。キシシ」

「私もやる! 」

「えぇ!? 」

「良いだろ? ギルクリスト。セリーン借りるぜ。キシシ」

「好きにすれば……」

「だとよ。行こうぜ、キシシッ! 」

「ゴーゴー! 」

「えっ、ちょっと待っ……! ニコラス君~! 」


 エルズベリー姉妹に連行されるセリーン。

 何処行く気だよ……。


「やれやれ」


 ぼっちと化した俺は、ベイを探す。

 しかしアイツは真面目腐った顔をして、先生と話し込んでる。

 ウィルヘルミナやエミリオも空いてない。

 となると……


「ニ~コ君! 」


 こいつしかいねえ。


「何だよリリス……」

「冷たいですねぇ」


 後ろから抱きついてきたリリスは、俺の髪を指で弄る。


「おい、やめろ」

「今日も行くんですかぁ? 」


 髪を弄るのをやめずにリリスが言う。


「行くけど……。今日も着いてくる気かよ? 」

「それはそうですよう」

「なら今から行くぞ。暇になったし」

「抜けれますかねぇ? 」

「大丈夫だろ。フェルガス先生なんかめっちゃベイと話し込んでるし」


 俺の視線の先にはフェルガス先生とベイ。

 先生は身ぶり手振りで何かを説明している。

 先生っぽいところを初めて見た気がするぜ。


「ほら。行くぞ」

「はぁい」


 俺達はこっそりと皆から離れる。

 砂浜から旅館に戻り、林道を歩き中心街を目指す。

 だが、その途中で倒れこんでいる数人の男を見た。


「おいおい。騎士団じゃねえか」


 倒れていたのは騎士団の団員達。

 全員、白目を剥き涎を垂らしている。


「普通じゃねえな……」

「心臓は完全に止まってますねぇ」


 何でもないように言うリリス。

 こういうのには、やはり慣れてるんだろうか。


「昨日の奴か? 」

「どうですかねぇ」


「何をしているのですか? 」


 団員達の死体を観察している俺達の背後から突然声が聞こえる。

 慌てて振り向くと、団服を着た優男風の奴が立っていた。

 白い長髪に、白い瞳。

 神秘的な雰囲気を漂わせるその男は、俺達の後ろにある団員達の死体を見て、表情を少しだけ変える。


「それは……」

「い、言っとくけど俺達じゃねえぞ! 今見つけたんだ! 」

「……そうですか」


 俺には視線を向けずに言う男。

 まぁ、普通に考えて指名手配犯どもが潜んでる現状で俺が疑われる事は無いと思うが。


「アンタ……騎士団の人間か? 俺と年変わらない様に見えるんだが」


 俺がそう言うと、男は純白の瞳を俺に向ける。

 やっぱり、同い年くらいに見えるな。


「失礼しました。私はスティーヴィ・スティーヴンス。王立十二聖剣騎士団第三隊トリストラム隊隊長です。歳は14。以後お見知りおきを」

「隊長!? 14でか!? 年下じゃん! 」

「騎士団の隊長は聖剣に選ばれた人しかなれないんですよぉ。逆に言えば聖剣にさえ選ばれれば年齢とかは関係ありませぇん」

「その通りです」

「な、なるほど」

「貴方がたは? 」

「ハイバリーの生徒だよ。合宿で来てんだ」

「ハイバリーの。そうでしたか」

「俺はニコラス。こっちはリリスだ」

「どうもぉ」

「んで、指名手配犯どもの方はどうなってる? 」

「まだ捕らえていませんが……。何故です? 」

「俺が捕まえるからだよ」


 俺がそう言うとスティーヴンスは眉をピクリと動かす。


「言って良いんですかぁ? 」

「年下だからな」


 我ながら謎理論だが、まぁ良い。


「何を馬鹿な事を……。ハイバリーの人間とはいえ学生でしょう」

「歳はお前より上だ」

「私は聖剣に選ばれた騎士の1人です。普通の人間とは違いますので」

「俺も普通とは違う」

「話が通じないようですね」

「そうか? じゃあどっちが強いか試してみるかよ? 」


 一触即発の空気。

 俺は右手を構え、奴は腰に差した白銀の剣に手をかける。

 しかし、そこに……


「隊長! 」


 団員達が数人、慌てた様子でやって来た。


「どうしました? 」

「ハキーム・スターリングが現れました! 」


 それを聞いたスティーヴンスは手を引っ込め団員達を従え駆け出す。

 俺もそれに着いて行く。


「貴方は帰ってください」

「嫌だね」


 スティーヴンスは俺を軽く睨むが、諦めた様にスピードを上げる。







 しばらく走ると拓けた場所に出る。

 そこには団員達と、浮浪者のような格好をした1人の男がいた。


「あん? 増援かよ? 」


 その男は俺達を見て、面倒くさそうに言い顔をしかめる。


「スターリング兄弟の弟、ハキーム・スターリングですね」

「だったら何だよ? 」

「貴方を捕らえます」

「ハッ! 」


 スティーヴンスの言葉と同時に団員達が男に突っ込む。

 しかし男は棒立ちのまま動かない。


「死ね」


 団員達が寸前まで迫って来た所で男が呟く。

 その瞬間、男の両の瞳が緑色の輝きを放つ。

 すると、団員達が頭を抱えて跪き、悲鳴をあげる。


「何だ? 」

「こっちも魔眼みたいですねぇ」


 隣のリリスが呑気に呟く。

 緊張感ねぇな~、こいつ。


「部下を見捨てんのかよ? 」


 俺の問いはスティーヴンスに。

 しかし奴は何も答えず、真っ直ぐに男を見つめている。

 しばらくして団員達は悲鳴をあげるのをやめ、身体をピクピクと痙攣させながら倒れ、白目を剥き涎を垂らしている。

 さっきのをやったのもこいつか。


「次はてめえらだ」

「上等だぜ」


 俺は1歩踏み出す。

 男は瞳を輝かせたまま、俺を見据えている。


「迂闊に近づかない方が良いですよ」

「ご忠告どうもぉ! 」


 俺は男目掛けて駆け出す。

 右拳を握り、振りかぶる。

 だが奴の瞳を見た瞬間、脳内に様々な映像と音声が流れ出す。


「なんっ!? 」


 たまらず頭を抱える。

 頭の中に断末魔が響き渡り、血飛沫が飛び散る映像が流れる。


「くそっ! 」


 頭がガンガンする。

 吐き気もしてきた。


「これが俺の眼の力だ! 」

「魔眼か……」

「そうだ。名は“死想の魔眼(メメント・モリ)。俺の瞳を見た奴にありとあらゆる死の記憶を見させて精神を破壊し心を灼き切る」


 ベラベラと自分の能力を喋るハキーム・スターリング。

 シリウスといいこいつといい勝ちが確定した訳でも無いのに喋り過ぎだろ。


「数秒もすれば廃人……」

「がぁぁぁぁぁっ! 」

「ぶっ!? 」


 脳内に映し出される映像と響き渡る声を振り払う様に叫び、拳を振るう。

 それはハキームの顔面にヒットし、奴は吹き飛ぶ。


「な、何で……! 」

「小賢しい真似しやがって! 」

「がっ! 」


 蹴り、殴り、攻撃を加え続ける。

 とどめの1発を刺そうとしたところで、スティーヴンスに止められた。


「もう良いでしょう」



 肩を引かれ、振り向く。

 スティーヴンスは俺の前に出ると、剣を抜く。

 鋒の無い不思議な剣だ。


「何だそりゃ? そんなんで何を斬ろうってんだよ? 」

「何も斬りませんよ」


 スティーヴンスはそう言うと、ハキームに近寄る。

 ハキームは息も絶え絶えといった感じで這いつくばってる。

 スティーヴンスはそのハキームに、剣を突き刺す。


「おい、何して……! 」


 止めようとしたが、途中で止めた。

 鋒の無いその剣はまるで沈みこむ様にハキームを貫いた。

 出血は無く、ハキームも何のリアクションも示さない。


「何をしたんだ? 」


 俺の問いに答えず、剣を鞘に収めるスティーヴンス。

 瞳はハキームに向けたまま。

 そこで突然、ハキームが顔を上げた。

 緑色に輝くハキームの瞳と、スティーヴンスの純白の瞳が交錯する。

 次の瞬間にはスティーヴンスは頭を抱えて呻く筈だが、何も起こらない。


「な、何だ!? 」


 宛が外れた様に叫ぶハキーム。

 スティーヴンスは再び剣を抜く。


「この剣の名は慈悲剣(カーテナ)。これによって貫かれた者は物理的にも精神的にも他者を傷つける事は出来なくなります」

「な……に……? 」

「つまり貴方にはもう攻撃能力は無いということです」

「な……がっ! 」


 スティーヴンスは狼狽するハキームの頭を剣の柄で殴り付けて意識を刈る。

 これで1人目を確保って訳だ。


「言っとくが倒したのは殆ど俺だから、懸賞金は貰うぜ」

「……お好きにどうぞ」


 溜め息を吐き、スティーヴンスは俺に向き直る。


「よし。んじゃ、後2人だ。行くぞリリス。次は昨日の放火野郎にするか」

「次はありませんよ……」

「は? 何言って……」


 背を向け歩き出す俺に、スティーヴンスがそんな事を言う。

 振り向くと、ちょうどのタイミングで腹を剣で貫かれた。


「は? 」

「これで戦闘は不可能です。大人しく帰ってください」

「は? 」

「残りの2人を捕らえたら、能力を解除します。申し訳ありませんが、それまではご辛抱を」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 」










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