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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
35/43

魔眼

 

「ここか……」


 中心街を抜け、ウラルの森の入り口に着いた。

 辺りはもう完全に暗闇に染まっている。

 だが森からは、かなりの数の人の気配がする。

 騎士団だろう。


「どうするかな。遭遇したら面倒だ」

「団服を奪えば良いんじゃないですかぁ?  」


 さらっと野蛮な提案をするリリス。

 まぁ、それぐらいしか手は無いが……


「俺はともかく、お前は絶対にバレるわ。ピンク色の髪した奴なんていねえだろ」

「暗いからその位はどうにかなりますって」


 言いながら、森に入って行くリリス。

 俺は溜め息をつきながら、後を追い掛ける。

 時間差は殆ど無かった筈だが、リリスの姿が見当たらない。


「は? おい! リリス何処だ?! 」

「大きい声出したらダメですよう」


 焦る俺とは反対の呑気な態度で、茂みからリリスが現れる。

 両手には騎士団の純白の団服。


「奪ってきましたぁ。はい、どうぞぉ」

「……速すぎだろ」

「暗部組織を舐めないで下さぁい」

「殺してないよな? 」

「勿論ですよぉ。気絶させただけですぅ」

「そうか」


 俺はリリスに言葉を返しながら、素早く浴衣から団服に着替える。

 浴衣は茂みに隠しとくか。


「女の子の前でよく平然と着替えられますねぇ」

「お前はそういうの気にするタイプじゃねえだろ。どう見ても」

「何ですかぁ、それ。まぁ、別に良いですけどぉ。私も着替えるので向こう向いてて下さぁい」

「暗くて見えんぞ」

「良いから、向いてて下さい」

「……分かったよ」


 仕方無く、リリスに背を向ける。

 しばらくすると、しゅるしゅるっという音がする。


「良いですよぉ」


 その言葉を聞き、振り返る。


「だぼだぼだな」

「それは、まぁ……」


 奪ったのは男のだろう。

 裾も袖も余りきってる。

 騎士団には女性もいる筈だが……まぁ、どうでも良い。


「んじゃ、行くか。獲物は目と鼻の先だぜ」

「はぁい」


 団員に成り済ました俺達は、森を進んで行く。

 森には団員達がうじゃうじゃいる。

 手に松明を持ち、捜索をしている。


「お前達、松明はどうした? 」


 松明を持ってない俺達は当然、そんな声を掛けられる。


「あぁ。すいません。忘れました」


 リリスを見られない様に、前に出て答える。


「仕方無いな」


 団員はそう言うと、木の枝を折り火を点けた。


「ほら」

「ありがとうございます」


 それを受け取り、礼を言ってから素早く離れた。


「てめぇ、松明も奪っとけよ」

「襲った際に消えちゃいましたぁ」


 舌を出して可愛らしく言うリリス。

 どんな襲い方したんだよ……。


「さて、どこら辺にいんのかねえ」

「うわぁぁぁ! 」


 森を彷徨いていると、数人の叫び声が聞こえた。

 俺とリリスはすぐさま、その声の元へと行く。

 周辺にいた他の団員達も皆だ。


「どうした! っ!? 」


 俺達が駆けつけた場所に居たのは、火だるまになっている団員達。

 そして、そこに佇む1人の男だ。


「貴様! 何者だ! 」


 団員の1人が剣を抜き、叫ぶ。

 だが男は全く動じず、不敵な笑みを浮かべている。


「何者だだぁ? てめぇらが探してる者だよ」

「貴様……ジェローム・スターリングか! 」

「ご名答」


 団員が男に差し向けた松明で顔が見える。

 確かに手配書にあった顔だ。


「かくれんぼにも飽きたからよぉ、出てきてやったぜ」

「良い度胸だ! 」


 団員の1人が斬りかかる。


「雑魚が、喚くなよ」


 団員が片手に持っていた松明が突然激しく燃え上がり、団員の身体を包んだ。


「なっ!? がっあぁぁぁぁ! 」


 炎に包まれ、悶える団員。


「くそっ! 何をした! 」

「さぁな」


 他の松明も次々と燃え盛っていく。


「ちっ! 」


 俺は松明を投げ捨てる。

 地面に落ちた後で激しく燃え上がる。


「ベイと同じ炎従魔術か? 」


 あれなら、今みたいな芸当が出来る筈だ。

 だがそれは、隣に立つリリスに否定された。


「あれは多分、魔眼です。炎の燃え上がる前に、瞳が輝きを放ってましたから」

「魔眼? 」


 魔眼ってのはその名の通り、魔術を宿した目だ。

 存在は知ってるが、目の当たりにするのは初めてだ。


「炎を操る魔眼か? 」

「そこまでは流石にぃ」

「ハッハッハ! 死ね雑魚ども! 」


 男が叫ぶと、炎が更に激しく燃え上がる。

 それは木に燃え移り、急速に広がっていく。


「こいつ、森を焼き払うつもりかよ? 」

「かもしれませんねぇ! 一旦引きましょう! 」

「ちっ! 」


 大金を目の当たりに逃げるのは勿体無いが、状況判断が出来ない程馬鹿じゃ無い。

 どの道これじゃあ騎士団も引き上げるだろう。


「行くぞリリス! 」

「わっ! 」


 リリスを片手で抱き抱え、緑糸を展開。

 まだ炎の移ってない木にくっつけ、飛び移る。

 そこかはまた別の木にくっつけ、木から木へと移動して、炎から逃れる。


「わーお! 何だか楽しいでぇす! 」

「遊んでんじゃねえんだぞ! 」


 呑気にはしゃぐリリスに渇を入れながら、飛び移り続ける。

 そしてやっと森の外に出る。

 外から森を見渡すと、ある場所からもくもくと煙が上がっている。


「大丈夫か? あれ」

「まぁ、水属性の人とかいるでしょう」


 完全に他人事といった感じでリリスが言う。


「で、どうします? 」

「今日は帰ろう……」


 そろそろ飯の時間だろうしな。


「それは良いですけど服はどうするんですかぁ? 浴衣、森の中ですけどぉ」

「あ……」


 すっかり忘れていた。

 俺らがいる場所は入って来た場所とは違う。

 戻るのは面倒だ。


「何とかなんだろ……。何とか」

「はぁ……」


 俺の返答にわざとらしく溜め息をつき、歩き出すリリス。


「ちょ待てよ! 」


 俺はそれを追い掛ける。

 森からは炎の燃える不気味な音が聞こえてきていた。



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