情報ゲットだぜ!
クラスメート達が風呂に入り始めている頃、俺とリリスはこっそりと旅館を抜け出した。
2人同時だと目立つので、時間差で。
まるで秘密の恋人達の逢い引きみたいだが、生憎そんなロマンチックなもんじゃあ無い。
何せ今から凶悪犯罪者をとっ捕まえに行くんだからな。
「誰にも見られてねえよな? 」
「大丈夫でーす」
全く大丈夫な気がしないユルい返事に軽くイラっとくるが、仕方無い。
「そうか。んじゃ行くぞ。先ずは情報を集めねえと」
島は広い。
宛も無しに探し回ってたら、騎士団が先に捕まえるだろう。
「それにしても、わざわざ犯罪者を捕まえに行くなんて、そんなお金に困ってるんですかぁ? 」
歩き出す俺の後ろをてくてく歩くリリスがそう言う。
「だから金じゃ無えって言ってんだろ!? 正義の為だ! 」
「そういうのはもう良いんでぇ。ちゃんと答えて下さぁい。何でそんなお金が必要なんですかぁ? セ~イ? 」
ぐっ!
「……定職に就かずに生きていける様に」
「うわぁ……。真性のダメ人間ですね」
このアマ……。
「言っておくが、仮にお前が犯罪者を倒したとしても金は俺が貰うからな」
「どうぞお好きにぃ」
心底呆れた様に言うリリス。
気に食わねえぜ。
俺とリリスは再び中心街にやって来た。
もう夜になり始めてるが、中心街は賑やかだ。
そしてやはり、騎士団の団員達もいる。
「あれはトリストラム隊ですね」
「トリストラム隊? 確か第三隊か? 」
「そうですよぉ」
「何で分かるんだよ? 」
俺の問いに、リリスは騎士団員の1人の肩を指差す。
そこには白い団服に縫い付けられた紋章の様な物があった。
形状は盾とスタンダードだが、紋様では無く、文章が書かれている。
トラフォード語じゃ無い。
「何語だ? 」
「ニタル語ですよぉ。訳すとぉ『天界よりの剣にて何人も傷付けず 和睦の世界で祝福の鐘を鳴らす者』ですねぇ」
「どういう意味だよ? 」
「知りませぇん。あれはその隊の理念みたいな物ですから。12の隊全部にそれぞれあって、それでどの隊か分かる様になってるんですよぉ」
「へぇ。じゃあ騎士団の奴等は皆ニタル語分かるのか」
「そもそもニタル語はこの国では、学校の必修科目なので大体の人は分かると思いますけどぉ」
「ま、まだ授業進んで無いし! 」
そういやニタル語の授業はエプスタインだったよな?
どうなるんだ?
まぁ、良いか。
今はそんな事考えてる場合じゃねえ。
そんな事を思ってると、リリスに指を差されている事に気付いたのか、団員達がこっちにやって来た。
マズい。
どうする。
逃げたら余計に怪しいし。
「君達、どうかしたのか? 」
俺があれこれ考えているうちにリリスが指差していた団員が声をかけてきた。
あぁ、もうっ!
「いやっ、この島で騎士団の人を見掛けるのは珍しいなぁ~と思って! はははっ! 」
精一杯の愛想笑いを浮かべて言う。
意外と効果はあった様で、訝しげな表情だった団員達の顔が和らぐ。
「あぁ。まだ知らないのかな? この島に指名手配犯が潜り込んでいてね。我々が捜索中なんだ」
「え~! 指名手配犯!? 嫌だぁ、リリス怖いよお兄ちゃぁん」
媚びた声を出して、リリスは俺の腕に抱きつく。
おい!
どう考えても兄妹設定は無理があるだろうがっ!
何処に兄貴黒髪、妹真っピンク髪の兄妹がいんだよ、このバカ女っ!
「君達は兄妹……なのか? 」
ほらぁ!
せっかく和らいでた雰囲気がまた変な感じになってきたじゃねえか!
「うん。でも血は繋がって無いの。この島にある旅館に捨てられてて、そこで一緒に育てられたの 」
おいおい。
とんだ嘘吐きだなこいつ。
旅館に捨てられてたって何だよ。
何で旅館に捨てんだよ。
てか、俺は割とガチで捨て子みたいなもんなんだけど?
無意識に人の心の傷抉るのやめてくんない?
「そうなのか……。大変だったね」
そして、この人達も何か涙ぐんでるしさぁ。
何なの。
こんな奴等に治安維持任せらんねーわ。
「あの~。それで指名手配は今何処に? その話聞いたら怖くなっちゃって。すぐ傍にいたらどうしようって」
「それなら心配無いよ。犯人達が潜伏してるのは、ウラルの森だから」
ウラルの森。
確か旅館のロビーにあった島の地図で見たな。
中心街を抜けた先にある馬鹿みたいに広い森だ。
「場所分かってるんですか? 」
「あぁ。目撃情報があってね。ほぼ間違い無いよ。僕達は万が一の時の為にこっちに待機してるんだ」
なるほどね。
良い情報を手に入れたが、急がないとマズいか?
「じゃあ、今日中に捕まえられそうですか? 」
「どうかなぁ? ウラルの森は広いからね。でも隊長がいるから心配無いよ」
隊長か。
敵対する様な事にはならないと思うが、邪魔くさいな。
「とりあえず、君達はもう帰りな」
「そうします。ありがとうございました」
情報提供に対する礼を言って、その場を離れる。
勿論、帰ったりなんてしない。
目指すはウラルの森だ。
「上手くいきましたねぇ」
「お前が兄妹設定ぶっ込んできた時はどうしたもんかと思ったがな」
「結果オーライですよう! 」
「ったく」
まぁ、確かに結果オーライだ。
だが別に、あの兄妹設定が役に立ったとは全く思えんが。
「とりあえずウラルの森に行くぞ」
「はぁーい! 」
元気よく手を上げ返事をするリリス。
すげぇ不安だぜ!




