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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
33/43

招かれざる客

 

 合宿3日目。

 俺は今、旅館の近くにある川で釣りをしてる。

 道具は旅館に借りた。

 え?

 特訓はどうしたかって?

 いや、してるよ?


「はぁっ! 」


 セリーンの声が響き渡り、水球が俺の顔面にぶち当たる。

 それはパシャっと弱々しい音を立て飛散する。

 全く痛くはない。

 俺の顔や髪、浴衣をただ濡らすだけだ。

 俺は言葉も発っさず、視線もセリーンに向けない。

 相当シュールな光景だと思う。

 事情を知らない人間が見たら、さぞ驚く事だろう。


「はぁっ! 」


 しかし、全然釣れねえ。

 魚いんのか?


「ふっ! 」


 まぁ、別に釣ってどうするって訳でも無いけど。


「ていぃっ! 」


 俺の顔に水球が幾つも飛んでくる。

 俺は立ち上がり、それを躱す。

 別に威力が強そうだったからじゃない。

 さっきまでのと大して変わらない。


「そろそろ昼飯だな」

「そ、そうですね……」


 セリーンは心底疲れたって感じでへたりこむ。

 これは中々に難儀なミッションだ。







「今日の残りは自由時間にする」


 昼飯が終わると、先生はそう言って足早に去っていった。

 皆は少しの間ポカンとしていたが、すぐにざわつき始めた。

 何処へ行くか、とか何をするか、とかそんな感じだ。

 俺はとりあえず、ベイ達についていくとしよう。

 本当はセリーンの特訓をやりたいところだが、当の本人は既に女子達と楽しげに計画を練っている。

 やれやれ。

 これじゃ、問題を抱えてるのは俺の方みたいじゃないか。


「ニ~コ君」


 背後から聞こえてきた可愛らしい声を聞いた瞬間、そう言えば自分も問題を抱えている事を思い出した。


「何だよ……リリス」

「自由時間、一緒に何処か行きません? 」


 それは他人からしたら、美少女にデートに誘われてる様に見えるだろう。

 だが、俺にとっては受け入れ難い命令だった。

 俺は命令されるのが好きじゃない。

 特にピンク色の髪をしてるとびっきりキュートな女の子にされるのは。


「嫌だ」

「何でですかぁ? 」


 特に怒った様子もなく尋ねてくるリリスに対し、俺は無言である場所を指差す。

 そこには、人殺しの目をしたベイ達がいた。


「あぁ~」


 それを見たリリスが納得したような声を挙げる。

 こいつにも理解できたらしい。

 ベイとその周りにいる連中は、リリスが編入してきた際に下らない事を口走っていた連中だ。

 俺がリリスと2人っきりのデート紛いの事をするのを黙って見過ごす訳がない。

 俺がイエスと答えたら、すぐさま襲いかかって来ただろう。


「なら、皆で行きません? 」


 リリスのその言葉に、野獣どもの顔は間抜けな草食動物の様な顔になる。


「え? マジ!? 」

「マジですよぉ」


 リリスは可愛らしく笑い、ベイ達は不細工なガッツポーズを決める。

 不細工なガッツポーズって何だよと思うかもしれないが、あまり深く考える必要は無い。

 とにかく、俺はベイ達+リリスと自由時間を過ごす事になった訳だ。

 そもそも、リリスが俺と一緒に過ごそうとしたのは監視の為であって、2人っきりである必要は無いからな。


「よっしゃ! んじゃ行こうぜ! 」


 勢い良く立ち上がるベイに続いて、俺も重い腰を上げた。







 ブリタニア島は円形の島で、外側に宿泊施設が集中している。

 理由は簡単。

 夏になると訪れる客は皆、ビーチで遊ぶ事を目的にしてるからだ。

 今はシーズンじゃないけどな。

 んで、それ以外の施設は島の中央に集中している。

 その名も中心街。

 まんまである。

 俺達は今、そこに来ている。

 というか、此処以外に行く場所は無いからな。

 前にアルバスに聞いていた通り、此処は世界中のあらゆる文化が混合してた。

 人種も様々で、民族衣装を着た人達がたくさんいる。

 ベイやリリス達ははしゃぎ回っている。

 それを見ていると、ある人物が目に入る。

 腰に剣を差した男。

 1人では無く、他にもいる。

 あれは……


「あれは騎士団か? 」


 俺が口を開く前に、隣にいたエミリオが言う。


「あぁ。だろうな」


 俺はそれに頷き、言葉を返す。

 騎士団ってのは、正式名称・王立十二聖剣騎士団っつー、治安機関兼軍隊だ。

 全部で12の部隊からなってて、トラフォード中に散らばってる。


「なぜ騎士団がここに? 」

「そりゃあ、何か事件でも起きたんだろうぜ」


 騎士団は立ち並ぶ店に入ってはすぐ出てを繰り返していた。

 手には紙の束。

 手配書か何かに違いない。

 騎士団が俺とエミリオの横を通る。

 その瞬間に緑糸を展開。

 輝きを極限まで抑え、紙にくっつけスッた。

 すぐさま浴衣の裾に隠し、連中が通り過ぎた後で手に取り、見る。


「おいおい」


 それを見たエミリオが呆れた様に言う。


「別に良いだろ? 場合によっちゃ捜査協力してやるつもりなんだぜ」


 エミリオにそう言い返して、紙に目を通す。

 やはり手配書だったが、普通のとはちょっと違う。

 普通の手配書は1枚につき1人だけ載ってるが、これには3人の犯罪者がまとめて載せてあった。


「前科107犯・リゼ。懸賞金1億オルエ。前科47犯・スターリング兄弟。懸賞金それぞれ3000万オルエ。って事は3人合わせて1億6000万オルエか。大物だな」


 俺の目はきっと金の形になってる筈だ。


「お前まさか捕まえに行く気か?

 」

「悪いか? 」

「馬鹿な真似はやめとけ。凶悪犯罪者だぞ。特にこのリゼって奴はな」

「知ってんのか? 」

「知らない方がおかしい。トラフォード全土で人を殺しまくってる殺人旅行者(マーダーツーリスト)だぞ。それも標的は俺達と同じぐらいの歳の男ばかりを狙った男色殺人鬼だ」

「げっ! これ男かよ!? 」


 俺はエミリオの言葉にギョッとして再び手配書に視線を落とす。

 手配書には顔しか写ってない。

 リゼって奴はどう見ても女だ。

 それも美人の部類。


「そうだよ。一時期かなり話題になってたがな」

「マジかよ……。こっちのスターリング兄弟とかいうのはどんな奴等だ? 」

「そいつらは知らんな」

「って事は最近の奴って事か」

「とにかく、下手な事はするなよ。お前がどれだけ強かろうとまだ学生なんだ。騎士団に任せておけ」


 エミリオはそう言って、先を歩く。

 俺は手配書をしまい、ついていく。

 そういや、ベイ達は何処行った?







 自由時間が終わり旅館に戻ると、先生によって広間に集められた。

 まぁ、察しはつく。


「え~。ちょっと大変な事になってる」


 面倒臭そうに口を開く先生。

 一方のクラスメート達は、その発言にざわつき出す。


「何かって言うとなぁ。ブリタニア島に3人の指名手配犯が紛れ込んでるらしい。島中が厳重警戒状態って訳だ。まぁ、ここは大丈夫だと思うが、一応気を付けろ。夜間外出は絶対に禁止。トイレとかで夜に部屋を出る時も、出来るだけ複数で行け。良いなぁ」


 先生はそう言うと、そそくさと出ていった。

 それと同時に広間が騒がしくなる。

 ヤバイとか怖いとか、そんな言葉が聞こえてくる。

 まぁ、無理も無いわな。


「何かやべぇ事になってんだな」


 言葉とは裏腹に呑気な態度のベイ。

 エミリオは既に知ってたから、普通だ。

 セリーンとウィルヘルミナは女子達と不安そうに会話をしている。

 大丈夫だよ、セリーン。

 君は俺が守るから。

 なんつって。

 死ぬほどクサくて寒い台詞を心の中で吐きながら広間を見渡すと、リリスが窓辺に立ち外を眺めていた。

 俺はそろっと近付き、うなじに息を吹き掛けてやった。


「ひゃうっ!? 」

「おっ! 可愛い反応」

「やぁん。何するんですかぁ」


 少し目を吊り上げて言うリリス。

 ただ、口元は笑ってる。


「お前何か知ってんのか? 」

「何をですか? 」

「島に来てる犯罪者どもの事だよ」

「いえ~。特にはぁ」

「何でだよ」


 こいつマジで協会の人間か?


「表に出てる犯罪者は管轄外ですしぃ」

「表ねぇ……」

「それに、協会は魔術師“管理”協会ですしぃ。捕らえられた後に尋問なりなんなりをするのは協会ですけどぉ、捕まえるのは騎士団の仕事でぇす」

「ふぅん」


 そうだとしても、情報くらいは持ってても良いと思うがな。

 まぁ、こいつ真面目に仕事してなさそうだし。


「今何か失礼な事考えてません? 」

「いや、別に」

「そうですかぁ? まぁ、 良いでぇす。それより、そんな事聞いて何するつもりですか? まさか捕まえに行くとか? 」

「そのつもりだけど? 」


 俺がそう言うと、リリスは呆れた様な顔をする。


「本気ですかぁ? 殺されちゃいますよぉ? 」

「それは無い。俺は銀河系最強の男だからな」


 リリスは溜め息を吐く。

 そして可哀想な奴を見る目で俺を見る。

 おいやめろ。


「大体、何の為にそんな事するんですかぁ? 」

「んなもん決まってんだろ? けんしょうき……正義の為だよ! 世の為人の為だ! 」

「懸賞金目当てですか」

「違う! 大いなる力には大いなる責任が伴うのだ! 俺が行かねばなるまい! 」

「はぁ。そうですかぁ」


 どうでも良さげなリリス。

 冷たいなぁ、こいつ。


「まぁ、とりあえずぅ。私もついていきますよぉ」

「は? マジ? 」

「監視ですしぃ」

「足引っ張んなよ? 」

「ご心配無くぅ。もしかしたらニコ君よりも強いかもしれませんよぉ? 」

「ほぉ。面白ぇ」


 まぁ、暗部組織だからな。

 雑魚じゃあ務まらねえだろ。

 俺より強いのは有り得ねえが。


「で、いつ行くんですかぁ? 」

「とりあえず、情報収集に行こうぜ。皆が風呂に入り出したら旅館を抜ける」

「分かりましたぁ」


 俺は窓から外を見る。

 空がオレンジ色に染まってきた。










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