恋バナと酔っぱらい
特訓も終わり、今は入浴タイム。
ベイと一緒に露天風呂にいる。
昨日ベイ達が壊した壁はもう直ってた。
仕事が早いねえ。
「いやぁ~。中々ハードでしたな」
肩を揉みながら言うベイ。
頭にはお馴染みシャンプーハット。
中の風呂に入れば良いのに。
「ニコの方はどうだったんだ? 」
「別に。普通だよ。俺は疲れる様な事何もしてねえ」
「ふぅん」
あれからも、セリーンの特訓は続いた。
相変わらず、俺には飛ばせるが威力が弱い。
あれじゃ街のチンピラにも勝てないだろうな。
ただ、初日だし。
後3日もありゃあ何とかなるだろう。
そんな楽観的な思考をしながら、空を見上げる。
空は分厚い雲に覆われていた。
「おい、ベイ。今日は月見えないぞ」
「え? マジ? 」
ベイがバッと空を見上げる。
こいつ一切疑わなかったな。
「いや~。これ邪魔だったんだよな」
言いながら、シャンプーハットを外す。
本当、中の風呂に入れば良いのに。
「さて、と。足枷……いや頭枷も外れたところで昨日のリベンジと行きますか」
「いや、それ言い直す必要無いだろ。てか、またやんのかよ! やめとけってマジで」
風呂から上がり、壁の元へ行こうとするベイを引き留める。
「離せニコ! 俺は行くんだよ、楽園へ! 」
「マジもんの楽園に送られるからやめとけって」
や、覗きして死ぬような奴は地獄行きだろうけど。
「ええい、やかましい! 男はなぁ、狼なんだよ! 」
「お前はマジで狼だろうが!……ってコレ言って欲しいだけだろ! 」
「ぶふっ!? 」
俺の手を振りほどこうとするベイを力尽くで風呂に沈める。
「ふぶぶぶぶっ!! んーっ! んーっ! 」
俺の手をタップするベイ。
押さえつけてる手を離す。
「ぶはっ! 殺す気かよ!? 」
「世の女性を守る為にはやむを得ない……」
「やかましいわ! いつからフェミニストになったんだよ! 」
「うるせえ。良いから、覗きはもうやめろ」
「ちぇっ。見たくないのかよ」
「お前ほどにはな」
昨日ばっちり見ましたし。
おほほほほ。
「もう上がろうぜ。そろそろ飯だ」
「へいへ~い」
不服そうなベイを連れて、風呂から上がる。
どんだけ覗きたいんだよ。
飯の時間は終わり、自由時間。
と言っても、皆特訓で疲れてるらしく、布団に寝そべってる。
「何か暇だな」
「そういう時にすることはただ1つ……」
ベイの呟きに、エミリオが反応する。
「おいおい。ピローファイトはやらねえぞ」
「違う。恋バナだ」
「恋バナァ? 何だよそれ」
「知らないのか? ニコラス。遅れてるな。そのまま、恋の話だよ」
「俺は知ってるぜ! 好きな人を言い合ったりするんだろ! 」
「へぇ」
正直あんまり興味無いな。
好きな人とかいねえし。
「俺はパトキス先生が好き! 」
クラスメートの1人が言う。
こいつ正気か?
「ウッソだろお前。ベイの惨劇を忘れたのかよ」
青ざめガタガタと震えるベイを横目に言う。
しかし、そいつは鼻息荒く、
「俺、ああいう冷たい女性が好きなんだよ! 足蹴にされたい! 罵られたい!」
そう言った。
うわぁ。
「ふむ。まぁ、好みは人それぞれだからな」
エミリオが真面目腐った顔で言う。
「エミリオはいねえのかよ? 」
「いないな。色恋沙汰にはあまり興味が無い」
「お前が恋バナしようって言ったよね? 」
こいつ、よく分からん奴だな。
「そう言うギルクリストはどうなんだ? 」
エミリオが言うと、視線が俺に集中する。
「へ? 俺? 」
「実力抜群でルックスも良い。さぞおモテになるんでしょうなぁ」
「選り取り見取りなんでしょうなぁ」
言いながら、ぐいぐい迫ってくる野郎共。
近いんだよ。
「別にんな事ねえよ」
「またまたぁ。今まで何人の女を泣かせてきたんだぁ? 」
「いや、だから……って、うわぁ! フェルガス先生っ! 」
いつの間にか現れたフェルガス先生に俺らは飛び退く。
先生は酒を片手に、ヘラヘラ笑ってる。
顔も赤い。
確実に酔ってるな。
「んな驚くなよぉ。ひっく! 」
「いや驚くでしょ。普通」
「でぇ? どうなんだよぉ、おい。ギルクリストォ」
「いや、だからそういう経験は特に無いっす」
「俺の見たところなぁ……フランドリッヒとルナホークはお前に気があるぞぉ」
先生のその言葉に、何人かが悲鳴の様な声を挙げる。
分かりやすい奴等だ。
「そうっすか? 普通の友達だと思いますけど」
「いや! 俺には分かる。分かるぞぉ。お前を見る2人の顔は完全に恋する乙女のソレだからなぁ。くぅ~っ! 罪な男! 」
バシバシと俺の肩を叩くフェルガス先生。
もう駄目だこの人。
完全に悪酔いしてる。
付き合ってられない。
俺はそう思い立ち上がる。
「おい、何処行くんだよぉ」
俺に手を伸ばす先生。
未だにトラウマに震えているベイを身代わりにするとしよう。
俺はベイを先生の元へ突き飛ばす。
「お! 何だぁ、ブレイディ。ガタガタ震えて。風邪かぁ? 風邪はなぁ、酒で治せ。酒で」
「んんんぅっ!? 」
ベイの口に酒瓶を突っ込む先生。
マジで教師失格だろ、この人。
「うげぇぇぇぇぇぇ!! 」
酒瓶を抜かれると同時に吐き出すベイ。
叫ぶエミリオ達。
笑う先生。
阿鼻叫喚の巷と化した部屋を、俺は静かに抜け出した。
ユーベ負けちゃいました。
残念。




