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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
30/43

手合わせ

 

「はぁっ! 」


 顔に向かって飛んでくる水弾を素手で弾く。


「俺に向かって撃てる様になったのは良いが、威力が弱すぎる。こんなんじゃ威嚇にもならないぞ」

「あぅ……」


 手をヒラヒラさせ水滴を飛ばす。

 セリーンは俺の言葉に落ち込んだ様に項垂れる。

 特訓を始めてから1時間程、俺に向かって撃てる様にはなったが、明らかに怪我を負わせないようにと手加減をしている。

 でもまぁ、良くなってはきた。


「はぁ……はぁ……」


 膝を押さえ、肩で息をするセリーン。

 大分、きつそうだな。


「一旦、休憩するか? 」

「お、お願いします……」


 そう言って、セリーンはへたり込む。

 俺は岩の上から飛び降りる。


「ちょっと、皆の方見てくるわ」

「はぃ……」


 俺の言葉に、か細い声で返すセリーン。

 何かもう死にそうだな……。







「やっとるかね~」


 セリーンを残し、クラスメート諸君が特訓をしてる場所にやって来た。

 俺とセリーンは旅館の裏の林の拓けた場所でやってたが、皆は旅館から離れた広場でやっている。


「何だギルクリスト。ルナホークはどうした? 」

「休憩中です。きつそうだったので」


 声をかけてきた先生に、そう返す。


「先生こそ、何も教えてない様に見えるんですけど」


 タバコ吸って、突っ立ってるし。


「いやぁ。皆優秀でな」


 何の感情もこもっていない様な声で言う先生。

 やる気あるのか?


「特にフランドリッヒ、ブレイディ、アルステッドはかなり優秀だな」


 視線を先生が見てる方向に向けると、ベイとエミリオが戦っていた。

 模擬戦か。

 ベイの周りには炎が渦巻いている。

 そういや、アイツは火属性だっけか。


「おらっ! 」


 ベイは渦巻く炎を集束し、炎弾にして放つ。

 シリウスのより遥かに大きい。

 一方のエミリオは、左手に水で出来た小さい弓を持ってる。

 エミリオは水属性みたいだ。


水弓(スイキュウ)十連(ジュウレン)


 その弓から水の矢が連射される。

 それは炎弾を穿ち、球体を崩す。

 しかし、炎はそこからまた集束し再構成。

 エミリオに向かって飛んでいく。


「何だあれ? 」


 思わず口に出してしまう。

 そのくらい、今のはおかしい。

 普通、魔力を変換して生成した物は最初の形を崩された時点で、力を失う。

 さっきのセリーンの水弾や、ハゲ兄弟の兄貴の方の蛇もそうだった。

 形が崩れた時点で、コントロールが効かなくなる訳だ。

 それなのに、今の炎弾は1度形が崩れたにも関わらず、そこから再び球体に戻った。


「ブレイディはな、炎従魔術の使い手だ」

「炎従魔術? 」


 先生の口から放たれた、聞き覚えの無い単語。

 まぁ、言葉の響きから何となくは分かる様な気がするが。


「炎従魔術ってのは従属魔術っていう魔術の中の1つでな。言ってみりゃ全能の操炎術だ。炎を文字通り自由自在に操れる

「全能の操炎術! そりゃ凄いっすね」

「炎で出来る事は何でも出来るし、鍛えれば色んな能力を持った炎を生成・操作する事が出来る」訳だ


 あいつ、そんな力まで持ってやがったのか。

 俺の視線の先では、ベイとエミリオが激しく戦いを続けている。


「んで、フランドリッヒだが……」


 先生の視線が別の場所に向く。

 その先にいたのは、悠然と立つウィルヘルミナと、汗だくで倒れこんでいる何人ものクラスメート達。


「あれ、全部ウィルヘルミナが? 」

「あぁ。ありゃ中々の化物だ。このクラスじゃあ、お前の次に強いだろうな」


 ウィルヘルミナを見てると、目が合う。

 すると、アイツはこっちにやって来た。


「ニコラス。君はセリーンの教官をやっているのでは? 」

「教官て……。今は休憩中だよ」

「そうか」


 ウィルヘルミナの右手には、銀色に輝く剣。

 剣士なのか。


「ならば、ちょうど良い。私と手合わせしてくれないか? 」

「えぇ? 」


 ウィルヘルミナからの突然の提案に顔をしかめた。

 だって面倒臭い。

 だが、俺の気持ちとは反対に周りは盛り上がる。

 いつの間にか、ベイとエミリオも戦いをやめて、こっちに来ていた。


「ニコ! 俺達の仇をとってくれ! 」


 叫ぶベイ。

 仇ってアレか。

 昨日の。

 それなら100%お前が悪いぞベイ。


「反省していないみたいだな? ベイ」

「ひぃっ! 」


 ウィルヘルミナに睨まれ、怯えるベイ。

 情けない奴め。


「それで、ニコラス。どうだ? 」


 ベイから視線を外し、剣を構えながら言うウィルヘルミナ。

 やる気満々ですやん。

 はぁ……。


「分かったよ……」







「はっ! 」

「おっと! 」


 凄まじい速度で振るわれるウィルヘルミナの剣を躱す。

 ちなみに、剣は模造剣だ。

 まぁ、当然だけどな。


「さすがに速いな! 」

「そっちこそ」


 繰り出される突きを躱し、蹴りを放つ。

 ウィルヘルミナはそれを屈んで避けると、下から剣を突きだしてくる。


「へっ! 」

「なっ!? 」


 俺はジャンプし、そのまま剣の鋒に片足で乗る。

 そして青糸を展開・集束し、真下に叩きつける。


「くっ! 」


 ウィルヘルミナは剣で俺を押し退け、回避。

 体勢を整え、低い姿勢で俺に詰め寄る。


蜂の巣突き(シュヴェルト・ビーネ)


 繰り出されるのは、無数の残像が見える程の超高速の突き。

 隙間なく繰り出されるそれを躱しきれる訳も無いので、青糸を編み盾状にして防ぐ。


「ぐっ! 」


 青糸の盾にぶつかる剣から鈍い音がする。

 強度は青糸の方が遥かに上だ。

 突きを繰り返せば、剣は使い物にならなくなる。

 それを悟ったのか、ウィルヘルミナは後退。

 だが、次の瞬間には俺の背後に。


「はっや! 」


 薙ぎ払う様に振るわれる剣を、身体を曲げて躱す。


「これでも当たらないのかっ! 」


 驚きと苦々しさが混じった様な声色のウィルヘルミナ。

 しかし、諦める事なく更に剣を振るってくる。


「ふっ! 」

「おっと」

「はぁっ! 」

「よっ」

「てあっ! 」

「ほっ」


 あらゆる方向・角度から振るわれる剣を躱し続ける。

 ウィルヘルミナの身体能力と体捌きは、俺の想像を遥かに越えて高いレベルにある。

 シリウスやエプスタインなんかとは比べ物にもならない。

 ……まぁ、それでも俺には当たらないんだけどね。


「くっ……! 」


 ウィルヘルミナが剣を降り下ろす。

 俺は横にでは無く、後ろに半歩退いて躱す。

 だが、これは悪手だった。

 ウィルヘルミナがふっと笑う。


燕返し(シュヴェルト・シュヴァルベ)


 下から上に、俺の喉元に向けて凄まじい速度で剣が迫る。

 模造剣とはいえ、喉なんかに当たれば結構なダメージだ。


「もらった! 」


 叫ぶウィルヘルミナ。

 だが……


「残念」

「―――っ!? 」


 剣は俺の喉元の手前で止まる。

 剣だけでは無く、ウィルヘルミナの身体も動きが完全に停止。

 その原因は、俺がウィルヘルミナと剣に巻き付けた青糸だ。

 これで雁字搦めにして、動きを封じ込めた。


「青糸は本来、拘束用だからな」

「いつの間に……」


 自分の身体を見るウィルヘルミナ。

 俺はそっと右手をウィルヘルミナの額にやり、


「ういっ」

「いつっ!? 」


 デコピンをかました。


「随分と可愛い反応だな? 」

「~っ! 」


 俺がからかうと、ウィルヘルミナは顔を真っ赤にする。

 可愛い奴め。


「とりあえず、俺の勝ちで良いよな? 」


 ウィルヘルミナが頷いたのを確認してから、青糸をほどく。

 すると、周囲からは歓声があがった。


「やっぱニコラス凄えわ! フランドリッヒに余裕勝ちかよ! 」

「さすがは我らが頼れるエース! 」


 ここぞとばかりに俺をヨイショする野郎共。

 まぁ、悪い気はしないがな。


「よくやったぞ、ニコ! 」


 腕を組み、ウンウンと頷きながら言うベイ。

 何で上からなんだよ。


「よ~し。もうすぐで昼飯の時間だぁ。旅館戻っぞ~」


 先生のその言葉で、俺を中心にして出来ていた人の輪はあっさり崩壊した。

 俺より飯の方がプライオリティ高いのかよ。

 そりゃそうか。


「ギルクリスト。ちゃんとルナホーク連れて来いよ」

「ういーす」


 先生ばりの気の抜けた返事をして、俺も皆に続く。

 セリーン……あいつ死んでないだろうな。


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