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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
3/43

入学初日

 

 入学式ってのは大概が学園長だとか生徒会長だとかが長ったらしい挨拶や歓迎のスピーチを述べたりするのが基本だが、それはこの学校も変わらないらしい。


 今現在、壇上には学園長の爺さんが話をしてる。

 名前は……忘れたな。

 名字は覚えてる。

 ヒル・ヘルシングだ。

 二十二大貴族の1つ、ヒル・ヘルシング家の現当主。

 歳は知らねえが、真っ白な髪と髭を見るに60くらいだろ。

 老人だが、えらくがたいがいい。

 後、声が馬鹿みたいにデカイ。

 耳を塞ぎたくなる様なデカイ声で、かったるい話をしてる。

 ふと、横に目をやるとベイがいる。

 教室と同じで、ここでも自由席だったからベイと隣り合ったんだが、こいつときたら席に着いてから1分もしない内に眠りこきやがった。

 そりゃ、フェルガス先生には寝てても起こしはしねえと言われたけどよ。

 いくらなんでも早すぎるだろう。

 そんな事を思ってると、学園長殿が話を終えた。

 学園長と入れ替わる様に、制服を着た男が壇上に上がる。


「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。僕はハイバリー魔術学校生徒会長のベルブラッド・ヒル・クロムウェルです」


 生徒会長殿か。

 この人も貴族……。

 まぁ、そりゃそうか。

 生徒会長殿が、やっぱりかったるい話をおっ始めたので、視線を壇上から反らす。

 ふと教員席に目をやると、フェルガス先生がうとうとしてた。

 そりゃ、生徒が寝てても起こせねえわな。

 俺は苦笑いをして、壇上に視線を戻す。

 美形の生徒会長殿が柔和な笑みを浮かべ、クソどうでもいい話をしてる。

 生徒会長殿からは何かもう「僕は貴族です」ってオーラが滲み出てる。

 正直、俺が一番苦手なタイプだ。

 そんな事を思いながら、じっと見つめてると、不意に目が合う。

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ、生徒会長はゾッとする程に冷たい笑みを浮かべた。


「ふぁ~」


 生徒会長を見る俺の横から間の抜けた声が聞こえる。

 ベイが起きたみたいだ。


「ん? どうした、ニコ? そんな眉間に皺寄せて。老け顔になるぞ」

「ほっとけ」


 ちょっとだけベイに顔を向ける。

 すぐに壇上に戻したが、生徒会長はさっきまでの人の良さそうな笑みを浮かべて他の場所を見てた。





 目を覚ましたベイと来賓のおっさんがカツラかどうか議論を交わしていると、いつの間にか入学式は終わりを迎えてた。

 その後は、教室に戻って簡単な自己紹介をやり、解散となった。

 俺やベイは寮で暮らす事になってる為、一緒に向かう。


「デケェ! 」

「お前の声の方がデケェ! って言ってほしいのか? 」

「いや、違ぇよ! 寮だよ寮! ホテルじゃん、これ! 」


 ベイが騒ぐように、確かに寮はデカイ。

 こいつの言う通り、寮と言うよりはホテルだ。


「学校が学校と言うより城なんだから、寮が寮と言うよりホテルでもおかしくねえだろ」

「いや、まぁ、うん、そうか……」


 何かブツブツ言ってるベイを置いて、寮に入る。

 中はマジでホテルのロビーだった。

 光輝く床に、純白の柱が立ち並び、天井にはシャンデリアがある。

 ピストリウス家にいた頃以来だぜ、シャンデリアなんて見るの……。


「おい、ニコ! 置いてくなよ……って、うおっ! 」


 少し遅れてベイが入ってくる。

 そして、すぐさま大袈裟なリアクションをとる。

 忙しい奴だ。


「とりあえず、部屋行こうぜ」


 俺は鍵を指でくるくる回しながら言う。

 フェルガス先生に渡されたやつだ。

 寮の部屋は相部屋で、誰と一緒になるかは自由だったので、当然の様に俺とベイは相部屋になった。


「どうやって行くんだ……? 」


 ベイの問いに俺は沈黙する。

 寮は外から見るに5階建てなんだが、何処を見渡しても階段は無い。

 奥に扉が1つあるが、アレじゃ無いだろう。

 俺らより先に来てた新入生が開けてたが、何か物置みたいな部屋だった。何でだよ。


「お~。やっぱ迷ってるみたいだなぁ~」


 俺ら迷える子羊達の元に、1人の男がやってくる。

 制服のネクタイが金だから3年だ。

 ハイバリーは学年ごとにネクタイの色が違ってて、3年は金、2年は銀、1年は赤になってる。


「俺は3年のフェリックス・クリューバーだ。よろしくな、新入生」

「どうも」


 とりあえず、そう返す。

 クリューバー先輩とやらは真っ赤な髪をしてて、全体的に派手だ。


「クリューバー先輩! どうやって部屋に行くんすか? 」


 ベイが馴れ馴れしく質問する。

 クリューバー先輩は笑って、制服の内ポケットから鍵を取り出す。

 自分の部屋の鍵だろう。

 鍵を俺がしてたみたいに、指でくるくる回しながら奥の扉に歩いて行く。

 俺達はそれについていく。


「この寮はな、空間魔術が施されてんだ」


 言いながら、扉の前に立つ。


「この扉は全ての部屋に通じてる。普段は物置だが、鍵を差し込むと、その鍵に対応する部屋に通じる」


 そう言って、自分の鍵を差し込む。

 そしてゆっくり、扉を開けた。


「おぉ……」


 誰かが、感嘆の声を漏らす。

 さっきまで確かに物置だった扉の向こうには、ホテルの一室の様な豪華な部屋が広がっていた。


「ま、こんな感じだ。出る時は、部屋の扉を開けばここに出る」


 クリューバー先輩は扉を閉め、鍵を抜き、振り返り言う。


「すげぇ! 」

「流石ハイバリー! 」


 皆が口々に感想を漏らす。

 だが、俺には疑問があった。


「クリューバー先輩。これって出る時に、同じタイミングで扉開けたらどうなるんすか? 」


 俺がそれをぶつけると、クリューバー先輩は「あぁ」と言って、俺に体を向ける。


「それが問題でな。同じタイミングで扉を開くと、部屋番号の若い順から先に出れる。1つの部屋の扉がここと繋がってる時は、他の部屋の扉は開かない」

「待ってなきゃいけないって事ですか? 」

「まぁ、そうだな。だから、朝とかは結構大変でな。後、たまに開けっ放しで行く奴もいてな。そういう時はもう窓から飛び降りるしかない」

「何か不便っすね……」

「まぁなぁ。学校側に改善を求めちゃいるんだが、寮にかけられてる空間魔術はかなり複雑なもんらしくてな。おまけに、術がかけられたのはハイバリーの創設時。つまり今からちょうど110年前になる。術者もこの世にいないし、どうしようも無いんだとさ」


 クリューバー先輩はそう言って、嘆息する。

 これは、窓から飛び降りるはめになった事がありますね……。


「まぁ、そういう訳だ。それ以外は何にも問題ないし、部屋も広くて綺麗だから我慢しろ。後、鍵は常に持ち歩けよ。じゃあな」


 そう言うと、クリューバー先輩は寮から出ていった。

 わざわざ、俺達に教える為だけに来てくれたのか?


「……んじゃ、行きますか? 」


 ベイが口を開く。

 皆が目を合わせる。

 このシステムだと、1人ずつーー正確には相部屋だから、2人ずつーー入らなくちゃならない。

 俺達は「お先にどうぞ」の大合唱を始めた。

 やれやれ、慎み深い国民性が出ちまったな……。




 あの後、数分に渡って美しき譲り合い精神を発揮してた俺達。

 そこに、2人の女がやって来た。

 どちらも、俺のクラスメート。

 その内の1人は良く覚えてる。

 ウィルヘルミナ・フォン・フランドリッヒ。

 アリアンツ帝国って国からの留学生だ。

 俺が「お先にどうぞ」って言ったら、「そうか。すまない」とか言ってさっさと行きやがった。

 普通、1回は断り入れんだろ?

 あん?

 全くアリアンツ人って奴はよぉ。

 俺とベイなんて来る奴来る奴、全部先に行かせて2時間くらいロビーにいたぞ。

 一旦寮から出ていったクリューバー先輩まで先に行かせたわ。

 慎み深すぎだろ。





「疲れた……」

「何かすげぇ無駄な時間過ごしたよな……」

「言うな。疲れが増す」


 俺達はようやく、自分の部屋に入り寛いでいた。

 部屋はかなり広い。

 ベッドが2つ並び、机も2つある。

 トイレもシャワールームも完備だ。

 そして、天井にはシャンデリア。

 やったぜ。


「明日から授業だよな」

「あぁ」


 俺とベイは貰った教科書を机に並べる。

 そこで、ベイが机に置いた写真立てが目に入った。

 それに飾られてる写真には、ベイと可愛らしい女の子が写ってる。


「お? 彼女か? 」

「違ぇよ。妹だ妹」


 俺が冷やかす様に言うと、ベイは早口でそう言う。

 妹か。

 言われれば、確かに似てる気がする。

 明るい茶色の髪とか、目もとも似てるな。


「俺も気になってる事があんだけど」

「あん? 何だよ? 」

「その右手。タトゥーか? 」


 ベイの視線は俺の右手の甲に。

 あぁ、これか……。


「まぁ、色々とあんだよ」

「何だそれ。答えになってねぇ」

「別に良いだろ。大したもんじゃねぇよ」


 俺はそう言って、ベッドに飛び込む。


「おい! 俺がそっちだぞ! 」


 ベイの野郎が言う。

 俺は仕方なくどいて、もう1つの方に移ってやった。

 どっちでも一緒だろうがよ。

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