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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
29/43

マンツーマン

 

 1夜明け、合宿2日目。

 昨日の件は、ウィルヘルミナからすぐさま先生と旅館に報告された。

 ベイ達はしこたま怒られたらしい。

 女将さんにな。

 フェルガス先生は怒りはしなかったらしいが、特訓メニューを当初の予定より倍ハードにするらしいとベイに聞いた。

 まぁ、自業自得だよな。

 それに特訓が倍厳しくなるって事は、倍強くなれるって事じゃん!

 ……そんな単純じゃないか。

 そもそも、俺に人の事をとやかく心配してる余裕は無い。

 何故なら俺は……


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 先生からセリーンの特訓を任されたからだ。


「どうした、セリーン。 もうギブアップか? 1発も当たって無いぞ」


 俺は大きな岩の上に胡座をかいて座り、手をくいくいっと動かす。


「はぁっ! 」


 セリーンのかざした両手から、水の砲弾が放たれる。

 俺は微動だにしない。

 砲弾は俺の顔面の右横すれすれを通過し、後ろの大木に当たりへし折った。

 俺は何もしていない。

 セリーンが外したんだ。


「大した威力だが……当たらなきゃ意味無いぞ? セリーン? 」

「はぁ……はぁ……すみま、せんっ」


 謝られてもな……。

 俺は右頬についた水滴を手で拭き取り、溜め息を吐く。

 たく、何で俺がこんな事を……。

 そう思いながら、朝にフェルガス先生と交わした会話を思い出す。








「俺がセリーンの特訓を? 」

「そうだ」


 朝食後、他の皆が特訓の準備をする為に部屋に戻る中、俺は先生に呼び止められていた。


「何で俺が? 」

「理由はいくつかあるが……。言わなきゃ駄目か? 」

「いや、そりゃそうでしょ。いきなりそんな事言われて、ハイ分かりましたは無理でしょ」


 俺が言うと、先生は溜め息を吐く。

 どんだけ面倒臭いんだよ。


「まず1つは、戦闘面に関してお前に教える事が特に無い事」


 指を1本立てて、先生は言う。

 まぁ、それは確かに。

 俺も今更特訓なんてやる気しない。


「んで、2つ目。お前を抜いて39人だが、これを1人で教えるのはキツい」

「いや、それは最初から分かってた事じゃ……」


 俺が意見すると、先生は立てた2本の指を振る。


「単純に戦闘技術の指導をするだけなら、まだ何とかなる。合宿は後4日あるからな」

「なら……」

「ただ、ルナホークはちょっと他の奴等と事情が違ってな。そう簡単じゃない」

「事情? 」

「あぁ」


 先生はタバコを取り出し、吸い始める。


「この前の実業授業で、魔力操作の小テストをやったろ? 」

「あぁ、やりましたね」


 俺は多分、1番駄目だったと思う……。


「ルナホークは1番、魔力操作が上手かった」

「マジすか? 」

「あぁ。それもB組の中でって話じゃない。1年全体の中でだ。全学年合わせてもトップクラスかもしれない」


 あのセリーンが。

 何か意外だ。


「魔力操作の技術は、魔術師にとって1番大事だ。前も言ったと思うが、魔術の発動には魔力を練り、結晶の様な塊にする必要がある」


 煙を吐き出し、先生は話を続ける。


「だが、その塊は出来た側から霧散していく。下級、中級なら特に問題無いが、詠唱が必須の上級魔術では魔力を練ってから発動してたんじゃ間に合わない」

「確かに」

「だから、上級魔術ってのは魔力を練る作業と詠唱を同時にやらなきゃならない。かなりの集中力と技術が必要だ。おまけに上級魔術は必要な魔力も多いから練るのにも時間がかかる」

「なるほど」

「これをどれだけ早く正確にやれるかが、魔力操作の上手い下手だ。下手な奴は一生上級魔術なんて使えない。少なくとも戦闘中にはな」

「つまり、セリーンはもう上級魔術を使えるって事ですか? 」

「そうだ。500番台前半くらいならもう使えるだろうなぁ」


 マジかよ。

 あいつ、凄いんじゃん。


「じゃあ、あいつも特訓なんて必要無いんじゃ」

「それがよぉ、致命的な問題があんのよ」

「致命的な問題? 」


 先生は吸い終わったタバコを灰皿にねじ込む。


「アイツはなぁ、人に攻撃が出来ないらしい」

「攻撃が出来ない? 」

「そうだ。1回、俺に魔術を当ててみろってやってみたんだが、1発も当てれなかった。俺はずっと棒立ちだったんだがな」

「何でまたそんな事に……」

「1番は性格だろうなぁ。優しく内気で臆病。戦いには向かんわな。後……」


 先生は一瞬、言うのを躊躇った様に見えた。


「親父さんの事もあるんだろう」


 セリーンの父親……。


「まぁ、そういう訳だから。頼んだぞ」

「いやいやいやいや」

「何だよ。まだ何かあんのかよ? 」

「俺がやる理由にはなってなく無いすか? 」

「なってるだろ。お前は特訓やる必要が無く暇。実力もあるし、ルナホークとも仲良いだろ? ほら、うってつけじゃねえか。よっしゃ、頼んだぞ! 」


 先生はそう言うと、俺の肩を叩き行ってしまった。







「しかし、こりゃ……予想以上だな」


 そんな感じで、セリーンの特訓に付き合う訳になったんだが、思ってた以上に大変な仕事みたいだ。

 かれこれ30分くらいやってるが、1発も当たって無い。

 俺はじっと座ってるっていうのに。


「はあっ! 」


 再び水弾が。

 しかし、また外れる。

 後ろを見ると、大木がいくつもへし折れている。


「これが環境破壊ってやつか……」

「す、すみませぇん……」


 本当に申し訳無さそうに言うセリーン。

 しんどそうに肩で息をしてる。


「なぁ、セリーン。俺ならこれくらい当たっても平気なんだ。ドーンとぶち当てろ」


 俺は何度もそう言うんだが、セリーンは申し訳無さそうに顔を俯かせるだけ。


「私は……将来、医療術師になりたいんです」


 小さな声でセリーンが語りだした。

 医療術師ってのは医療魔術を使って、怪我人や病人を治療する職業だ。

 まぁ、セリーンみたいな子にはぴったりの職業かもな。


「ハイバリーでは2年生になると、選択授業で医療魔術学の授業を受けれるので……」

「だから、ハイバリーに入学したのか」

「はい。私は人を癒す魔術師になりたいんです。人を傷付ける為に使うのは……」


 口ごもるセリーン。

 やっぱり、親父さんの事が影響してるんだろうか。

 だが、セリーンの言いたい事は分かった。


「医療術師か。良いんじゃないか。セリーンにはぴったりだと思うよ」

「ニコラス君っ! 」


 セリーンの顔がぱあっと明るくなる。

 ここで終わりたいとこだが、そういう訳にもいかないんだよなぁ。


「たださ、医療術師といえど魔術師なんだからさ。最低限の戦闘力はあった方が良いんじゃないか? ほら、何かと物騒な世の中だし」

「そう……ですよね」

「それに、セリーンには才能があるし。セリーンの魔力操作の技術は1年の中じゃ1番だって、フェルガス先生も言ってたしさ」

「え! そうなんですか!? 」


 驚くセリーン。

 先生言ってなかったのかよ。


「マジだよ。だから、な? 頑張ろうぜ。俺も最後まで付き合うからさ」

「は、はいっ! 頑張ります! 」


 おお!

 セリーンがやる気に満ちている。

 何だよ。

 これ言ってりゃ最初から上手くいってたんじゃないのか。


「はぁ! 」


 やる気満々のセリーンが放った水弾は、またしても俺には当たらず大木をへし折った。


「あ……う……」

「ま、まぁ、いきなりは無理だろ。うん。ゆっくりやって行こーぜ」

「は、はぃぃ……」


 俯き、消え入りそうな声で返事をするセリーン。

 やれやれ、先は長そうだな。

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