表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術学校の糸使い  作者: タカノ
合宿編
26/43

到着

 

「よ~し。全員揃ったなぁ」


 フェルガス先生の間の抜けた声が響く。

 ハイバリーに入学して初めての休日が終わった、週の始めの早朝。

 今から合宿地、ブリタニア島に出発だ。

 俺達B組は現在、荷物を持って中庭に集まっている。

 俺の目はさっきからセリーンに釘付けだ。

 いや、正確にはセリーンじゃ無く、セリーンの荷物。


「セリーン……お前、向こうに永住でもする気か? 」


 そう言いたくなるくらい大量の荷物を持っている。

 だが、当の本人は不思議そうに俺を見てる。


「何でですか? 」

「いや、何でもねえ」


 言っても意味無い。

 他人がとやかく言う事でも無いしな。


「お! 船が来たぞ、お前ら」


 不意にフェルガス先生が言う。

 は?

 船が来た?


 中庭が急に暗くなる。

 何事かと空を見上げると、船が落下して来ていた。


「うおおおおおっ!? 」


 俺達は慌てて逃げ出す。

 それによって空いたスペースにゆっくりと船が降り立った。


「よし! 行くぞ~。乗れ」

「いやいやいやいや! 」


 一斉につっこむ俺達。

 フェルガス先生は面倒臭そうに頭を掻く。


「船で行くとは言ったが、海を行くとは行ってない。今時の船は空を飛ぶんだよ。ほら乗れ」


 そんな馬鹿な……。

 俺達は先生の言葉に呆然となるが、仕方が無いので言われた通りに船に乗る。

 船内は……まぁ、普通の船だよ。

 特に言及すべき事は無い。


「お前ら席座れ。自由席だ」


 言われた通りに、並んだ座席に自由に座る。

 俺の隣は、やはりベイだ。


「紐があんだろ。それで自分を席に縛りつけろ」

「何でですか~? 」

「しないと死ぬぞ」


 何が起こるんだよ……。

 そう思いながらも言われた通りに、身体を紐で席に縛りつける。

 他の皆も、戸惑いながらもやってる。


「良いか。ブリタニア島まで普通に行ったら3日はかかる。今からそこに1時間で行くから。超スピードで」


 皆の顔が青ざめる。

 嫌な予感しかしねえ。


「んじゃ、出発だ! 」


 フェルガス先生が言うと同時に、船は一気に上昇する。

 そして一定の高さにまで上昇すると、凄まじいスピードで動き出した。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」

「はっはっはっ! 喋んなよ~舌噛むぞ~」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」








「はっ……はっ……。し、死ぬ」


 ブリタニア島に到着し、ヨロヨロと船から降りる。

 最悪な気分だ。

 吐きそう。


「キャンベル以外は全滅か」


 フェルガス先生の言葉で、リリスを見る。

 アイツは楽しそうに、周囲を見渡していた。

 何で平気なんだよ……。


「まずは、合宿の間お世話になる旅館に行くぞ」


 フェルガス先生はそう言って、歩き出す。


「旅館って何だ? 」

「さぁ? 知らね……うぷっ! 」


 旅館という聞き馴染みの無い言葉についてベイに訊ねるが、こいつも知らないらしい。

 おまけに満身創痍だ。

 ゲロを吐かれたら困るので、ちょっと離れとこ。

 薄情な俺はささっとベイから離れ、クラスメート達とフェルガス先生を追いかけた。








「これが旅館ってやつか……」


 たどり着いたのは、木造平屋の建物。

 鷲巣旅館って書いてある。


「旅館ってのは神州大和国(しんしゅうやまとこく)における宿泊施設の事だ。合宿の間は此処で寝泊まりする」


 先生の説明を聞きながら、中に入る。

 すると、従業員らしき女性達が跪いた状態で、俺達を迎えてくれた。

 神州ではこれが普通らしい。

 ちょっと、行ってみたくなったぜ。


「お部屋はこちらになります」


 従業員さんに部屋に案内される。

 男子全員同じ部屋だ。

 畳ってやつが敷かれた大部屋。

 20人が寝泊まりするには、まぁ十分だろう。


「よ~し。んじゃ、早速特訓に入るか! と言いたいとこだが……」


 ロビーでタバコを吸ってた先生がやって来た。


「まだ船酔いが治ってねえだろうから、今日は休め。特訓は明日からだ」


 そう言うなり、出ていく先生。

 もっとまともな行き方があったんじゃ無いですかね?

 俺達は恐らく皆同じ疑問を持っていたと思うが、あの先生はああいう人だ。

 しょうがないから、言われた通りにする。

 従業員さんに布団とやらの敷き方を習う。

 これが、寝床か。

 何か身体痛くなりそうだな……。

 部屋にぎっしり敷き詰められた布団に、クラスメート達は次々と倒れるようにして寝転ぶ。

 相当、移動がキツかったらしい。

 俺は正直もう治ったんだが、1人じゃする事が無い。

 ベイももう寝てるし……。


「俺も寝るか……」


 静まり返った部屋で独り言を漏らし、俺も布団に倒れた。








「おお~。これが温泉ってやつか! 」


 あれから結局、10時間くらい寝ていた俺達ハイバリー魔術学校1年B組。

 本当、何しに来たんだよ。


「おい! ニコ! テンション上げていこーぜ! へいへーい! 」

「うるせぇ……」


 すっかり元気になったベイが、全裸で騒いでる。

 普通だったらお縄だが、此処は脱衣場だ。

 だから、俺も全裸だ。

 正しく全裸だ。

 タオルを巻くなんて小賢しい真似はしていない。


「ニコ……お前、デケェな……」

「ふっ」


 驚愕に顔を染め言うベイに対し俺は微笑を浮かべて、浴場に向かう。

 スライド式の扉を開けると、湯気が襲ってきた。


「おい、待てよ……ぶっ! 」


 俺が扉を閉めると、ちょうどやって来たベイがぶつかった。


「何で閉めるんだよ! 」

「開けたら閉めろって書いてある」


 俺は扉の貼り紙を指差して言う。


「いや、そりゃそうだけどっ……! 」


 何か言いたげなベイを残し、まず体を洗いに行った。







「露天風呂か……。良いもんだ」


 体を洗い終えた俺は、中の風呂じゃ無く露天風呂に浸かっていた。

 熱いお湯と微かに冷たい夜風が合わさって、めちゃくちゃ気持ちいい。

 陽もすっかり落ち、代わりに真ん丸お月様が輝いている。


「外にも風呂があんのか~」


 俺より少し遅れてベイがやって来た。

 湯船に浸かり、空を見上げる。


「あっ! しまっ! 」

「ん? 」


 ベイが焦ったような声を出し、湯船に潜る。


「おい、何して……」

「くっそ! 遅かった! 」

「うおおおおおっ!? 」


 次の瞬間、湯船から狼が出てきた。

 何言ってるか分かんねーと思うが、俺も分からねぇ。


「な、何だ……! 」


 俺は咄嗟に赤糸を出す。

 夜だから、いつもより輝きが鮮明だ。

 それを見た狼は、両手を突き出してブンブン振る。


「馬鹿! ニコ! 俺だ俺! 」


 狼から発せられた声はベイのもの。

 何がどうなってるんだ……。


「俺の固有魔術(オリジナルズ)だよ!」

「あぁ……なるほど魔術か」


 やっと得心がいき、糸を引っ込める。


「《月の奴隷(ウェアウルフ)》って言ってな。月を見ると強制的に発動しちまうんだ。前にちょっと特殊って言ったろ? 」


 湯船に浸かりながら言う狼……じゃなくてベイ。

 何かめっちゃシュールだな。


「戻れねえのか? 」

「いや、戻るのは自由。また月見たらすぐ変身するけど」


 そう言うベイの体はあっという間に元に戻る。


「いや~、しかし裸で良かったぜ。これ何が困るって変身する時に服が破れんのよ。良かった~」

「不便な力だな」

「まぁな。これでも大分マシにはなってんだよ。昔は変身すると自我すら保てなかったからな」


 そう言うベイの顔に、仄かに影が差す。

 気になるが、聞かない方が良いよな絶対……。

 聞きたい欲求を必死で抑える俺。

 それをよそにベイはゆっくりと、湯船から上がる。


「やっぱ、中行くわ。ここだと、またうっかり月見ちゃうかもしれねえし」

「あ、おう」


 そう言ってベイは露天風呂から出て行った。

 1人残された俺は、ぼんやりと空を見上げる。

 真っ黒な空に、ベイのご主人様だけが輝いていた。



久し振りの執筆なので、変な所があるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ