良い奴
協会から出て、商店街をふらふら歩く。
時間帯的に、晩御飯の材料を買いにきた主婦などで賑わっている。
何か買って行こうかな。
そう思いポケットを漁るが、財布を忘れたみたいだ。
マジかよ……。
更に漁ると、100オルエあった。
ま、まぁ、パン1個くらいなら買えるっしょ……。
パン屋を探してると、1人の少女が目に入った。
手に綺麗なピンク色の花が入った籠を持って、道行く人に声をかけている。
服はボロボロ、声をかけられた人達は顔をしかめて少女を避けて行く。
この国では珍しくもなんとも無い光景だ。
どうでも良い。
そう思ってる筈なんだが、俺の足は勝手に少女の元に向かう。
「い、いくら? 」
声が震える。
情けない。
笑顔を作ってるつもりだが、酷い顔をしてそうな気がする。
現にこの子、ポカンとしてるし。
あぁ、やっちまった。
何してんだ、俺。
柄じゃねえだろ。
帰ろ。
そう思い、通り過ぎようとしたら、
「あっ! 1本100オルエです! 」
少女がそう叫んだ。
俺は立ち止まり、振り返る。
「じゃ、じゃあ1本……」
俺がそう言うと、少女はパアッと顔を輝かせて、花を1本差し出してくる。
俺は100オルエを渡し、それを受け取る。
「お花、お好きなんですか? 」
そう言われ、口ごもる。
正直、花なんて全く興味無い。
「そういう訳じゃ無いよ。この花の名前だって知らないんだ」
「この花はアルストロメリアと言うんです。花言葉は友情です」
「そうなんだ」
花をまじまじと見つめる。
そんな俺を見て、少女は笑う。
「何故、買ってくれたんですか? 」
またも、口ごもる。
自分ですら良く分からない。
「何でだろ。良い奴に……なりたかったのかも」
俺が言うと、少女はまたポカンとする。
俺は急に恥ずかしくなった。
「あ! いやっ、違っ! 何言ってんだ俺! 」
俺があたふたしてると、少女はにっこりと笑う。
「なら、なれましたね」
その1言で動きが止まる。
俺は少女を見つめる。
少女はにっこりと笑ったままだ。
「少なくとも私にとっては貴方は良い人です。お買い上げありがとうございました! それではっ! 」
少女はペコリと頭を下げて、また他の人に声をかけ始めた。
俺はしばらくそれを見つめ、歩き出した。
他にも買ってくれる人がいればいい。
そう、思いながら。
「ただいま」
「おう。お帰り」
寮の部屋に帰ると、ベッドに寝転び本を読んでるベイがいた。
「何処行ってたんだよ。いつの間にか消えやがって」
「ちょっと王都にな」
「王都ぉ? 何しに? 」
「色々」
「お前、いつもそれだな。まぁ、良いや。ところで、その花なんだ? 」
俺が右手に持っているアルストロメリアを指差すベイ。
「あぁ、王都で買ったんだよ」
「お前、花好きなのか? 」
「まぁな。アルストロメリアって言うんだぜ」
俺は自慢気に言う。
「へぇ~」
「花言葉は友情……お前にやるよ」
「えっ! マジかよ!? 」
「いらねえなら良いけど」
「いるいる! 」
ベイはバッと俺の手からアルストロメリアを取る。
おいおい。
もう少し丁重に扱えよな。
「まさか、ニコが花のプレゼントとはな」
ニヤニヤしながら言うベイ。
「うるせえ」
俺はそう言って、ベッドに倒れ込む。
「おい、飯食いに行こうぜ」
ベッドに倒れ込む前に言ってくれませんかね……。
「……そうだな。腹減った」
アルストロメリア買ったから、パン買えなかったしな。
まぁ、それに関しちゃ何の不満も後悔も無いけど。
俺は起き上がり、机の上に起きっぱなしだった財布を手に取る。
「奢ってやるよ。花のお礼になっ」
それを見たベイが言う。
「いいよ、そんなの。そんなつもりで渡した訳じゃねえ」
「分かってるよ。俺からのアルストロメリアだと思え」
「何だそれ」
思わず吹き出す。
ベイもつられて笑う。
「分かったよ。んじゃ、ご馳走になるわ」
「おう! へへっ」
俺達は部屋を出る。
アルストロメリア……買って良かったな。
たまには、こんな話も……。
ちょっとクサイかもしれませんが。




