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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
24/43

良い奴

 

 協会から出て、商店街をふらふら歩く。

 時間帯的に、晩御飯の材料を買いにきた主婦などで賑わっている。

 何か買って行こうかな。

 そう思いポケットを漁るが、財布を忘れたみたいだ。

 マジかよ……。

 更に漁ると、100オルエあった。

 ま、まぁ、パン1個くらいなら買えるっしょ……。

 パン屋を探してると、1人の少女が目に入った。

 手に綺麗なピンク色の花が入った籠を持って、道行く人に声をかけている。

 服はボロボロ、声をかけられた人達は顔をしかめて少女を避けて行く。

 この国では珍しくもなんとも無い光景だ。

 どうでも良い。

 そう思ってる筈なんだが、俺の足は勝手に少女の元に向かう。


「い、いくら? 」


 声が震える。

 情けない。

 笑顔を作ってるつもりだが、酷い顔をしてそうな気がする。

 現にこの子、ポカンとしてるし。

 あぁ、やっちまった。

 何してんだ、俺。

 柄じゃねえだろ。

 帰ろ。

 そう思い、通り過ぎようとしたら、


「あっ! 1本100オルエです! 」


 少女がそう叫んだ。

 俺は立ち止まり、振り返る。


「じゃ、じゃあ1本……」


 俺がそう言うと、少女はパアッと顔を輝かせて、花を1本差し出してくる。

 俺は100オルエを渡し、それを受け取る。


「お花、お好きなんですか? 」


 そう言われ、口ごもる。

 正直、花なんて全く興味無い。


「そういう訳じゃ無いよ。この花の名前だって知らないんだ」

「この花はアルストロメリアと言うんです。花言葉は友情です」

「そうなんだ」


 花をまじまじと見つめる。

 そんな俺を見て、少女は笑う。


「何故、買ってくれたんですか? 」


 またも、口ごもる。

 自分ですら良く分からない。


「何でだろ。良い奴に……なりたかったのかも」


 俺が言うと、少女はまたポカンとする。

 俺は急に恥ずかしくなった。


「あ! いやっ、違っ! 何言ってんだ俺! 」


 俺があたふたしてると、少女はにっこりと笑う。


「なら、なれましたね」


 その1言で動きが止まる。

 俺は少女を見つめる。

 少女はにっこりと笑ったままだ。


「少なくとも私にとっては貴方は良い人です。お買い上げありがとうございました! それではっ! 」


 少女はペコリと頭を下げて、また他の人に声をかけ始めた。

 俺はしばらくそれを見つめ、歩き出した。

 他にも買ってくれる人がいればいい。

 そう、思いながら。







「ただいま」

「おう。お帰り」


 寮の部屋に帰ると、ベッドに寝転び本を読んでるベイがいた。


「何処行ってたんだよ。いつの間にか消えやがって」

「ちょっと王都にな」

「王都ぉ? 何しに? 」

「色々」

「お前、いつもそれだな。まぁ、良いや。ところで、その花なんだ? 」


 俺が右手に持っているアルストロメリアを指差すベイ。


「あぁ、王都で買ったんだよ」

「お前、花好きなのか? 」

「まぁな。アルストロメリアって言うんだぜ」


 俺は自慢気に言う。


「へぇ~」

「花言葉は友情……お前にやるよ」

「えっ! マジかよ!? 」

「いらねえなら良いけど」

「いるいる! 」


 ベイはバッと俺の手からアルストロメリアを取る。

 おいおい。

 もう少し丁重に扱えよな。


「まさか、ニコが花のプレゼントとはな」


 ニヤニヤしながら言うベイ。


「うるせえ」


 俺はそう言って、ベッドに倒れ込む。


「おい、飯食いに行こうぜ」


 ベッドに倒れ込む前に言ってくれませんかね……。


「……そうだな。腹減った」


 アルストロメリア買ったから、パン買えなかったしな。

 まぁ、それに関しちゃ何の不満も後悔も無いけど。

 俺は起き上がり、机の上に起きっぱなしだった財布を手に取る。


「奢ってやるよ。花のお礼になっ」


 それを見たベイが言う。


「いいよ、そんなの。そんなつもりで渡した訳じゃねえ」

「分かってるよ。俺からのアルストロメリアだと思え」

「何だそれ」


 思わず吹き出す。

 ベイもつられて笑う。


「分かったよ。んじゃ、ご馳走になるわ」

「おう! へへっ」


 俺達は部屋を出る。

 アルストロメリア……買って良かったな。

たまには、こんな話も……。

ちょっとクサイかもしれませんが。

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