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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
23/43

魔術師管理協会

 

 決闘の翌日。

 俺は王都ウェンブリーに来ていた。

 学校が終わってから、そのまま歩いて。

 理由は1つ。

 協会に呼び出されたからだ。

 王都は全ての建物が白で統一されている。

 家はもちろん、中央通りに立ち並ぶ屋台まで白1色だ。

 その理由はただ1つ、王都の何処にいたってその姿を確認できる建物、王宮が白だからだ。

 距離感が狂いそうな程に巨大な白亜の城。

 ピストリウス家の屋敷もデカかったが、それとすら比べ物にならない。

 1度で良いから、あんな所に住んでみたいな……。

 そんな事を考えながら歩いていると、人にぶつかった。


「おっと! すいません」

「あぁ、いえ。こちらこそ」


 ぶつかったのは、男。

 俺と同い年くらいの、金髪の男だ。

 男はそのまま通り過ぎて行った。

 チラッと顔を見たけど、誰かに似てる様な……。

 まぁ、良いか。

 さっさと、協会行って帰ろう。







 協会までは結構歩く。

 王都は当然だが、かなり広い。

 ようやくたどり着いたのは、白い時計台。

 ここが魔術師管理協会だ。

 中に入り、受付嬢に用件を伝えると応接間に通された。

 ふかふかの黒いソファに座る。

 壁に飾られている絵画を眺めていると、男が入ってきた。

 高そうな黒いスーツを着た、長身の男。


「やぁ。ニコラス・ギルクリスト君」


 男はそう言って、テーブルを挟んだ向かいのソファに座る。

 長い黒髪をかきあげ、手に持った資料らしき物を見ている。


「私はグラハム・ヒル・ストライカー。ストライカー家の当主で、協会の異端審問機関のトップを務めている。今回の案件を担当する事になった。どうぞよろしく」


 ストライカーさんは手を差し出してきた。

 星の紋様が描かれた白い革手袋をしてるその手を、俺は握る。


「異端審問官すか……」

「まぁね。嫌な仕事だ。ストライカー家の当主が代々トップを務める事になっていてね。私も嫌々なんだ」


 ストライカーさんは言葉を返しながらも、視線と意識は資料に。


「会議は大紛糾だったよ。笑える程にね。大多数の意見は君を投獄するべきというものだった」


 投獄……。


「だが、そんな事が出来る筈も無い。何故なら君は犯罪者でも何でも無い。泉の破壊は犯罪などという法律は無いからね。当然だ。そんな事が出来る訳がないと、全ての魔術師が思っていたのだから」


 資料から俺に視線を移し、両手を広げながら語りだす。

 どこか、楽しそうだ。


「つまり現状、この国に君を正当に罰っする手段は無い。100年程前だったら問答無用で異端者として火刑だったろうがね」

「マジすか……」

「当然だろう。泉の破壊は魔術師にとって恐怖以外の何物でも無い。特に協会上層部に多い魔術に頼りきりの無能どもにはね」


 無能にアクセントを置くストライカーさん。

 何か辛辣な言い方だ。


「しかし、私は君を恐れてなどいない。むしろ歓迎さえするよ。世界すら変えられる力だ」


 満面の笑みを浮かべて、そう言う。


「異端審問官がそんな事言って良いんですか? 」

「良くは無いが……。言ったろう? 私は嫌々、この職に就いてる」

「……そうっすか。それで、俺の処遇は? 」


 俺が言うと、ストライカーさんは紙とペンを俺に渡す。


「まず、誓約書にサインして貰う。泉の破壊を2度と行わないとね。その誓約書には術がかけられており、誓約を破ると分かる仕組みになっている」


 俺はそれをじっと見つめる。


「これが、上層部が首を縦に降ったぎりぎりの妥協案だ。私は犯罪者の泉の破壊には使って良いのでは無いかと進言したが、却下されたよ。奴等はその力が行使される事自体が許せんらしい。保守的な人間の巣窟だ」


 正直、泉の破壊を禁止される事自体はどうでも良い。

 エプスタインだって、素直に敗けを認めてれば、あそこまでやりはしなかった。

 泉を破壊なんてしなくても、勝つ方法は他にも持ってる。

 だから、禁止されても別に困らない。

 ただ、一方的に俺だけが従わせられるのは何か嫌だ。


「見返りは無いんですか? 」

「何? 」

「俺に何かメリットは無いんでしょうか? 」


 そう言うと、ストライカーさんは笑い始めた。


「君は本当に面白いなっ。この状況でそんな事を言える人間は中々いないぞ」


 笑い終わると真面目な顔になり、俺を見据えてくる。


「何が望みだ? 金か? 」

「そうですね……ヒル・ピストリウス家の取り潰しとか」

「……ほう」


 ストライカーさんの口元がニヤリと歪む。


「また何故。何かピストリウス家に恨みでもあるのか? 」

「まぁ、色々と」

「ふむ……」


 顎に手を当て、考え込むストライカーさん。

 ダメ元で言ったが、意外と悪くない反応だ。


「それは少し難しいな……」


 と思ったら、やっぱ駄目だった。


「だが、考えておこう。それでは駄目かな? 」


 う~ん。

 まぁ、考えてくれるってのがどこまでの話か分からないが、良いか。

 そう思い、サインした。


「もう1つは君に監視がつく」

「監視? 」

「そうだ《穢れた番犬(ヘルハウンド)》という協会内の暗部組織があってね。そこの構成員が君の監視員としてハイバリーに編入する。明日にでもね」

「マジっすか……」


 思わずウヘェとなる。

 監視とか……。


「やめさせようと思ったんだがね。まぁ、普通にしていれば問題は無いさ」

「はぁ……」

「心配しなくて良い。少しの間の辛抱だ」

「少しの間? 」


 俺は問うが、ストライカーさんは答えず立ち上がる。


「あの……」

「君は鳥だ」

「は? 鳥? 」

「何物にも捕らわれず、自由に空を飛び回る鳥であるべきだ」


 ヤバイ。

 良く分からんが、何かヤバイ。


「私がいずれ解き放ってあげよう。この、トラフォード王国という鳥籠からね」

「……どういう意味ですか? 」

「いずれ分かるさ。今日はもう帰って構わないよ。時間を取らせてすまなかったね」


 早口で言うと、ストライカーさんはテーブルの上にあった資料を手に取り、扉に向かう。


「馬車を用意させようか? 」

「いや、大丈夫です」

「そうか。では、先に失礼させてもらうよ。忙しい身でね」


 そう言うと、ストライカーさんは笑顔を浮かべ出て行った。

 俺はソファに座ったまま、ボ~っと天井を見上げる。


「何か……胡散くせ……」



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