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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
22/43

酷い奴

 

「さて」


 どうするかな。

 正直やり過ぎた。

 感情に身を任せるってのは、こういう事を言うんだろうか。

 とりあえず、今の話は観客席には聞こえて無い筈だ。

 最後の方は観客席も静まり返ってたが、エプスタインは半狂乱で喚いてたから聞き取れはしなかっただろう。

 すぐ側にいる俺ですら何とかって感じだったし。

 問題はうずくまり何事かをぶつぶつと呟いてるエプスタインと、こっちを無表情で見つめているヴラドさんだけだ。


「決着はついた様ですね」


 不意にヴラドさんが口を開く。

 そして、


「勝者、ニコラス・ギルクリスト」


 そう言った。

 全く声は張ってないが、闘技場は静まり返っている。

 ヴラドさんの声は全員に聞こえた筈だ。

 少し間をおき、歓声があがる。

 腕でも挙げて応えるべきなんだろうが、そんな気分じゃない。

 浅く息を吐き、何となくエヴァンジェリーナとシリウスの方を見た。

 エヴァンジェリーナは無表情。

 シリウスは顔を青くしてる。

 俺が勝つなんて思ってもなかったんだろうな。

 そこで、ある事に気づいた。

 2人の前にいた学長がいなくなっている。


「ふむ……」


 背後から声が聞こえ慌てて振り向くと、ヴラドさんの隣に学長がいた。

 どうなってるんだ?

 俺が疑問に思い見つめていると、目が合った。


「実に恐ろしい力だ」


 低い声で、学長は言う。

 ヴラドさんに話を聞いたらしい。

 いよいよヤバイ。


「これは私の手に余る。協会に報告させてもらう。良いね? 」


 協会。

 魔術師管理協会の事か。


「俺の処遇は……? 」

「協会次第だ。今日中に緊急会議が開かれるだろう。明日にでも呼び出される筈だ」

「それ次第って事ですか? 」

「そうなるな」


 俺は俯き、次に視線をエプスタインに移す。


「エプスタイン……先生は? 」

「魔術が使えないのだろう? 君がやった事だ。教師は続けられない。もっとも、彼が先程君にした発言を考えると、それが無くても懲戒処分だったが……」

「それじゃ、俺がした事は……」


 俺の言葉に学長は沈黙する。

 そして、俺から視線を外し、


「ヴラド。エプスタイン教諭の記憶を消せ。先ずは今日の分だけで良い」

「かしこまりました」


 ヴラドさんは、未だにぶつぶつと独り言を言っているエプスタインに近づき頭に触れる。


「全てを忘れたい夜

 指折りいくら待てど

 枯れた花は二度とは咲かぬ

 魔術教典592章《強制忘却(コーゲンス・オヴリウィオ)》」


 エプスタインの頭に触れたヴラドさんの指から、白光が迸る。

 すると、エプスタインは倒れ込んだ。

 意識を失ってるみたいだ。


「何を? 」

「今日1日分の記憶を消した。あのままでは精神が崩壊しかねん」


 精神崩壊。

 今更ながら自分のしでかした事の重大さを痛感する。

 学長は俺の肩にポンッと手を置き、去って行く。


「決闘はこれで終わりだー! 帰りなさーい! 」


 大きな声で叫ぶ学長。

 それによって、観客席にいる人達はぞろぞろと帰っていく。


「それでは」


 ヴラドさんはエプスタインを肩に担ぎ、学長の後を追って行った。

 俺は1人、舞台に佇む。

 そこに、1人の女がやって来た。

 エヴァンジェリーナだ。


「一体、何をしたの? 」


 口を開くなり、そう訊ねてくる。


「さぁ」


 俺は力無く答える。

 エヴァンジェリーナは不機嫌そうに眉をひそめる。


「世の中には本当に酷い奴ってのがいるもんだな」


 不意にそんな事を言う俺に、エヴァンジェリーナは訝しげな表情をする。


「私達の事を言っているのかしら? 」

「いや、俺の事だよ」

「どういう……」


 エヴァンジェリーナを横切り、出口へと歩く。


「待ちなさい! まだ話は終わってないわ! 」


 エヴァンジェリーナが叫ぶが、無視した。

 別に昔やられた仕返しって訳じゃない。

 俺には話なんて無いし。





 闘技場から出ると、ベイ達が待ってくれていた。

 フェルガス先生もいる。


「ニコっ! お前っ、やったじゃねえか! 凄えよ! おい! 」


 飛びついてくるベイ。

 やめろ。


「信じていたぞ、ニコラス」

「本当に良かったです~! 」


 ウィルヘルミナとセリーンは満面の笑み。

 何だか胸がチクチクする。


「おい、何だよニコ。しけた面して」

「あ、いや。ちょっと疲れてな……。激闘だったからな」

「何が激闘だよ、無傷のくせに! このこの~」


 肘で小突いてくるベイ。

 だから、やめろ。


「まぁ、何はともあれ、俺の給料は守られた。良くやったギルクリスト。褒めてやる」

「どうも……」


 タバコをスパスパしながらフェルガス先生は言う。


「しかし、最後ら辺のあれは何だったんだ? 」


 ビクッとなる。

 何て答えようか。


「いや、まぁ、色々とありまして」


 口を突くのは、そんな言葉。

 さっきの事といい、自分の頭の悪さが嫌になる。


「ふぅん……」


 フェルガス先生の眼光が一瞬、鋭くなる。

 だが、次の瞬間にはいつも通りの眠たげな目に戻る。


「まぁ、良い。疲れたろ。帰って良く寝ろ」

「はい。そうします」

「え~! 祝勝会やろうぜ! 祝勝会! 」

「悪いベイ。マジで疲れてんだ」

「え~……」

「ベイ。ニコラスがそう言ってるんだ。もう帰ろう」

「そうですよっ。無理強いは駄目ですっ」

「分かったよ……」

「悪いな」


 俺はそう言って、早足で歩く。

 何かから、逃げる様に。



何だか疲れたので、いつも以上に雑になってしまいました。

次は大事なとこなので頑張りたいと思います。


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