vs.エプスタイン Ⅱ 万象切断の赤き糸
「おっと! 」
飛び出してきた鉄柱を切り刻む。
鉄柱はバラバラに。
しかし、いつまた飛んでくるか分からん。
意識を研ぎ澄ませる。
「ふむ。この程度では駄目か……」
エプスタインが呟くと、再び鉄柱が地面から射出。
再び切り刻むが、何だか違和感がある。
「まだか」
また鉄柱。
同じように切り刻むが……
「硬くなっていってるな……」
「そうだ」
独り言のつもりだったんだが、エプスタインが自慢気に返答する。
「私の術で生み出された鋼鉄は無限に硬度を上げる! いつまでその糸が通用するかな? 」
また鉄柱が飛び出してくる。
俺はジャンプし、緑色の糸を出す。
緑糸は粘着性に富んでいる。
糸の先端を楕円形に展開している障壁にくっつけまくり、蜘蛛の巣のような物を作る。
俺はそこに四つん這いになる。
女には真似出来まい。
したくないですか、そうですか。
「まるで蜘蛛だな。お前の様な不快害虫にはお似合いの姿だ」
鼻を鳴らすエプスタイン。
さすがの俺でも不快害虫とか初めて言われたぜ。
「それで、防げると思うのか? 」
鉄柱が飛び出してくるが、糸にくっつく。
エプスタインは舌打ちし、
「ならば、これはどうだ! 」
鉄の針を飛ばしてきた。
緑糸は斬撃にめちゃんこ弱い。
あっさり斬られた。
「終わりだ! 」
落下する俺に向けて、鉄柱が飛んでくる。
赤糸を振り回すが、斬れない。
「ははっ! そこが限界みたいだな! 」
「ちっ」
俺は青糸を展開し、繭の様に自分を包み防御。
何とか防いだ。
着地し、すぐさまエプスタインに詰め寄る。
「おらっ! 」
「馬鹿が」
飛び蹴りをかますが、腕に防がれる。
ただの腕じゃない。
腕まで鋼化してるみたいだ。
「くそっ」
俺は飛び退き、体勢を整える。
エプスタインは余裕綽々って感じで棒立ち。
「全身を鋼化する事が出来る。お前の攻撃はもう効かんぞ」
エプスタインの全身が銀色に染まる。
全身を鋼化させたみたいだ。
観客席の女子達が悲鳴をあげる。
うん。
確かにちょっと気持ち悪い。
しかし、エプスタインは得意気だ。
「さぁ、どうする? 」
「こうする」
俺は黄色の糸を展開。
それをエプスタインにけしかける。
「何を……無駄ぶっ! 」
黄糸に触れた瞬間、エプスタインは空中に吹っ飛ぶ。
黄糸は弾力性に富んだ糸。
触れた物は何でも吹き飛ばす。
もちろん、調整は出来るぜ。
「そらっ! 」
空中に浮かぶエプスタインを更に黄糸で吹き飛ばす。
更にまた。
何回も繰り返す。
エプスタインは空中で、俺にされるがままだ。
「ほれっ! 」
「ぬわぁっ! 」
「そいっ! 」
「ぐぅおっ! 」
「もういっちょ」
「こ……のっ! いい加減にしろ! 鋼化命令! 」
エプスタインが叫ぶと、銀色の光が発生。
それが黄糸に触れると、黄糸が銀色に染まる。
銀色に染まった糸は俺の操作を無視し、俺に向かって来た。
「おいおい! 」
糸は舞台に激突し、砕け散る。
何なんだよ。
「あの光に触れた物は鋼化する……」
着地したエプスタインが鋼化を解いて、言う。
「そして鋼化した物の支配権は私に移る」
「へぇ。良い力っすね」
素直に感心し、敬語になってしまった。
「当然だ。貴様の様な平民とは違うのだ」
「平民とはって。アンタも元は平民でしょ」
「昔の話だ! 」
いきなり怒鳴るエプスタイン。
やめてくれよ。
昔の経験のせいで、怒鳴られるとビクッとなっちまう。
「私は貴族だ! ヒル・エプスタイン家のブライアン・ヒル・エプスタインだ! 昔の家族など捨てたわ! 」
「捨てた? 」
「そうだ! 平民の家などな! 」
「捨てられる奴もいりゃ、捨てる奴もいんのか。世の中色々だな」
「銀色の風」
俺がうんうん頷いていると、攻撃を仕掛けてきた。
銀色の竜巻だ。
素手はさすがに危険なので、とりあえず青糸を叩きつける。
すると、竜巻に触れた瞬間、ぐしゃぐしゃにねじ曲がった。
「おっかねえなぁ、おい! 」
青糸をぶつけた程度では全く勢いを落とさない竜巻を躱す。
速度はあまり速くない。
ただ、いくつも出されると面倒だ。
「そろそろ、終わらせるか」
「何だと?」
「そろそろ、終わらせるか」
「聞こえなかった訳じゃ無い!
どういう意味で言っているのかと聞いてるんだ! 降参する気になったか? それとも……まだ勝てる気でいるのか? 」
「そうだけど」
「つけ上がるな、平民が」
「だから平民、平民って……まぁ、良いや」
俺は頭をがしがし掻く。
貴族主義もここまで来ると感心する。
セブルスみたいだ。
「なぁ。1つ聞きたいんだけど」
「……何だ? 」
「アンタ、子供はいるのか? 」
「まだいないが……」
「もし、その子供が魔術を使えなかったらどうする? 」
「私の子供に限ってそんな事はあり得ない」
「仮定の話だ。答えてくれ」
「ヒル・エプスタイン家だぞ? 魔術を使えない者の居場所など無い。孤児院にでも出すだろうな」
大して考えた様子も無く、まるで常識だとでも言わんばかりにエプスタインはそう答える。
「……本気で言ってる? 自分の子だぞ」
「だから何だ? 魔術師としての優秀さが何より重要だ。魔術が使えないなど論外じゃないか」
「例えそうでも、自分の子は可愛いだろ? 親ってのはそういうもんじゃねえのか? 」
「ハッ! お前の様な生意気で傲慢で、おまけに態度も悪いガキが親を語るか。笑わせるな」
「俺が生意気で傲慢で、おまけに態度も悪いのは認めるよ。でも、これに関しては間違った事は言ってないだろ」
「黙れ。ヒル・エプスタイン家に魔術も使えないような屑は必要無い! 」
「……そうかよ」
俺はゆっくりと、赤糸を出す。
それは舞台に垂れて、魔法陣を描く。
「何だ? 」
「ギルクリスト封印術第1圏解除――」
赤糸の輝きが、極限に達する。
「式・万象切断の赤き糸」
俺が赤糸を振ると、エプスタインは咄嗟に鉄の壁を出す。
先程までの赤糸では斬れなかった、鋼鉄。
それが、
「なんっ……!? 」
バラバラに切り刻まれた。
「ば、馬鹿なっ! 何をしたっ! 」
エプスタインは叫びながら、鉄柱、鉄の針、壁など様々な物を生成。
俺はそれらを全て赤糸で切り刻む。
「邪魔だ。鉄屑が」
「鋼化命令! 」
エプスタインが手をかざすと、銀色の光が発生。
赤糸を包む。
「ははぁ! 支配権を奪ってや……」
「無駄だ」
赤糸は光さえも斬り裂き、霧散させる。
「な、な、何なんだ、お前はぁ! 」
エプスタインは後退り、尻餅をついて倒れる。
俺がゆっくりと近づくと、両の掌を向けてきた。
「ま、待て! 落ち着いて考えろ! 」
「何を? 」
「この後の事をだ! 良いか!? お前は負ければ退学だが、私は負けても普通に学校に残り続けるんだぞ! 」
「だから? 」
「私は学年主任だ! そしてニタル語の担当! 言わなくても分かるだろう! お前含めB組の連中を評定を最低点にしてやっても良いんだぞ! 」
「てめぇ……」
「お前のせいで皆に迷惑がかかる! だから降参して、ハイバリーから出て行け! 」
「ベラベラとよくもまぁ……」
「だがな! 私も鬼じゃあ無い。他の学校を紹介してやる! エプスタイン家の権力ならそれくらいは簡単だ! ハイバリーには劣るが、それなりの学校を用意してやる! どうだ!? これで皆ハァッピィだ! ウィンウィィンじゃあないか! 」
「嫌だね」
俺は腕を上げ、赤糸を振りかざす。
「なっ! や、やめろっ! まさか殺す気かっ!? 人生を棒に振る事になるぞっ! 」
「殺しはしないよ。ただ……」
「た、ただ? ただ何だぁ! 」
「殺すより……酷いかもな」
赤糸を振り下ろした。
「ひぃ!……は? 何だ? 何とも無いぞ! 」
赤糸はエプスタインの身体を透過。
俺はそのまま、糸を戻す。
「は……はははははっ! 何だギルクリスト! 魔力切れか!? はははははっ! 消えろっ! 」
手をかざすエプスタイン。
しかし、何も起きない。
「な、何だ? 術は解除してないぞ! 」
「いや、されてるよ。周り見てみな」
エプスタインはゆっくりと周囲を見渡す。
先程までエプスタインの術で銀色に染まっていた舞台と地面は元通りになっていた。
「何が……起きて……」
「アンタの魔力の泉を切り裂いた。アンタはもう魔術師じゃ無い」
俺の言葉にエプスタインは呆ける。
「魔力の泉を斬った? 馬鹿な事を言うな! あれは何の干渉も受けない! 遥か昔から知られてる事だ! 犯罪を犯した魔術師の魔力の泉を摘出しようとしたが、どんな方法でも傷1つつけられなかったとなぁ! それを斬っただと!? 斬っただと!? 」
半狂乱で喚き散らすエプスタイン。
異様な光景に、観客席も静まり返ってる。
「今まで誰にも出来なかったからって、俺が出来ない事にはならないだろ。信じられないなら、魔術を使ってみなよ」
「そんな……馬鹿なっ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
「ようこそ、先生。これでアンタも“魔術も使えないような屑”の仲間入りだ」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」
静まり返った闘技場に、エプスタインの凄惨な叫び声だけが響き渡った。
ちょっと、やり過ぎでしょうか?




