vs.エプスタイン Ⅰ 鋼化帝国の襲来
ヴラドさんが言うと同時に、青糸を展開。
エプスタインの出方を待つが、奴は棒立ちのまま動かない。
「こねえのか? 」
「初手は譲ろう」
笑みを浮かべたまま奴は言う。
舐められたもんだぜ。
「んじゃ、遠慮無く」
俺は青糸に魔力を注入する。
俺の糸は魔力を与える事で、強度や硬度、射程などの性能が上昇する。
俺は魔術を使えないから、魔力を惜しみ無く糸の強化に使える訳だ。
「おらよっ! 」
束ねた青糸を降り下ろす。
エプスタインは横っ飛びで躱し、俺に手をかざす。
「魔術教典99章《岩狼》」
空中に岩が出現。
それはボコボコと音を立てながら巨大化し、狼の形になった。
「行け」
エプスタインの言葉で、狼が俺に 向かってくる。
俺は赤糸を出し、腕を振る。
「失せろ。犬っころ」
岩の狼は真っ二つ。
形が崩れた事で、岩は消え失せる。
「ヒル・ピストリウスの言っていた通り、貴様の力は糸か」
俺は青糸を鞭の様に振り回し、エプスタインに叩きつける。
しかしそれは、奴の周りに発生した風に遮られた。
風属性か。
俺は糸を引っ込め、駆け出す。
肉弾戦と行くぜ!
「おらぁっ! 」
「ちっ! 」
渦巻く風を突き破り、飛び蹴りをかます。
奴はそれを片腕でガード……出来ると思ってんのか?
「ぐっ!? 」
奴は素早く、飛び退く。
顔を歪め、俺の蹴りを受けた左腕を押さえている。
「もうちょっと退くのが遅かったら、折れてたぜ」
「貴様ぁ! 」
奴は右手の人差し指を空に向ける。
「魔術教典210章《降雷》!」
空に雷雲が現れ、雷が落ちてきた。
「ちっ! 」
飛び退いて回避。
奴は風の刃を飛ばし、追撃を仕掛けてくる。
「喰らうかよ! 」
青糸で振り払い、そのまま奴にぶつける。
「がっ! 」
舞台の下にぶっ飛ぶエプスタイン。
追撃しても良いが、俺は動かず奴が立ち上がるのを待つ。
「どういうつもりだ? 」
「あ? 何がだよ? 」
「何故、追撃しない? 」
スーツについた砂埃を払いながら言うエプスタイン。
顔を不愉快そうにしかめている。
「別に。いつでも倒せるからな」
舌を出して挑発する。
すると奴は、眉間に深く皺を刻み、右手を俺にかざす。
「静寂は永眠への子守唄
囲われ 覆われ 息絶えろ
魔術教典584章《真空領域》」
奴が魔術を発動するのと同時に、闘技場が静まりかえる。
何だ?
観客席を見回す。
ベイを見たら、口を大きく開いて何かを叫んでる。
だが、何も聞こえない。
どうなってる?
「お前の周囲は真空状態になっている」
エプスタインの言葉が聞こえる。
いや、聞こえるというより脳内に響いてる様な感じだ。
「その中にいる間、声は通じない。術者である私を除いてな」
エプスタインを見ると、勝ち誇った顔をしてる。
これが何だってんだよ?
「真空空間では体内の血液中の窒息が気化し、呼吸困難など様々な障害を引き起こす! 持って1、2分だ! 右手を挙げれば降参と見なし、解除してやる! 」
俺はその言葉を聞き、両手で喉を押さえ、跪く。
脳内にエプスタインの高笑いが響く。
「どうした? 右手を挙げろ! 」
催促する様に言うエプスタイン。
心なしか、焦りの感情が見える。
真空空間とやらに閉じ込められて、1分程。
俺はずっと跪いている。
すると、エプスタインは舌打ち。
「往生際の悪い奴だ」
吐き捨てる様に言うと、音が戻ってきた。
術が解除されたみたいだ。
ベイの馬鹿デカイ声が聞こえる。
「ふん! さっさと右手を挙げれば良いものを……。まぁ、良い。終わりだ」
エプスタインがゆっくりと近づいてくる。
俺はまだ跪き、顔を伏せてるから見えないが、きっとニヤニヤしてるんだろう。
「さようなら、ニコラス・ギルクリスト」
エプスタインが目と鼻の先まで来る。
今だ!
「キェェェェェェェェェェッ!! 」
「がっ……はっ!? 」
気合いの掛け声をあげ、どでっ腹に拳を打ち込む。
さらに、驚愕に染まっている顔面を、
「どっせい! 」
「ぶ!? 」
右足で蹴り飛ばした。
エプスタインは舞台の外へ吹っ飛び、地面を転がる。
「良いぞ~ニコ~! 」
「ニコラス君~! 」
ベイとセリーンの声が聞こえたので振り向き、親指を立てる。
「ぐっ……く……くそっ! 」
ゆっくりと立ち上がるエプスタイン。
垂れてきた前髪を整えながら、俺を睨みつけてくる。
「どうなっている!? 何故、真空空間で平気なんだ! 」
「あ? 知るかよ。大体、真空空間って何? 」
「このっ! どこまでもふざけた奴だ! 」
エプスタインが手をかざすと、竜巻が発生。
それは砂を巻き込み、砂嵐と化して俺に襲いかかる。
「けっ」
俺はポケットに手を入れ、意思のみで赤糸を動かす。
四方八方から砂嵐に斬撃をいれて霧散させた。
「おのれぇ! 」
お次は無数の風の砲弾。
俺は青糸を丸め、全て防ぐ。
手はポケットに入れたままだ。
「ポケットから手を出せ! 」
「出させてみなよ」
冷ややかな笑みを浮かべて俺が言うと、エプスタインは怒りで顔を赤く染める。
「そうか……。そこまで無惨に散りたいかニコラス・ギルクリストォ! 」
エプスタインは両手をバッと広げ、空を仰ぐ。
「固有魔術発動――鋼化帝国の襲来 」
奴が術を発動させるのと同時に、地面と舞台が銀色に染まる。
そして俺の足元からは、
「吹き飛べ! 」
巨大な鉄柱が飛び出してきた。




