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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
19/43

決闘開始

 

 放課後。

 俺はベイ達と闘技場に来ている。


「いよいよだな」


 神妙な面持ちのベイ。

 こいつが真面目な顔をすると、何だかおかしい。


「あぁ。まぁ、軽くひねって来るよ」


 俺は握り拳を見せて笑う。

 ベイは笑ってくれたが、セリーンとウィルヘルミナは不安気な表情だ。


「んな心配そうな顔すんなよ。絶対勝つから」

「あぁ。信じているよ」


 ウィルヘルミナはようやく、笑みを見せる。

 だが、セリーンはまだ俯いてる。

 やれやれ。


「セリーン」

「は、はい」

「さっきの事なら気にすんなよ」

「え? 」

「父親の話だよ。お前の親父が犯罪者だろうが神様だろうが、俺はお前の友達だ」

「ニコラス……君」


 セリーンが瞳を潤ませる。

 うむ。

 我ながらクサいな。


「そうだぜ! セリーン! むしろ、親父が王宮に侵入できるレベルの魔術師って誇れる事だろ! 」

「いや、それはちょっと違えだろ」


 俺とベイのやり取りに、セリーンは笑う。

 元気になったみたいだな。


「セリーン。私も君の父親が犯罪者だろうと何だろうと友人をやめる気は無い。それだけは覚えておいてくれ」

「うんっ! うんっ! ありがとう……! 」


 涙を流しながら笑うセリーン。

 俺もベイもウィルヘルミナも笑ってる。

 あぁ、何このハッピーエンド感。

 もうエプスタインのクソ野郎とかどうでも良くなってくるな。

 まぁ、そういう訳にはいかんのだけど。


「さて、と。友情を確認し合ったところで、行きますか。ちゃんと応援してくれよな」

「おうっ! 任せとけ! 」


 ベイに続く様に、セリーンとウィルヘルミナも笑顔で頷く。

 と、そのタイミングでフェルガス先生がやって来た。


「お~。いよいよだな、ギルクリスト。準備は出来てっか? 」

「はい。万全ですよ」

「そりゃ良かった」


 先生はそう言うと、いつも通り口にくわえていたタバコを携帯用灰皿に捩じ込む。


「タバコもう吸わないんすか」

「決闘は学園長も見に来るっつったろ? 喫煙現場を見られたりしたら、大目玉だ」


 なら吸うなよ。

 そう言おうと思ったが、やめた。

 どうせ無駄だからな。


「んな事より、聞かなくて良いのか? 」

「何をっすか? 」

「エプスタイン先生の固有魔術(オリジナルズ)だよ。知りたいなら教えてやんぞ」


 イヤらしい笑みを浮かべて言う先生。

 教師がする顔じゃないぞ……。


「いや。大丈夫っす。正々堂々とぶっ倒してきますよ」

「へっ、そうかい。まぁ、頑張ってくれよ。自分のクラスから退学者が出るのは心が痛む。後、俺の給与査定に響くからな」


 そう言うと、先生は観客席に続く階段を昇って行った。

 おい。

 絶対、2番目が本音だろ。


「フェルガス先生はこんな時でも相変わらずだな」

「だが、心配はしているはずだ」

「あぁ。分かってるよ。んじゃ、行ってくる」


 俺はベイ達と別れ、内部に進む。


「ニコラス君! 」

「ん? 」

「絶対に! 勝って下さいね! 」

「あぁ! 」


 手をブンブン降りながら叫ぶセリーンに、負けじと叫び返した。







 内部に行くと、既にエプスタインが舞台に上がっていた。


「逃げずに来たみたいだな」

「退学懸かってんのに逃げる訳無えだろ」


 こいつ本当アホだな。

 呆れちゃうぜ。


「どっちみち退学になるんだ。大勢の前で恥をかいて、痛い思いをするよりは、逃げた方が良かったと思うぞ」


 べらべらと喋るエプスタインを無視し、舞台に上がる。

 観客席を見渡すと、ベイ達は俺の後側に座っていた。

 フェルガス先生やクラスメート達も一緒だ。

 そのまま視線を移すと、学園長の姿も見えた。

 その後ろには、エヴァンジェリーナとシリウス。

 見下す様に、俺を見てる。

 けっ。


「さて。そろそろ始めるとしようか? 」


 エプスタインが言うと、舞台下に男が現れる。

 燕尾服を着た、長身痩躯の男。

 髪は肩に届くくらいの長い黒髪。

 肌が異常に白く、何か死人みたいだ。


「私は学園長の秘書兼ハイバリーの用務員、ヴラドでございます。以後お見知りおきを」

「あ、はぁ、どうも」


 ヴラドさんのまるで生気の込もって無い様な声に、ちょっと驚いた。

 死人が喋ったみたいな、変な感覚だ。


「私が、この決闘の審判を務めさせていただきます。審判と言っても大した事はしませんが」


 ヴラドさんは、必要以上に丁寧だ。

 貴族なのだろうか。

 ヴラドとしか名乗らなかったし。


「ルールの方を説明しておきます。固有魔術(オリジナルズ)を始めとした、あらゆる魔術に対して制限は一切ありません。勝利条件は相手を気絶させるか、降参させるか。生命に危険が及びそうな場合は介入させていただきますので、悪しからずご了承ください」


 つらつらと並べ立てるヴラドさん。

 相変わらず、生気は込もって無い。


「魔力障壁を」


 ヴラドさんが言うと、観客席の最前列に座ってる3年の生徒達が、こちらに手をかざす。

 すると、薄い緑色の膜の様な物が発生する。

 それは縦に伸び、観客席の最上階まで達した。

 戦闘の被害が見てる人達に及ばない様にだろう。

 壁は闘技場と同じ楕円形の形を取っている。

 真上は空いてる訳だ。


「それでは、準備は宜しいですか? 」

「はい」

「構わない」


 俺とエプスタインは睨み合う。

 喋り声がいくつも飛び交っていた観客席も静まりかえる。

 闘技場を包む静寂。

 それを、


「始め」


 ヴラドさんの声が、引き裂いた。



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