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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
17/43

エヴァンジェリーナ

 

 教室につくと同時に鐘が鳴る。

 タイミング良すぎだろ。

 そう思いながら席に着く。

 ベイはまだ寝てやがる。


 2時間目の授業は魔獣学。

 魔獣ってのは簡単に言えば、魔術を使える動物だ。

 種類は色々。

 全容は全く把握されてないらしい。


「え~、魔獣はエポルエ大陸の遥か北東にある《氷の大地》と呼ばれる場所で誕生したと言われておる。今でもそこには魔獣がうようよとしており、人間が近付けるのは入口付近だけ。故に殆どは謎に包まれておる」


 腰を曲げて、教科書にめっちゃ顔を近付けて言う老教師。

 う~む。

 決闘はこのじいさんに頼めば良かったかも。


「魔獣は悪いものばかりでは無く、良いのもおる。例えば皆も知っておるだろうレコーディング・バットなんかが良い例じゃな」


 レコーディング・バットってのは人間の言葉を録音する能力を持った蝙蝠だ。

 主に伝達や、手紙の代わりとかに使われてるな。

 

「そういった、人間に害が無く、むしろ役に立つ魔獣を益獣と呼ぶ。逆に人間に害を与える魔獣を害獣と呼ぶ」


 まんまである。

 そもそも、こんな事は習うまでも無く、皆知ってるだろう。

 まぁ、1回目の授業だからこんなもんか。






「よっしゃ! 飯だ! 」


 時は流れ昼休み。

 結局あれから、ずっと寝てたベイが背伸びをしながら言う。


「行こうぜ、ニコ! 」

「あぁ」


 ベイと共に食堂に向かう。

 セリーン達も誘おうと思ったが、さっきの事があるからやめた。

 ほとぼりが冷めるのを待とう。


「今日は何食うかな~」

「俺はパスタ」


 ハイバリーは貴族も通う学校だから、食堂はかなり豪華。

 食堂のおばちゃんはいるが、ウェイターみたいなもんだ。

 料理を作るのは1流の料理人。

 それも、他の国のだ。

 トラフォードは他の国に比べて飯が不味く、料理人のレベルも低いらしい。

 ハイバリーの食堂にいる料理人もメアッツァ王国とジェルラン公国の出身だ。

 どっちも美食の国で、食文化のレベルではトラフォードは足元にも及ばない。

 パスタはメアッツァ王国の食い物。

 つまり、ハイバリーでは本場のパスタが食える訳だ。


「おばちゃん、俺パスタ。ソースはトマトね」

「あいよ」

「おい、ベイ。お前は? 」

「う~ん。悩む」

「はぁ……。先行ってんぞ」


 ベイは少し優柔不断なところがある。

 購買とかでも休み時間いっぱい何買うか迷ってるからな。

 俺は基本的に即断即断タイプだから、ベイとは正反対だ。

 おばちゃんに金を払い、食券を貰う。

 料理が出来たら、これと交換する訳だ。

 空いてる席を見つけて座る。

 食堂は、さほど人は多くない。

 カップル連中は闘技場で食うらしいし、実家通いの奴は弁当を教室とかで食うしな。

 寮生でも自炊する奴はいる。

 俺やベイは目玉焼きすら作れんがな。

 しばらくすると、ベイが来た。


「何にしたんだ? 」

「キッシュ」

「キッシュ? あれ昼飯に食うもんなのか? 」


 キッシュってのはジェルランの伝統料理で、卵と生クリームで作った生地にベーコンやら野菜やらをぶち込んだ食い物だ。


「ジェルラン人は昼飯に食うらしいぜ」

「へぇ。しゃれてんねぇ」


 しばらくトラフォードの料理レベルについて雑談してると、料理が出来たと、おばちゃんに呼ばれた。

 俺もベイも同じタイミング。

 じゃんけんして勝ったので、ベイに取りに行かせた。

 流石は俺。

 じゃんけんも強いときた。






「美味いか? それ」

「んぐっ! んだよ、やらねえぞ」

「いや、別にいらねえよ」


 俺はもう食べ終わったが、ベイはまだ半分くらい。

 だから見てただけなんだが……食い意地張ってると思われたくないので、視線をよそにやる。

 すると、シャロン先輩とエヴァンジェリーナを見つけた。

 エヴァンジェリーナは既に食べ終わってるようで、シャロン先輩が食べ終わるのを待ってる。

 俺と同じ状況って訳だ。

 しばらく見てると、エヴァンジェリーナがこっちに気づき、立ち上がる。

 そして、こっちに歩いてくる。

 おいおい。

 俺は慌てて目を反らすが、遅かった。


「少し良いかしら。ギルクリスト君」


 澄んだ声で短く言うと、エヴァンジェリーナは去って行く。

 ついてこいって事か。


「お、おいっ。い、今のエヴァンジェリーナ・ヒル・ピストリウス先輩じゃん! 」

「あ? 知ってんのか? 」

「そりゃ知っとるわ! 成績優秀・容姿端麗。貴族令嬢で魔術師としての実力も高い。ハイバリーのマドンナだぞ! 」

「へぇ」


 鼻息荒く語るベイ。

 何をそんなに興奮してるんだよ。


「それに、アイツの姉じゃねえかっ! 」


 アイツってのはシリウスの事だろう。


「大丈夫か? 弟ボコったから報復とかか? 良く考えたら貴族に怪我負わせるって相当ヤバイだろ! 」


 今更かよ!

 思わず叫びそうになる。

 とりあえず、こいつはもう放っとこう。


「まぁ、とりあえず行ってくるわ」

「お、おう。気ぃつけろよ! 」

「あぁ」


 ベイを残し、食堂を出る。

 エヴァンジェリーナは正面玄関フロアのソファーに座っていた。

 ハイバリーへの客人などが、待たされてる間に座る場所だ。


「何の用だよ? エヴァンジェリーナ」

「実の姉を呼び捨て? 偉くなったものね、ニコラス」

「ハッ。良く言うぜ。俺の事を弟だなんて思った事、1度でもあるのか? 」

「そうね。幼い頃には思っていたかもしれないわ。貴方がどうしようもない出来損ないだと知るまではね」


 薄ら笑いを浮かべ、見下すように言うエヴァンジェリーナ。

 眉間に皺が寄るのが分かる。


「俺の事はシリウスに聞いたのか? 」

「ええ。糸を扱うらしいけれど、貴方は魔術が使えない筈よね。一体、どういう事かしら? 」

「別にお前に関係無いだろ」

「じゃあ、ハイバリーに来たのは? 私やシリウスに復讐でもしに来た? 」

「復讐? 自意識過剰も良いとこだな。お前らになんて興味無えよ。アルバスに通えって言われただけだ」

「アルバス? あぁ、父様の弟だった人ね。貴方と同じ出来損ない」


 俺は拳を握りしめる。

 こんなに苛立つのは久し振りだ。


「まぁ、でも。今日で貴方のハイバリーでの生活も終わりよね。エプスタイン先生と退学を賭けて決闘をするんですってね? 」

「だから、何だよ」

「貴方の退学は決定ね。エプスタイン先生はハイバリー教師陣でも屈指の実力者よ」

「俺はそれ以上に強い」


 俺がそう言うと、エヴァンジェリーナは嘲笑を浮かべる。


「少し見ない間に随分と増長したわね、ニコラス」

「どうかな。俺はお前やセブルスよりも強いと思うけど? 」


 今度は俺が、嘲笑を浮かべ言ってやった。

 エヴァンジェリーナの顔から笑みが消える。


「お父様まで呼び捨てにするとはね……」

「もう父親じゃねえ」

「それでも、貴方がお父様より強いなどという妄言は取り消しなさい」

「嫌だね」

「貴方はお父様の力を知らないでしょう? 相手にされていなかったものね」

「あぁ、そうだな。幸運だったよ」


 エヴァンジェリーナは眉間に皺を寄せて、俺を睨む。

 俺は嘲笑を浮かべたまま、物理的に見下す。

 立場逆転だ。


「それに、お前らだって俺の力なんて知らないだろ。お前の可愛い可愛い“たった1人の弟”は、俺相手に成す術も無く負けたぞ。アイツに見せた力なんてほんのちょっとだ」

「何が言いたいのかしら? 」

「お前もセブルスも、俺と戦えば同じ結果だって事だよ」

「思い上がりもそこまで行くと、呆れさえ通り越すわね」


 エヴァンジェリーナはそう言って、立ち上がる。


「精々、今日の決闘で無様な姿を晒さない事ね」


 それだけ言うと、金色の髪をかきあげ、俺の横を通り過ぎて行く。


「いつまでもそんな態度でいられると思うなよ、クソ女」


 俺の悪意敵意憎しみ100%の言葉に、エヴァンジェリーナは振り返らなかった。


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