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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
16/43

コーヒー牛乳

 

 1時間目の授業は歴史。

 もうこれが、本当にかったるい。

 5時間目だったら間違いなく寝てる。

 担当教師もパダレッキ先生みたいなおっぱい美女じゃなくて、ただのおっさんだし。

 ふと、隣のベイに目をやると寝てる。

 こいつ……。

 顔に落書きでもしてやろうとペンを近づけると、ちょうど鐘が鳴った。


「それじゃ、今日はここまで」


 教師はそう言うと、出ていった。

 俺はペンを引っ込める。

 貴重な休み時間を下らない事に使う訳にはいかない。

 とは言っても、ベイは寝たままだ。

 叩き起こしてやっても良いが……まぁ、良いや。

 面倒臭ぇ。

 購買に飲み物でも買いに行くか。

 立ち上がり、教室から出る。

 購買は第1校舎だから地味に行くのが面倒だ。

 B組は3階にあるので、階段を降りて行く。

 A組の教室がある2階につくと、シリウスがいた。

 もちろん、取り巻きの3人も一緒だ。


「おい」


 シリウスが声をかけてくるが、無視する。

 お前に構ってる暇は無いんだよ。


「おい! 聞こえてんのか! 」

「聞こえてねえよ」

「だから聞こえてんじゃねえか! 」


 相変わらず偉そうなシリウス。

 どうやら、ボコられ足りないみたいだな。


「んだよ……」

「てめえ、本気でエプスタイン先生と戦うつもりかよ?」

「だったら何だよ」

「ハッ、退学確定だなっ! 」


 シリウスは醜く顔を歪めて笑う。

 こいつ、 負けといてよくこんな態度とれるな。


「話はそれだけか。お前なんぞに構ってる時間は無えんだよ」


 俺は吐き捨て、シリウスに背を向ける。

 その俺の背中に、シリウスが更に言葉を投げる。


「お前の事はもう言った」


 本来なら、要領を得ないであろう言葉。

 しかし俺には、それがどういう意味か良く分かる。


「だから? 」

「別に。それだけだ」


 シリウスはそれだけ言うと、取り巻きどもを連れて教室に入っていった。


「けっ」


 何だってんだよ。

 どうでも良いぜ、ピストリウス家なんて。

 俺は早足で校舎を抜け、購買に向かう。

 購買は第1校舎の1階、食堂の1角にある。

 普通の店みたいな造りで、商品の並べられた棚がいくつも並んでる。


「おっ! コーヒー牛乳あるじゃん! ラッキー! 」


 残り1つのコーヒー牛乳を見つけ、テンションが上がる。

 コーヒー牛乳はかなりの人気商品で、皆朝のうちに買ってくから1時間目の休み時間でさえ売り切れてるのが殆どらしい。

 これはフェルガス先生に聞いた話だ。

 全然買えないと嘆いていた。

 普通に外の店で買えばいいと思うんだがな……。


「あっ……」

「ん? 」


 嬉々としてコーヒー牛乳を手に取ると、後ろから女の子の声が聞こえた。

 小さく、か細い声だった。

 俺が振り向くと、そこにいたのは小さい女の子。

 セリーンよりも更に小さい。

 ピンク色の長い髪、くりくりっとした瞳。

 頬は髪と同じ色にほんのり染まっている。

 まぁ、1言で言うなら凄い美少女って訳だ。

 んで、この美少女は俺の手にあるコーヒー牛乳をジッと見てる。


「え~と。これが欲しいの……ですか? 」


 変な喋り方になってしまった。

 これは途中で、彼女のネクタイが目に入ったからだ。

 彼女のネクタイは銀色。

 2年生だ。

 てっきり同学年だと思ってタメ口きくとこだった。

 俺の問いに、先輩はコクッと頷く。


「あぁ、じゃあ譲りますよ」

「良いの……? 」


 目をキラキラさせながら言う先輩。

 う~む。

 年上に言う台詞じゃ無いかもしれんが、凄く可愛らしい。


「はい。別に良いっすよ」


 俺はそう言って、コーヒー牛乳を差し出す。

 正直、そこまで欲しかった訳じゃ無い。

 超人気商品っつーから、興味はあったがな。


「買ってくる……! 」

「あ、はい。行ってらっしゃい」


 思わず、そう返してしまった。

 先輩はコーヒー牛乳を大事そうに両手で持って、会計しに行った。

 これ、待ってなきゃ駄目なパターンですか?






「んっ、くっ、ふぅ……」


 エロい。

 両手でコーヒー牛乳の瓶を持ち、味わう様に飲む先輩。

 ただ、コーヒー牛乳を飲んでるだけなのに、やたらとエロい。

 思わずチラチラッと盗み見してしまう。


「ん……? 」


 俺の邪で卑猥でセクシャルハラスメンティックな視線に気づいたのか、先輩がこちらを見る。

 しかし、先輩は可愛らしく首を傾けるだけ。

 良かった。

 気づかれて無いみたいだ。


「どうか……した? 」

「いや、何でも無いっす! 」


 俺はブンブンと手を振る。

 先輩はさして気にした様子も無く、空になったコーヒー牛乳を俺に見せる。


「コーヒー牛乳……ありがとう」

「いえいえ」

「私……シャロン・レインブラックス。貴方は……? 」

「あぁ、ニコラス・ギルクリストです」

「……ニコラスって呼んで良い? 」

「もちろん! 」


 俺が食いぎみに答えると、先輩はビクッとなる。

 いかんいかん。


「あっ、すいません」

「ううん……。大丈夫……」

「お、俺もシャロン先輩って呼んで良いっすか? 」

「うん」


 シャロン先輩は可愛らしく頷く。

 うへへ、可愛いな。

 って、いかん!

 俺のダークサイドが顔を出してしまった。

 やれやれ。

 男はやはり、皆狼なのか?


「あっ……! 」


 そんな馬鹿な事を考えてると、シャロン先輩が小さく声を漏らす。

 先輩の視線をたどると、1人の女がいた。

 カールした長い金髪。

 どこか冷たい印象を受ける青い瞳。

 何か……見た事ある気が。


「遅いから見に来たわ、シャロン」


 その女の人はシャロン先輩に声をかける。

 友達みたいだ。


「ごめんね……エヴァ」


 エヴァ。

 その名を聞いた瞬間、心臓が跳ねる。

 こいつ、まさか……。


「この子は? 」

「……私にコーヒー牛乳を譲ってくれたの。名前はニコラス……」

「ニコ……ラス……? 」


 エヴァと呼ばれた女は、俺の名を聞き雰囲気を変える。

 間違いない。

 こいつ、エヴァンジェリーナだ。


「エヴァ……? どうかした……? 」

「いえ。何でも無いわ。行きましょう。2限目の授業が始まるわ」

「あ、うん……。じゃあね、ニコラス……」

「あっ、はい」


 小さく手を振ってくるシャロン先輩に手を振り返す。

 先輩は小走りで、エヴァンジェリーナについて行く。

 去り際に一瞬だけ、エヴァンジェリーナが俺を見た。

 昔と全く変わらない、いや、それ以上に冷たく、軽蔑するような瞳で。


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