申し込み
「さて、行くか」
俺は現在、A組の教室の前にいる。
校舎が無駄に広く5階建てだから、教室は各階に1つずつ。
物凄く無駄の多い間取りだが、今はそんな事どうでも良い。
俺は扉を開く。
今は朝のホームルームの時間。
俺はフェルガス先生に特別に許可を貰い、抜け出してる。
A組の教室は、当然だがB組と何ら変わらない。
クラスの連中は一斉に俺を見る。
もちろん、シリウス達もだ。
だが、アイツらには用はない。
俺が用があるのは……
「何の真似だ? ニコラス・ギルクリスト」
俺を見て不快そうに顔を歪める金髪オールバック野郎だ。
「今はホームルームの時間だが? 」
「知ってますが? 」
眉間に皺を寄せるエプスタイン。
こいつはシリウスと同じタイプだな。
煽られ慣れて無いんだろう。
「エプスタイン先生にお話があって来ました」
「……何かね? 」
「まず、俺は退学なんでしょうか? 」
「退学させる程では無いかもしれない……そう思っていたが、今しがた考えが変わった。何故か分かるかね? 」
「いえ。お腹の調子でも悪いんですか? 」
「貴様……」
エプスタインの眉間の皺が更に深くなる。
本題に入るか。
「退学させる気なんですね? 」
「そうだ。学年主任には懲戒処分の権限がある。私の権限で君をハイバリーから追い出してやろう」
「そうですか。なら俺も生徒に与えられた権利を行使します」
「何? 」
「先生に退学を賭けて、決闘を申し込みます」
「……何だと? 」
A組の連中がざわつき出す。
エプスタインはそれを手で制する。
「自分が何を言っているか分かっているのか? 」
俺は言葉を返さない。
「……質問を変えようか。君は私に勝てると思っているのか? 」
「はい」
今度は即答。
A組の連中がまたざわつき出す。
エプスタインはそれを制する事無く、不愉快そうに顔をしかめている。
「決闘の相手は自由に選べるが?」
「知ってますよ。だから、1番勝てる確率の高そうなエプスタイン先生にお願いしてるんです」
その言葉にエプスタインは顔を真っ赤にして、俺を睨み付ける。
「私が1番、与し易いと? 」
怒りに打ち震えた声で言うエプスタイン。
もう1押しだな。
「はい。俺は貴族のピストリウス君に勝ったので、“偽”貴族のエプスタイン先生なら余裕かなって」
ちょっとだけ、シリウスに視線を送る。
アイツは忌々しげに俺を睨んでた。
エプスタインは……
「“偽”貴族だと……!? 」
顔を真っ赤にして、わなわなと震えていた。
「良いだろう。受けて立ってやる」
エプスタインは怒りを噛み殺す様にそう言う。
よっしゃ。
上手くいったぜ。
「決闘は今日の放課後だ。場所は言うまでも無く闘技場」
「分かりました」
俺はそう言って、エプスタインに背を向ける。
A組の連中は俺を呆然と見つめている。
まぁ、そりゃそうだろ。
俺はたくさんの視線を受けながら、A組を後にした。
「よぉ、どうだった!? 」
教室に帰ると、真っ先にベイが駆け寄ってきた。
それに続き、セリーンにウィルヘルミナ、クラスメート達も俺の元に来る。
「上手くいったよ。今日の放課後だとさ」
「おぉ、そうか! よっしゃ、皆で応援に行くぜ! 」
ベイが拳を上げながら言うと、クラスメート達も「おー! 」と拳を上げる。
こいつら何か楽しんでるような……。
まぁ、良いか。
「本当にすみません。私のせいで……」
「だ~からっ、お前のせいじゃ無えって言ってるだろ? 」
「あぅ……」
まだ謝ってくるセリーンに軽くチョップをかます。
「俺は大丈夫だ。心配すんな」
「……はいっ! 」
不安気な顔のセリーンだったが、俺の言葉を信じ笑ってくれた。
「私達に何か出来る事があれば言ってくれ」
ウィルヘルミナが言う。
ふむ。
「何でも良いのか? 」
「あぁ。私に出来る事なら」
「わ、私もニコラス君の為ならっ! 」
「そうか……」
何を頼むべきだろうか?
特訓の相手をしてもらうか?
それとも、エプスタインの偵察でもしてもらうか?
「ニコラス君? 」
「ニコラス? 」
腕を組んでウンウンと唸る俺に、2人が心配そうに声をかける。
よし、決めた!
「セリーン! ウィルヘルミナ! 」
「は、はいっ! 」
「な、何だ!? 」
俺はバッとセリーンとウィルヘルミナの肩に手を置く。
そして言った。
「おっぱい触らしてくれ! 」
「何が問題だったんだ? 」
「いや、問題しか無えだろ」
今は1時間目の授業中。
呟く俺に、ベイが呆れたように言う。
うるせえ。
独り言だってんだよ。
先程、セリーンとウィルヘルミナにした頼みは叶わなかった。
ウィルヘルミナは顔を真っ赤にして「君がそんな人間だとは思わなかったぞ! 」とか言って、席に戻っていった。
セリーンはウィルヘルミナと同じように顔を真っ赤にしながらも、触らせようとしてくれた!
だけど、肝心のおっぱいが無いに等しかった。
合掌。