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魔術学校の糸使い  作者: タカノ
入学編
13/43

処分

 

「おい、ニコ! 起きろ! 」

「んっ……」


 ベイの大きな声で、目を覚ます。

 此処は寮の部屋。

 俺のベッド。

 昨日はすぐに解放されたんだ。

 その代わり、今日の朝イチで呼び出しをくらってるが。


「エプスタイン先生に呼び出されてんだろ? 遅れるとまずいぜ」

「おう。ありがとうな、ベイ」


 ベイに礼を言って、準備をする。

 エプスタイン先生ってのは、A組の担任教師だ。

 ブライアン・ヒル・エプスタイン。

 名前から分かる通り貴族。

 だけど、貴族の家に産まれた訳じゃ無く、貴族令嬢と結婚した婿入り貴族と呼ばれるやつだ。

 婿入り貴族ってのは基本的に、普通の貴族よりも性質(たち)が悪い事が多い。

 貴族階級というやつに並々ならぬ執着を持ってて、手練手管を弄して貴族令嬢を落とし、貴族としての地位を手に入れる。

 そして、地位を手に入れたら普通の貴族以上に平民を見下す。

 自分も本当は平民の癖にな。

 とにかく、婿入り貴族には選民思想の持ち主が多い。

 そして、このブライアン・ヒル・エプスタインって教師はその典型らしい。

 そもそも、ヒル・エプスタイン家自体が二十二大貴族の中でも1番貴族主義な家だからな。

 本当、面倒な家の人間と関わる事になっちまった。

 これも全て、シリウスのクソのせいだ。


「じゃあ、行ってくる」

「おう。また後でな」


 心の中で愚痴をダラダラと言いながら、制服に着替え終わった。

 ベイに1言告げて、玄関に向かう。

 まだ登校時間には早い。

 扉はすんなり、ロビーに繋がった。





 寮を出た俺は、いつも通り第4校舎に向かう。

 第2から第4までの校舎には主任室と呼ばれる学年主任のいる部屋がある。

 1学年の主任はエプスタイン先生がA組の担任と兼任でやってる。

 エプスタイン先生は基本的にいつもそこにいる。

 だから、職員室のある第1校舎じゃなく第4校舎に向かってるって訳だ。

 はぁ~。

 気が重い。

 主任室にはエプスタイン先生しかいない。

 フェルガス先生はいないんだ。

 まぁ、いてもあまり役に立ってくれる気はしないがな……。





 主任室は1階にある。

 校舎の入口入ってすぐの場所に、主任室って書かれたプレートのついてる黒塗りの扉があるんだ。


「ギルクリストですけど……」


 扉をノックしながら、小さく名乗る。

 いなかったら良いな、と思いながら。


「入りたまえ」


 しかし、そんな淡い希望は扉の向こうから聞こえてきた冷淡な声で、粉々に砕かれる。

 はぁ……。

 行くしかない。


「失礼します……」


 扉を開け、ゆっくり入る。

 主任室は、寮の部屋と同じくらいの広さだった。

 床には絨毯が敷かれ、黒い革のソファー2つに、その間に木製のテーブル。

 その奧に机があって、この部屋の主であるエプスタイン先生が昨日と同じ黒スーツに金髪オールバックで、難しい顔をして俺を見てる。

 視線を天井に反らすと、当たり前のようにシャンデリア。

 う~む。


「おはよう。ニコラス・ギルクリスト君」

「おはようございます……」


 エプスタイン先生は机の椅子から立ち上がり、ソファーに移る。

 そして、手で俺にも座るよう促す。

 俺はそれに従い、先生の対面に座る。

 癖でふんぞり返ってしまいそうになったが、慌てて背筋を正した。


「シリウス・ヒル・ピストリウス、ヴラディミール・ヴァーレクス、バレル・ズィトウィッキー、ダレル・ズィトウィッキーの4人は既に意識を取り戻し、怪我も治っている。シェリンガム先生のおかげでね」

「はぁ。そっすか」


 正直あいつらの事なんてどうでも良い。

 因みにシェリンガム先生ってのは、この学校の保険医で治癒魔術の使い手だ。

 噂じゃあ凄い美人らしいが、俺はまだ見た事が無い。


「彼らには昨日の内に話を聞いている。彼らが言うには、君に絡まれ喧嘩になり、最終的にあんな騒ぎになったとの事だが? それで間違いないかね? 」


 はぁ!?

 思わず口に出しそうになるのをこらえる。

 でたらめも良いとこだ。


「間違いしか無いですね。あっちが絡んできたんですよ」

「では彼らのあの状態は何かね?

 闘技場に呼び出されて行ってみたら、不意打ちを受けたと言っていたが? 」

「闘技場に呼び出されたのは俺です。そんで、あいつらと順番に戦うはめになったんすよ。怪我はその時のです」

「嘘はやめたまえ。彼らはあんなにボロボロだったのに、君はかすり傷1つ負ってないじゃないか。まともに戦った筈が無い。それとも何かね? 君は彼らでは傷もつけられない程に強いとでも言うのかね? 」

「ええ。そうですよ」

「ハッ」


 エプスタイン先生は失笑を漏らす。

 あぁ、ムカついてきた……。

 もう先生つけてやらねえ。


「馬鹿な事を言うものじゃあ無い。ヴァーレクスやズィトウィッキー兄弟はともかく、ヒル・ピストリウスを傷1つ負うこと無く倒した? 平民の君がか? 」


 平民の部分をやたらと強調するエプスタイン。

 完全に見下してるニュアンスだ。

 お前も元は平民だろうが。

 そして俺は元は貴族だ。

 心の中でつっこむが、届く筈も無い。


「正直に言えば、寛大な処置を下してやるつもりだったが、嘘をつくとはな」

「いや、だから……」

「もう良い。処分は追って下す。行きたまえ」


 エプスタインは立ち上がり、扉を指す。

 出て行けって事かよ。

 俺は床を乱暴に踏みつけて立ち上がり、扉に向かう。

 ドアノブに手を掛け、出ていこうとした瞬間、エプスタインがとんでもない事を言った。


「退学も――覚悟しておきたまえ」


おい、マジかよ?

入学してまだ3日だぞ。


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