vs.シリウス Ⅱ 虹色の弓兵
降り注ぐ矢を、舞台から飛び退いて躱す。
矢は舞台に突き刺さると同時に破裂。
爆発し、周囲に炎やら何やらが撒き散らされる。
「何だこれ……」
俺がそれをぼけ~っと見ていると、シリウスの馬鹿が笑う。
距離があるからなのか、俺に聞こえる様に気持ち大きめで笑ってる。
健気な奴だ。
「これが俺の固有魔術だ! 」
自慢気に言うシリウスの周囲には6色の矢が、俺に矢先を向けて浮かんでいる。
色は赤、橙、黄、緑、青、紫。
虹だな。
「赤はマグマ、橙は炎、黄は雷、緑は酸、青は水、紫は毒。それらを纏った矢を生み出す。それが能力だ! 」
ベラベラと手の内を明かすシリウス。
まぁ、わざわざ説明されなくても見れば大体分かるがな。
「塵すら残さず消えろ! 」
周囲に従えていた矢を一斉に射出。
俺は赤糸を展開し、1本残らず叩き斬る。
「当たるかよ、馬~鹿」
「舐めんなっ! 」
シリウスが叫ぶと、再び矢が出現する。
しかし、今までとは数が違う。
さっきの2回は10本くらいだったが、今のは50本くらいある。
「何本出せるんだ? 」
「何本でもだ! 」
50本近い矢が一斉に飛んでくる。
俺は腕を数回振り、赤糸で叩き斬る。
「いつまで、持つかなぁ! 」
シリウスは次々に矢を生成し、放ってくる。
「埒が明かねえ」
俺は青糸を10本展開。
それで飛来してくる矢を絡め取る。
「返すぜ! 」
「あ? 」
そのまま、矢をシリウスに投げ返す。
「―っ! 」
シリウスは俺に向けて放つ予定だっただろう矢を、俺が投げ返した矢にぶつけ、相殺する。
矢同士が衝突し、爆発が起きる。
俺はそれに隠れるようにして、シリウスに青糸を伸ばし、
「ぐえっ!? 」
再び、首に巻き付けた。
「で、でめぇっ……! 」
ゆっくりと、持ち上げる。
シリウスは顔を歪める。
「どうした? その状態じゃ、矢出せねえのか? 」
挑発すると、すぐさま矢を生成して飛ばしてくる。
それを避け、腕を引っ張る。
「おらよっ! 」
「ぐっ!? 」
俺は糸を引っ張りながら回転。
それによってシリウスも、観客席の椅子に身体をぶつけ、椅子を破壊しながら回る。
「がっ! て、てめっ! やめっ! やめろぉ……がっ! 」
ズガガガガッ! って音を出しながら、シリウスは観客席を1周。
青糸を首から離し、地面に叩きつけた。
「がっ……ふっ……! 」
よろよろと立ち上がるシリウス。
制服は至るところが破れ、身体も傷だらけだ。
「く……そ……がっ! 」
「意外とタフだな」
口笛を吹いて言うと、シリウスはキッと俺を睨む。
「てめぇは……マジで……マジで殺す……」
「そんな状態で良く言えるな」
溜め息混じりに答える俺。
しかしシリウスは何も言わず、弓矢を構えるようなポーズを取る。
「何だ? 」
「俺の最強の技をお見舞いしてやる」
そう言うシリウスの手に、虹色の弓と矢が出現する。
きりきりっと弓を引き、今にも俺を射殺そうとするようだ。
「面白ぇ。来いよ」
俺は赤糸を大量に出し、束ねる。
極細の糸も、無数に束ねられる事ではっきりと見える様になる。
「俺のは最強の技でも何でも無えけど。まぁ、ちょうど良いだろ」
「舐め腐りやがって……」
俺は束ねた糸を、シリウスは虹色の弓を構え、静止する。
シリウスの荒い息遣いが聞こえる。
強がっちゃいるが、さっきのダメージはやっぱり大きいみたいだ。
これが、最後の1撃になるだろう。
シリウスがゆっくりと、弓を引く。
「死ね」
冷たい声で、シリウスが呟く。
その瞬間、同時に攻撃を放つ。
「天の弓兵・虹の裁き」
「おらぁっ! 」
虹の矢と、赤い糸の斬撃が衝突する。
凄まじい轟音が響き、暴風が巻き起こる。
俺にダメージは無い。
虹の矢は、俺には届かなかった。
俺の糸は……
「はぁっ! はぁっ! はっ……ぐふっ……! 」
届いていた。
シリウスの右肩は、派手に切り裂け、血が流れている。
そこを左手で押さえ、痛みに耐えているみたいだ。
「勝負ありだ」
「クソっ! てめぇは……何もんなんだよっ……! 」
「何もん? 双子の兄貴も忘れちまったか? シリウス」
シリウスは目を見開く。
口がわなわなと震えてる。
「お前……まさか、ニコラス……か? 」
「そうだ」
「な、何でここに……」
「学校に通っててもおかしくは無いだろ」
「お前はっ! お前は魔術が使えないだろっ! あの糸は何だっ! 」
肩を押さえるのも忘れて、叫ぶシリウス。
俺は右手の甲を、シリウスに見せる。
「何だ……それは……」
「アリアドネ――お前が殺した俺の友達が、俺にくれた力だ」
「は……はっ! あの蜘蛛が? あり得ない! ただの蜘蛛だ! 」
「違う。アリアドネはただの蜘蛛じゃない。人間の言葉を理解し喋れる」
「それはお前の妄想だ! お前以外誰も、あの蜘蛛の声なんか聞いてない! 妄想だ! お前が孤独のあまり作り出したなぁ! 」
「じゃあ、この糸は何だよ。これも妄想か? お前の首を絞めるこの糸も」
「がっ! ぐっ……えっ! 」
青糸でシリウスの首を絞め、持ち上げる。
「何でアリアドネを殺した? 」
俺の問いに、シリウスは答えない。
良く見たら、気を失ってる。
「ちっ。軟弱が! 」
吐き捨て、シリウスを落とす。
すると、急に疲労が襲いかかってくる。
もう帰って寝よう。
そう思うが、こんだけ派手に暴れといて誰にも気づかれてない訳が無かった。
「何だこれは! 」
闘技場の入口付近から男の声が聞こえる。
振り向くと、そこにいたのはスーツを着た、金髪オールバックの男。
あれは確か……A組――つまり、シリウス達のクラスの担任だ。
名前は忘れた。
その後ろには、フェルガス先生もいる。
先に、気絶して倒れてるヴラディミール達を見つけた先生は「良かった。俺のクラスの生徒じゃない」みたいな感じで安堵の表情を浮かべていた。
だが次の瞬間、倒れているシリウスの前に立つ俺を見ると、一転して絶望的な表情を浮かべ、膝から崩れ落ちた。
あぁ……。
何だか凄く、面倒な事になりそうだ。