vs.ヴラディミール
俺が指を動かすと、それと同時にマッチョが浮かぶ。
「なん……!? 」
驚愕し目を見開くシリウス達。
俺は右手をぐいっと引く。
それによりマッチョは舞台に引っ張られる。
「何を……した……? 」
聞き取り辛い声でマッチョが言う。
がたい良いくせにぼそぼそ喋るんじゃねえよ。
「さぁな」
誰が教えるか馬~鹿。
マッチョはそれ以上は何も言わず立ち上がる。
そして、右手をかざす。
「くら……え……」
そこから土の砲弾が発射される。
「けっ」
俺はそれを思いっきり蹴り砕く。
「こんなん効くと思ってんのか?あ? 」
挑発するが、反応しない。
こいつ見た目と性格に差がありすぎる。
「ヴラディミール! 手加減する必要はねえぞ。叩き潰してやれ」
シリウスの馬鹿が言う。
ヴラディミールってこのマッチョか。
手加減してくれてるらしい。
笑えるぜ。
ヴラディミールとやらはシリウスに頷きを返し、浅く息を吐く。
そして、
「固有魔術発動―――獰悪牛皇」
そう小さく呟いた。
「何じゃそりゃ……」
思わず呆ける。
術を発動した途端、奴の身体はぼこぼこと膨れ上がった。
顔は完全に人間のソレから逸脱し、頭には2本の角。
1言で言えば、2足歩行の牛だ。
顔はえらく凶悪だが……。
「ブルルァァァァッッ!! 」
「うおっ!? 」
いきなり咆哮しやがるもんだから、ビクッとなっちまった。
身体だけじゃなく声も大きくなってるらしい。
「ブルァ! 」
「おっと」
猛スピードで距離を詰め、右ストレートを繰り出してくる。
それを半身で躱し、
「おらっ! 」
右の脇腹に蹴りを入れる。
「グッ……ラァァァッッ! 」
「おいおい」
怒ったのか、太い腕を無軌道に振り回してくる。
様子を見ようと、距離を取ると、デカイ斧を取り出しやがった。
「どこから出した? 」
ヴラディミールは答えない。
とゆうか、こいつ喋れんのか?
「その斧はなぁ、不治の傷を負わせる。かすり傷でも血が止まらず、致命傷になるぜ! 」
何故かシリウスが自慢気に言う。
「ご丁寧にどうも。当たらなきゃ良い話だ」
斧を持ったヴラディミールが斬りかかってくる。
あらゆる角度、方向から何度も斧を振るってくるが、俺には当たらない。
「スピード落ちてんぞ? 」
「ブルァ! 」
水平に繰り出される斧を、素手で受け止める。
驚愕の声をあげるヴラディミール。
隙だらけの腹に、すかさず蹴りを叩き込む。
「ブラァァァァァッッ! 」
吹き飛ぶヴラディミール。
斧は手から離れ、観客席まで飛んでいった。
「ヴラディミール! しっかりしろ! 」
シリウスに怒鳴られ、すぐ立ち上がる。
従順な奴だ。
「ハァ……ハァ……」
ヴラディミールは息を整えると、頭を下げる。
何だ?
今更謝っても許さんぞ。
そんな事を思ってたら、2本の角の間に赤い球体状の光が発生。
あれって、まさか……
「ブルルァァッッ! 」
球体状の光は極太の光線に変わり、俺に射出される。
「ちぃっ! 」
右手を突きだし、何とか止める。
「ビームはねえだろ! ビームはぁぁ! 」
そして、そのまま握り潰す。
その瞬間、爆発。
轟音が鳴り響き、煙が発生する。
「あ、アレを素手で防いだだと……? 」
煙の外から、シリウスの震えた声が聞こえる。
「ブルルァァ! 」
ヴラディミールは自棄になったのか、煙もまだ晴れない状況で突っ込んでくる。
2本の角を突きだし、4足歩行でだ。
「はっ! やっと牛らしくなったなぁ! 」
俺もヴラディミールに向かい走り、2本の角を掴む。
そして、その勢いのままに観客席にぶん投げた。
「ブルァッッ! 」
派手に突っ込むヴラディミール。
しかし、すぐさま立ち上がり舞台に復帰してくる。
「ハァハァハァ……ハァ……」
酷く息が上がっている。
そろそろ限界みたいだ。
後、1、2発ブチ込みゃ終わりだな。
そう思い見ていると、ヴラディミールはブルブルと震えだす。
「何だよ? 小便か? 」
からかい気味に言うが、答えない。
まぁ、それは分かってる事だが。
「馬鹿が。もうお前は終わりだ」
ヴラディミールの代わりにシリウスが答える。
これも分かってる事だ。
「そりゃ良いね。俺も飽きてきたとこだ」
「ふんっ」
シリウスは不愉快そうに鼻を鳴らす。
だが、その顔にはどこか余裕がある。
奴の視線はヴラディミールへ。
俺はそれを追う。
そこには……
「は? 」
「ブルルッ……ッッアッ……ブルルルルルァァァァァァッッ! 」
どんどん巨大化していくヴラディミールがいた。
「おいおい……」
ヴラディミールの巨大化は高さ10メートルくらいでストップした。
首を上げる。
痛い。
「ブルルァ……」
ヴラディミールの口からは蒸気みたいな息が漏れる。
「不治の傷を負わせる斧にビームに、最後は巨大化か。盛りすぎだろお前」
溜め息混じりに言うが、あいつの耳はこっから10メートルくらい上にある。
聞こえちゃいないだろう。
まぁ、聞こえてても会話は成り立たないんだけど。
「ブルッちまったかぁ? おい? こうなったらもうお終いだぞ! やれ! ヴラディミール! 」
「ブルルァァッッ! 」
「ハハハハッ。潰れろ! ハハハハ……」
はぁ。
俺は浅く息を吐き、遥か上から降り下ろされる拳を見つめる。
それが今にも俺を潰してしまいそうな所にまで来る。
その瞬間、俺は鋭く右足を振り上げた。
俺の右足と、奴の右の拳が激突。
その結果、奴――――ヴラディミールは上空に吹き飛んだ。
「ハハハハ……ハァァァァァァァァァァァッッ!? 」
高笑いを一転、驚愕の叫び声に変えるシリウス。
口をあんぐりと開け、空に浮かぶ巨大な牛人を見つめている。
しかし、いつまでも浮いてはいない。
重力に従い、下降する。
シリウスに向けて。
「うぉぉぉぉぉっ!? 」
自分の所目掛けて真っ逆さまに落下してくるヴラディミールに焦るシリウス。
俺がそれをニヤニヤと眺めていると、奴はそれに気づいたのか、取り乱すのをやめて平静を装いだす。
もう遅いわ馬鹿め。
奴は右手を上空にかざし、
「魔術教典第3章《衝風》」
突風を発生させる。
それにより、ヴラディミールは再び上昇。
術が消えると、再び落下を始めるが、さっきより速度が落ちている。
シリウスはそこから更に魔力で生成した風を使い、ゆっくりとヴラディミールを下ろす。
気絶してんのか、魔術は解けて人間の姿に戻ってる。
「器用だねぇ」
ヴラディミールを地面に下ろしたシリウスに、口笛を吹きながら言う。
奴は睨むだけで、何も言わない。
「後はお前だけだぞ、大将」
「上等だ、てめぇ……」
シリウスがゆっくりと舞台に上がってくる。
しばしの静寂。
奴がゆっくりと、右手の人差し指を向けてくる。
「……消えろ! 」
そこから、熱線が放たれた。