初めての屍術
「解りました!このゲームから屍術を用いてキャラクターを作成するんですね!」
「うん。じゃ、どうすればいいか教えてくれるかな?」
「はい、では、そのゲームの会いたいキャラクターの事を考えて、念じてください。そうすれば、目の前に扉が現れます。あくまで貴方の思い入れと想像力が能力値を決めますので、理解が深いほうがいいのは、いうまでもないと思いますが…。」
言われるまでもない。オレだけではないかもしれないが、このゲームに思い入れがある人はどっぷりだった筈。ゲームを改めて手に納める。何処まで想像できるのだろうか、とりあえず試してみる事にした。これで一つの扉が現れるのかを確かめる。『ぶぅん』という低い音。目の前にあるのはひとつの扉。成功はしたのだろう。
「はい、これでオッケーですよ!くろっく様の勧誘スキルをここから堪能させていただきますね!」
「まぁ、失敗しないよう祈っててよ。」
社会人必殺奥義「営業スマイル」を繰り出して、扉を開ける…大分前に感じた、スマートフォンの光を思い出していた。
うん、目の前が見えるようになってきた。握り締めていたゲームはなくなっていて。ただ、知る人ぞ知るSRPG。その中の登場人物…どうしても、会いたかった。
「君が、私を呼んだのかい?」
「うん、そう。ちょっと待って、もう一人いると思ったのだけれど…。」
「貴公が、私を呼んだのか。…私は死んではいない筈、だが。」
「でも、扱いとして、最後は無力化されての逃亡だからね。ここに来れる時点で、再起不能な状態を認識させられてるという扱いだと思ってるよ。」
「貴公は歯に衣着せぬ物言いをするな。」
「まぁ、これからオレの指揮下に入ってもらうから、下手に出るわけには行かないんですよ。」
ある意味、この世界の名雄の二人。それが揃い踏みしている。歓喜で胸が踊るようだ。なんとか虚勢を張っているけれど、見抜かれていそう。ちなみに若干棘のある言い方だけれど、そこに怒って我を忘れる騎士ならば、選んでいない。彼もまた騎士として耐えることを覚えている、超一流の御仁だった。それを再確認する意味も含んでいる。長い髪と、片目が特徴の騎士。もう一人はフードを被った騎士。ともあれまずは説得だけれど、フードのほうは案外らくだとは思う。
「さて、オレとしては、貴方達二人で一つのユニットを組んでもらおうと思っています。貴方達が敵対している事は知っていますが、貴方たち二人で協力した方が、より力が発揮されると思っています。御二方とも、組みたくないとは思われるかもしれませんが、そこを曲げていただくつもりです。」
とりあえず目的をストレートに伝えてみる。表裏の交渉勝負は、この二人には無謀だろう。特に長髪のほうは、性格を把握しきれていなかった。二人とも百戦錬磨、どちらも隠し事を見透かされるようでは、聞き入れてもらえない雰囲気を醸し出している。
「私としては、騎士としての忠義を尽くすだけの心意気があれば、良しとするつもりだ。一度再起不能に陥った身、そこを拾い上げる君に、心意気に打たれた。t…、君はどうだ?」
「私としても根本的にはh…、貴公と同様、ある意味再起不能であろう私をを拾い上げてもらった恩義はある、それには応えるつもりだ。だが、質問しよう。貴公は、私を手に入れてどうするつもりなのか。手を汚す覚悟があるのか。私を使うということはそういうことだ。それにh…も、口には出していないが同様だろう。この回答次第で考えさせてもらう。」
ふむ、任務に縛られない時の長髪騎士は、こういう人格なのか。確か、別のゲームでも出ていたが、出自のせいで若干ひねくれたようではあるが、思慮深い忠義に厚い人だった気がする。うむ。それはそれで、ある意味理想ではあるな。目を瞑り、もう一度考える。質問について、この質問を投げかけた騎士について。嘘も裏もない心で考える。
「そうだね、折角、稀有な能力を手に入れたんだ。思い入れのある貴方達を私の騎士として迎え入れたい。与えられた一国の主の立場だけれどね、出来るならこの期待にも応えたい。芯は細いかもしれないけれど、これがオレの本心です。それと、手を汚す覚悟ですが、オレは基本手を汚すつもりはありません。」
俄かに長髪騎士の表情が険しくなる。まぁ、そうだろう。そもそもゲームだからという事はある、だけど、昔、この問いへの答えをどこかでみて、感銘を受けたものがある…。上の意見としては、間違っているかもしれない。この答回の意が彼にそぐわない場合、中途半端なカードになってしまう可能性があるが、そんなの百も承知。でもうわべだけの回答ではそもそも同意を得られないような、彼の存在を繫ぎ止めて置く事すら不可能になる、そう思う。
「手を汚すつもりはない、と。貴公はそういうのだな?」
「ええ。貴方と同じ立場なら、この手を汚すのはオレの仕事でしょう。ですが、オレは上に立つ。オレとしては、理想を貴方達に押し付ける事になると思います、でも手は汚さない。オレが手を汚す時は、貴方達、そして同胞を全て失った時でしょう。貴方の望む答えではないのは解っています。ただ、オレの上の立ち方は、そうありたい、有るべきだと思っています。甘いですが、貫くつもりです。
さて、言うだけは言い切った。これで駄目なら仕方がない。
「うむ。貴公との立場の違いはあろう。その上での回答ということであればー」
ここで長髪の騎士は一度言葉を止める。沈黙が続く…。胃が痛いんだけれど。しかし沈黙を破ったのはフードを被った方だった。
「t…。いい加減主を試すのを止めたらどうだ。この回答を出した時点で貴殿の回答は決まっているだろう?」
「…そうだな。覚悟を理解させて貰った。貴公は手を汚さないと言ったが、貴公はこの世界一般的に一番辛い手の汚し方となるだろう。象徴と言うのは、裏はどうにしろ表は綺麗でいなければならない。解っているな?」
「ええ。解っているつもりです。この手を汚す前に止めてください。覚悟はありますが、未熟なのも理解しています。」
即答。理解と期待をしてもらえて、本当によかった。
「まさか貴公と共に戦うことになるとはな。」
「それは私としても同じ事。同じ方向は向いていなかったが、それはこれからも同じだろう?」
「然り。だからこその組み合わせなのだろう。我らは背中合わせがちょうど良い。」
光の中から戻ってくる。その光の残滓がオレの指に纏わり付いてカードの形をなすそこにはこう書かれていた。
名称 二律の騎士『R』
ランク SR
体力 A
攻撃 S+
防御 S-
特殊能力 治癒波動 1.体力小回復
2.自然の摂理に反する相手へ威力中特攻ダメージ
闇の剣技 1.威力中闇属性攻撃
2.剣技ヒット毎に最大体力1段階減(戦闘中のみ)
ものすごいカードになってしまっていないか?後ろでカードを見たナタさんがビックリしているようだった。
「おかえりなさいませ!くろっく様…ものすごい能力のカードを作られましたね…。」
「そうにゃの?」
「ぷすす…戦ってみればわかりますよ!」
くぅ、噛んだ。しかも笑われた…。しかし、行きなり実践だけれど…。
「行きなり戦闘して大丈夫?」
「大丈夫です!」