スマホを買い換えたはずが…。
「ふむ、こんなものでいいのかな?」
スクリーンに出ているのはYOU WINの文字。正直、同格には負ける要素がなさそうに見えたが、やはりそのようだった。歓喜の笑みでオペレーターが勝利を告げてくる。
「やりましたね!余裕の勝利ですよ!」
耳元がキンキンする。もう少しトーンを落としてもらいたいものだ。
それにしても、なんなんだろう、このゲームは…やり始めたばかりで、よくわからない。ただ、登録した時のレアカードがとてつもなく強いことだけはわかった。
「思い入れ、ねぇ。」
確かに思いいれのあるカードにはなりそうだ、それほどまでに、似ている。口に出さないよう努めるが、オレ自身久しぶりに興奮しているようだった。カードには二人の騎士が背中合わせで構えている、まぁ、この二人ならそうだろうな。
「さぁ、どんどんカードを増やしてこの世界を私たちの手に!」
「しないよ、そんな大それたもの…。」
「えー。」
「それより君の声、どうにかならないのかな?耳の奥に響くんだよ…」
どうしてこうなったのか、オレは今仮想空間的なところでカードバトルをしていた。
…誰かわかる人がいるなら教えて欲しい。ともあれ、今はゲームからログアウトできるのかが非常に心配だ…。
一つ一つ、今までのことを思い出していこう。それは、会社を仮病を使って休んだ昼からに遡る…。
「はい、それではこちらがお客様の商品です。」
手渡されるは一つのスマートフォン。手渡されて感じたのは、うん、いまどきのスマホはそれなりに軽いんだね。元々はガラケーを使っていたのだが、流石に使いすぎたのだろう、いかんせんガタが来た。いい機会だしスマホと呼ばれるものに変えてみよう。そうしよう。
そう思い立って社会人のオレ、時串 ワタルは仮病を使って街に出た。仮病でも使わないと休みも取れないオレの会社万歳。社会人として、2年目、たまに無茶振りをされては、イライラ仕事をこなす。合コンのお誘いとかもあるにはあるけれど、いつも隅っこ。何の変哲もないが、いわゆる残念な社会人だ。 言うな。自分で悲しくなってる。趣味はゲームとか、音楽収集とか?たまにギャンブルもする。
「ありがとう、お姉さん。」
にっこりと営業スマイル。染み付いた笑みだ。それでも機種変更のお姉さんは気分がよかったらしい。
この笑顔は営業スマイル以上だろう、とわかる満面の笑みだ。照れるな。
満面の笑みを元に戻し、一応、と機種変お姉さん…伊藤さんという苗字だったが、補足事項的なこと付け加えてくれた。
「-なので気をつけてください。あと…今、コラボキャンペーンをやっていまして、お客様には不要かもしれないのですが、ソーシャルゲーム『エンドレスワルツ』といわれるものはご存知ですか?」
む、名前程度なら知っているけれど、オレのガラケーでは起動すらしない類だったから、気にもしていなかった。
「はい、名前くらいなら。今一番遊ばれているソーシャルゲームの一つ、でしたか。」
「ええ、こちらの機種に変更した得点として、本日までなんですが、とうりょくりょう…登録料が無料になるサービスが受けられます。」
噛んだ。まぁ、スルーしてあげるのが大人の対応か。
いまどきソーシャルゲームなんて雨後の竹の子さながらに生まれているのに、数年前から確実にプレイ人数を増やしている、まぁ、仕事以外でヒトとのつながりもあまりない。登録して暇つぶしをするのも悪くない…か?
「うん、わかったよ。因みにお姉さんは登録しているのかな?」
とりあえず、お姉さんとどうでもいい会話をして、ショップから出る。うん、これはどこかでもう一度初期設定をしなければならなさそうだ。折角だ、ついでにそのエンドレス何たらについても登録だけはしてみるか…。
…誰だよ。簡単に初期設定が出来るなんて言ってたのは。ショップのおねーさんか?!いや、オレだ、オレオレ。セルフオレオレ詐欺だっ。お姉さんが心配そうに設定はどうします?て聞いてただろうに、オレってやつは…。設定中にコーヒーどころか軽い軽食まで平らげてしまったぜ。本日の軽食はショコラセットだ。
まぁ、とにかく基本登録は終了。これで素敵なスマホライフを…っと、忘れてた。なんだっけ、エンドレスワルツだっけ?どっかで聞いたロボットアニメとは関係ないだろうと思いつつ、サイトへ行ってみよう。…うん、たどり着いた、ナンダコレ…3500万人登録?!凄いな!日本のソーシャルだよなぁ?これなら、仕事が不定期に休みでも楽しめるだろう。
さて、登録…メールアドレス、ニックネーム、おうけい。どうも、評判サイト等を見るに、カード5枚を選んで戦っていくゲームのようだ。適当に…うん、ファンタジーな世界で戦争中の3国に所属して、どこに向かって攻めてもいい、そんなゲームか。別に全一なんて目指しちゃいないし、所持カードは…うん、課金して30枚か。まぁ、お金に余裕があれば一過性じゃ無いのであればおうけいだ。
…ん?なんだ?ポップアップ?になんか書いてあるぞ?『おめでとうございます!』って。新手の詐欺かなんかか?まぁソーシャル内のページに行くだけだから、見るだけならおうけいか。そういって、タッチしたあとスマホが光った、いや、マジで。
ふと目が覚めたら、真っ暗でなにもない空間。自分の姿が認識できるから、暗闇ではない…ってコトは、なんだろうなこの不思議空間は。世の中って、こんな不可思議なことが起こるようになってたっけ?現状認識が追いつかない。そうこうしているうちに、後ろから声をかけられた。
「おめでとうございます!くろっく様!!お客様で4000万人目の登録者ですよ!」
「…はぁ。」
何を言っているかが解らない。かろうじてオレのことを「くろっく」と呼んでいることは認識した。4000万人目といっているのも解ってきた…。え?
「この世界は…」
「お察しのとおり!エンドレスワルツの世界へようこそ!」
「夢か。寝落ちしたんだな。さて、もう少し…。」
「ちょーと待って下さいっ!!寝てもログアウトは出来ませんよ!」