プロローグ
その少女は「こわいゆめ」という絵本が大好きだった。
その本はどこにも売っておらず、ちょうどお昼どき、少女が一人庭で遊んでいる時に優しそうな青年が「秘密だよ」と言いながらくれたものだった。
少女は絵本に魅了された。
初めは怖い夢を見てしまいそうで、中々本が開けずに、毎日手に取り表紙を眺めては小刻みに体が震えて恐怖のあまり手を離す。
しかし毎日毎日表紙を見ていると、表紙に描かれた楽しそうな女の子。その女の子が手に持っているピエロの人形が気になりだした。
勇気を振り絞って本を開ける。そこには怖い夢を見た少女と、その少女を元気づけようと遊ぶ五人のピエロが描かれていた。
少女は次第にピエロの人形が欲しくなった。その人形は最後、もう怖い夢を見ないようにと、少女に渡したものだった。
どうしても欲しかった少女は、絵本の裏の電話番号を母親に見せねだる。
母親は少女に「今は忙しいから」となかなか電話をしなかった。
数日が経ったある日、荷物が届いた。中にはあの人形が入っており、母親はその人形を少女に渡した。
少女は嬉しくて毎日毎日人形を抱きしめながら絵本を読み、毎日毎日人形を抱きしめながら眠りに付いた。
この物語はその少女が見た、夢の、怖い、楽しい、夢の物語。