表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/70

町長と話し合いをします

 早速だが、と彼は話を始めた。手元に置かれている何やら怪しげな文章をピラピラとさせ、おもむろにそれを読み上げる。


「エットナト・ダイン様。

 首都ガーデスにおいて、臣民を混乱に陥れる魔物たちの残虐性は語るまでもありませんが、彼らはとうとう剣術大会の会場まで襲撃するに至りました。

 無辜の民がまたしても尊い命を奪われ、その尊厳を蹂躙されたことはまことに痛ましく、私はこれに無念の意とともに哀悼をささげるものです。

 こうした事態を放置することもできず、私たちは独自に魔物たちがやってきた進路を探り、こうした事態を引き起こさぬよう、何らかの対抗手段をとるつもりでありました。しかし、近頃ガーデスに入り込んだ田舎出の生意気なる豚が、私どもの邪魔をして、なかなか真実へ近づけさせません。

 正義を行う我らを妨害するとは、彼らはなんと傲慢なのでしょうか。豚の分際で神にでもなったつもりなのかと、私たちは憤りを隠せません。ややもすれば、彼らこそが魔物をガーデスに引き入れている元凶である可能性も見え隠れしております。

 ホリンクの町もガーデスとそう遠からぬ地であるゆえ、この豚をお見かけの際は是非捕縛し、ガーデスの我らへ護送していただきたく思います。

 どちらかが死するまで盟友である リジフ・ディー」


 読み終わると、彼は元のようにそれを置き、次の一枚を取り出した。

 ちらりと横のイリスンを見ると、顔面蒼白になっている。もう少し追い詰められたら、心臓が止まるかもしれない。

 私は彼女を励ますために、心配ないという気持ちを込めて背中を軽く撫でる。不思議にもそれだけでイリスンは少し息を整えることができたらしい。


「スム様」

「しっ」


 何か話そうとするイリスンをおさえる。

 ホリンクの町長は軽い咳払いをわざとらしくしてから、こちらを見た。


「この手紙はつい先日届けられたところだ。そして、今から読むこちらの手紙にいたってはたったさっき、今届けられたばかりのものだが、聞くがいい。

 親愛なるエットナト・ダイン様。

 首都ガーデスがとうとう、豚の手により魔物の手に落ちました。豚は東口より首都を離れ、混乱と破壊の後を尻目に逃げ出しております。

 私は破壊されたガーデスを復旧させるために動けないため、ホリンクで豚をお見かけの際はぜひとも捕縛し、御一報ください。

 豚を送ってくださった暁には、その謝礼を惜しまないつもりであり、約束のものをお届けすることを確約するものです。

 永遠に盟友である リジフ・ディー」


 読み終わると、ホリンクの町長は私にその手紙を差し出す。受け取って読んでみるが、今読み上げられたとおりの内容だ。リジフ・ディーの署名が本物であるかどうかはわからないが、信憑性は高かった。

 つまり、彼は私たちがここにやってくるということも読んでいた、ということになる。いや、可能性の一つとして考えていたというのが正解かもしれない。北のバルディエトにも似たような手紙を出しているかもしれないのだ。

 とはいえ、現状ではそれほど危機感を抱いてはいない。イリスンはいつ逃げ出そうかと周囲の様子を探っているが、ホリンクの町長はこんな手紙を読み上げずともただジャクを私の手から預かればそれですべてはうまくいったはずだ。人質をとられた私たちはなす術もなくガーデスに護送されただろう。

 だがそのようにしなかったということは、おそらくこのエットナトという町長は何か思惑があって私たちを招いたと考えられる。

 そこで私は手紙を彼に返し、客人の態度で訊ねる。


「あなたとリジフ・ディーがつながっていたとは思いもよりませんでした」

「そうか、まあ私としても彼と盟友だとはあまり思っていないが」


 エットナト氏は軽く首を振って、疲れたような顔を見せる。


「あれを盟友と呼ぶくらいなら、まだ牧羊犬のほうが友達にしがいがあるというものだ。裏切ることもなかろうしな」

「リジフ・ディーが裏切ると?」

「もう既にな。君は、今の手紙の内容を事実と考えるのか」


 そういわれては、否定するしかない。


「彼は嘘をついているように思われます」

「はっきり言い切りたまえ」

「私としては、リジフ・ディー自身が魔物をなんらかの方法で意図した場所へ誘導し、被害をもたらしているものと考えております。彼は私に罪をなすりつけ、自分は名誉を保ったまま王位を簒奪しようと考えていると思います」


 自分の考えを、とりあえず告げる。私は頭の回転がよくないと自負しているが、これがリジフの思惑通りである可能性も高い。とはいえ、ここで何もいわないというのはまずい。これ以外に選択肢はなかった。


「そうだな。ひとまず、かけたまえ」


 エットナト氏にすすめられたので、私たちは用意されているソファに腰を下ろした。ジャクも私の左側に下ろしたが、予想外にソファがやわらかかったのか、後ろにひっくり返りかけている。


「私も町長などやってはいるが、頭脳明晰とは言いがたい。このような手紙を送られてしまって、正直なところどうすればいいのかわからんのだ。

 彼に従って、彼の元でホリンクを発展させていくべきなのか。あるいは王の臣として、彼のような逆賊を討つべく立ち上がればいいのか。

 どうしていくべきだと思う。私は決めかねている」

「私にそれをお訊ねになるとは」

「だが、君はスリム・キャシャの孫なのだろう」

「リジフ・ディーもスリムの血をひいておりますが」

「奴は関係ない。君のことだ」


 私を真っ直ぐに見つめて、エットナト氏は強く、そう訊ねてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ