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剣術大会に出場しないといけません

「私がここに出向いたということで、おおよその用件はわかってもらえているとは思うが」


 キコナはそう言って私を見つめてくる。そのとおり、大体はわかる。

 あっちから単独でこちらに出向いてくる以上、何をしたいのかということは明白だ。しかし、確かめておかなければならない。


「つまり、君はこれ以上こちらに手出しをするつもりがない、ということかな。

 リジフやヤチコは私たちにとって非常に迷惑なことをしているが、それをどう説明するつもりだろうか」

「あれは……予定外のことじゃった。

 私個人としてはおぬしを敵に回したいとは思っておらん。それと、必要以上にこのガーデスを混乱に巻き込みたくもない」

「本当にそう思っておられるのか」

「信用できないと?」


 私は首を振った。ただ聞いてみただけで、キコナを疑っているわけではない。最初に出会ったときにも一応こちらを気遣っていたあたり、ヤチコやリジフに比べるとまともな印象を受けている。キコナは信用してもいいだろうと思えた。

 だがそれだけで完全に彼女の言うことを信じてしまうのはよくない。

 ちらりと横を見るが、イリスンは表情を殺して、真顔でただ座っているだけだ。彼女はここではキコナを観察することに注力するらしい。

 話は私が進めるしかないだろう。


「たしか、キコナ・ヨズ・セケア……でよかったのかな。

 田舎出なのでどこがファミリーネームかわからないが、なんとお呼びしたらよろしいだろうか」

「ヨズ・セケアでファミリーネームなのじゃ。キコナと呼んでくれればよい。

 こちらも確認するが、スム・エテス殿で間違いはなかったかの。それに、そちらはイリスン・ボック殿か」

「間違いない。ではキコナ女史、先ほどガーデスを混乱に巻き込みたくないとおっしゃったが、逆にいうならそのようになる見込みがあるということだろうか」


 名前と素性を確認しあったところで、話を先に進める。キコナは少し笑ってこたえた。


「私のことは呼び捨てでかまわんよ、こちらも気などつかわないのでな。女史などといわれるとむずがゆい。

 質問については、リジフたちが権力を得ようとしておるのでな。それにともなっていくらかは混乱が起こる可能性がある。少なくとも私は多少のリスクをおかしても経済を立て直すように献策をしてきておるしな。

 隠す必要も感じぬが、ヤチコが余計なことをしてくれたしの。この国の病巣を取り除き損ねた」

「病巣というのは、グリゲー・ゴンのことだろうか?」

「ああ、そのとおりじゃ」


 キコナが深く頷いた。


「それにしても予想外じゃったな、城で見たときはまさかおぬしがスム・エテスとはおもわなんだが」

「意外だったと?」

「どうかな。それより、私はここに密約を結びたいと考えてきた。いくらかは交渉の余地のある問題だと思うが」

「それは、どのような」


 私ではなく、イリスンが口を挟んだ。これに応じてキコナは頷く。


「私の邪魔をして欲しくない。そのかわり、そちらには危害を加えない。

 リジフやヤチコの行動は私の干渉できるところではないが、もしもそちらに危害が及びそうになったなら、私の力の及ぶ限りにおいてそちらを助けると約束する」

「そのような密約ではこちらが一方的に有利だ。キコナ、あなたを信頼するならだが。

 まだ他に要請があるのだろう」

「うむ、実は近々剣術大会が開かれることは知っておるはずじゃ。これにぜひとも参加してもらいたい」

「それは、何ゆえ」

「おぬしへの危害を減らすためじゃ。おぬしの名が知らされねば、リジフたちはそこらの雑魚と同じに見ることになる。踏み潰そうと襲撃者を送り続けるかもしれん。それではこちらも余計な力を消耗するし、おぬしも面倒じゃろう。お互いのためにスム殿はこの剣術大会である程度の成績を残してもらいたい」


 なんと、リジフの仲間であるキコナまでが私に剣術大会への出場をすすめてきた。だが理由はわかるし、筋も通った話だ。おそらく今言った理由が全てではないだろうが。

 どちらにしても、ここまできては断れる話でなさそうだ。


「わかった。だが、私としてはここで王からの注目を浴びることはまずいと考えている。

 もしも私の実力で剣術大会を勝ち抜けたとして、そこで王に賛美されるようなことはどうにか避けたい。何か手はないか?」

「なんとな。面倒な性格をしておることじゃ、地位や名誉はいらんのか。そんなにそうしたものが不要であるなら、こっちでなんとかする。

 スム・エテスは金をばら撒いて勝利を買っているとでも吹聴しておけば王からの目は冷たいものとなるじゃろう」

「ああ、そうしておいてくれるなら剣術大会に出よう」


 私は承知した。ここに、キコナとの密約は成った。

 彼女は何かしらの理由で私に剣術大会へ出場してほしかったらしい。私はこれを承諾して、さらに今度も『キコナ・ヨズ・セケア』の行動を阻害することはない。

 その見返りとして、キコナはこちらに危害を加えず、リジフやヤチコからもこちらを守ってくれるらしい。剣術大会に関しては私への悪評を流布し、名声が高まることを防いでくれる。


「大会にはこちらでエントリーしておく。必ず出場してもらいたい」


 キコナは安心したようだ。これは密約なので、互いに契約書などとらない。

 彼女はそのまま、帰っていった。

 イリスンはその後姿までも見送っていたが、彼女の姿が見えなくなるとようやく口を開いて一言。


「スム様、彼女と浮気してはいけませんよ」


 じっと見つめていたと思ったら、そんなことを心配していたというのか。

 私はため息を吐きたくなったが、こらえて「そんなことにはおそらくならないだろう」とこたえておいた。


 さて、剣術大会の仔細は全てイリスンが知っている。というのも、彼女はメリタと同じく過去に出場したことがあったからだ。特に語るわけでもなかったが、イリスンもこの大会において9位という名誉を勝ち取っており、今年も出場するつもりであったのだ。

 よければ説明しますが、と言ってきたので聞いておくことにする。


「私は出場するつもりでなかったので、あまり調べていない。よければ聞かせてくれ」

「はい。基本的には勝ち抜きの大会となります。個人戦と団体戦がありますが、団体の方はあまり人気がありません。

 スム様も金で勝利を拾っているという設定で行くなら個人戦でいいと思われます」

「何人くらい出場するんだ?」


 私は質問をはさみ、全容を把握する。

 出場者はおおよそ300人程度にもなるという。しかも腕に覚えのあるものがガーデスの外から数多く出場するため、年々大会自体がハイレベルなものとなり、これでも出場者数はおさえられつつあるのだとか。

 つまり、我こそはという実力者ばかりが300人いるということなのだ。そこで勝ち抜き3位となったメリタは本当に凄まじい腕の持ち主であることが知れる。無論9位のイリスンも。


「リジフは恐らく出場してくるでしょう。彼はまだ王に覚えのめでたい若者というくらいでしかありませんから。

 ここで優勝でもかっさらい、一般市民からの支持も得たいと考えているはずです」

「キコナは私にリジフと戦ってほしいのかな?」

「さあ、わかりません。いずれにしてもせっかく出場なさるのですから手加減など無用です」


 イリスンはそう言うが、大会は実のところあと一週間というところまで来ている。このことはメリタから聞いていた。


「わかっている。手を抜いては相手に失礼だからな」


 そもそも私にできることなどほとんどない。ただ走っていって突き飛ばすか、張り倒すかしか。


「それと、バシャークもたぶん出場してきます。彼は団体戦の方でしょうが。

 私も姉も、出ます。スム様には悪いですが」

「ああ、そうだろうな。では試合でかち合った場合は遠慮なくいかせてもらうということで文句ないな」

「無論ですとも」


 イリスンは少しだけ悪戯っぽく笑うのだった。



 一週間は短い。

 その間、特にさしたる事件は起きなかった。魔物たちもガーデスまで襲い掛かってくるようなことはなく、比較的落ち着いている。ガーデス内部も襲撃事件などはない。私の周りでも何もなかった。

 これはおそらくリジフやグリゲーが大会に向けて準備をしていたからだろう。このようなときに犯罪を仕出かしては出場自体が危うくなってしまうからだというイリスンの意見も的をはずしてはいないかもしれない。

 ヒャブカ将軍はまだガーデスに留まっていて、大会を見に来てくれるようだ。メリタやイリスンも出場するのだから当然だろうが、将軍自身はさすがに参加しないという。


 私は久しぶりにジャクを肩に担ぎ、大会前のにぎやかなガーデスを散策していた。イリスンやメリタは準備があるといって別行動中だ。武器や鎧の準備が必要のない私とは違うのだろう。

 大会の開始まではまだ30分ほどの時間がある。


「スム、……あれ」


 ジャクはガーデスのあちこちに増設された出店に興味津々である。あちこちを指差しては何を売っているのかと私に説明を求めてくる。


「あれは黒糖を使った甘い飲み物だ。飲んでみるか?」

「いい……きいてみただけ」

「そうか」


 彼女はあまり欲しがらない性格だ。遠慮しているのかと思ったらしいイリスンが何度か押し付けていたようだが、こういうときは本当にいらないらしい。

 ここしばらく構っていなかったせいか、私が迎えに行くとことのほかジャクは喜んでくれた。脚が弱く、出歩けない彼女としては私の肩が本当に安らぐらしい。いつまでもこの位置にいるということは難しいだろうが、彼女が外を見るためには私が足となるしかない。

 そして剣術大会の日は今日と明日しかないし、ヒャブカ将軍と一緒にいては護衛がぞろぞろといて気軽に動けない。

 今の彼女に、今のガーデスを見せるには私が担ぐしかないのだった。


「スム」


 ジャクは私の名を何度となく呼んで、あちこちを指差している。

 時間まで私は彼女と過ごした。

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