皮肉少年は、雨空を見た。
ああ、と嘆息をつきたかったのだけれど、どうやら僕にそれは叶わないらしかった。なぜかというと、そこから声を出すはずの喉に、もう必要な水分がないからだろう。……だからこそ嘆息をつきたかったのだ。
皮肉だなぁ、と、もう声が出ないために心の中で呟いた。それから、誰もいない路地に力なく横たわったまま、すっと視線だけを動かして空を見上げる。
先ほどからは音もなく弱い霧雨が降っていて、少しずつ僕とこの路地を湿らせている。僕がいるこのアスファルトに、今すぐ水溜まりができてくれたらいいのに。弱々しい霧雨は、僕に水を与えてはくれないらしい。
空腹なんてもう、とっくに感じなくなっていたのだけれど、すでにそのころには、少し離れたコンビニのトイレでも借りて水を飲みに行くような体力は残っていなかった。飢えが過ぎても喉は渇くんだな、なんて、他人事のようにおぼろげに考える。
渇きが、ひたすらに残ってしまっている。
僕は淡く願う。だだただ、雨の勢いが増してくれることを願う。それ故にこの霧雨がいやに焦れったくて、焦れったくて、僕がもし元気だったら舌打ちしていたと思う。……元気だったら、こんなに雨に思いを馳せたりしないのだろうけれど。
せめて、もう少し生きたかった。
曖昧になり始めた思考の中で呟いてみる。こんな願いは叶いやしないと、この雨に触れるとわかってしまうから、つい笑いが込み上げてきて、笑うことができないことにまた心の中で笑った。
もう一度だけ、皮肉だなぁという文字を頭に浮かばせた。あんなにも欲しかった雨が、もうなんだか憎くなってきている。ただ雨を願っているのに、どうしてか雨が嫌で、嫌で仕方がない。
ああ……僕はもうすぐ、飢えて息絶えるだろう。
雨音が聞こえないことが辛くて、けれど、嬉しくて……僕は、空から視線をはずしてゆっくりと目を閉じた。
雨とおなじくらいに弱々しい自分の呼吸が、やけに大きく聞こえる。相変わらず雨の音は聞こえないなか、やがて全ての音が遠退いて……。
雨は勢いを増した。
ザア、と音を立ててアスファルトに叩きつけるそれは、すぐに水溜まりを作って、少年の髪を泳がせる。
雨粒が少年の肌で弾けて、頬を伝った。
激しい雨垂れは、冷たい少年の体を、さらに冷たく冷やしていく。