魔法改造井戸端姉弟
「あーやばいわー、そろそろやばいわー」
「どうしたの姉ちゃん。まさか高校卒業まで後二ヶ月なのに留年決定とか?」
「えげつないこと言うな、姉ちゃんは成績トップを維持して卒業するよ」
「あー姉ちゃんって無駄に頭いいよね」
「無駄っていうな、あんたがあたしと一緒の高校に入れたのはあたしの家庭教師としての腕がスペシャリトだからだぞ」
「姉ちゃんって頭いいのに馬鹿だよね」
「だー、いちいち姉ちゃんを貶めるな、大学推薦で入れるくらいの誇れる姉ちゃんだぞ」
「分かったよ、渋々だけど認めるよ。それで何がやばいのさ」
「堂々と認めろよ。あーそれでそろそろやばいんだ」
「だから何がって聞いてるじゃん、同じこと言わせないでよ」
「ゆとりを持てよ、人生が楽しくなるぞ」
「話題逸れてるじゃん。これ最後だよ、もう聞かないよ? 何がやばいんだって」
「あー聞く? 聞いちゃうかー」
「いやもう聞かないよ?」
「分かったよ、言うって。夜更け前に語り合おうぜ」
「明日も学校なんだから手短にね」
「おーらい。あたしさー、ほら、魔法少女じゃん?」
「いや知らないよ、初めて聞いたよ、何そのとんでも発言、勘弁してよ、色んなことが不安になって眠れなくなっちゃうよ」
「だーから落ち着いて聞けって。あたしって実は魔法少女なんだよ」
「分かったよ、詳しく聞きたくないから流すよ。それで魔法少女の何がやばいの。人生?」
「えげつないなー、お前はほんとにえげつのない弟だよ。成績トップで大学推薦で決まっててもてもての姉ちゃんの人生がやばいわけないだろ」
「いやいや何をさらっと嘘織り交ぜてんのさ、もててないでしょ。彼氏いたことないじゃん。いや、その件について深く突っ込むと泣き出すから言わないけどさ」
「おーう今既に涙が込み上げる寸前だぞ」
「悪かったよ、それで? 魔法少女の何がやばいの? これ聞くの二回目だよ?」
「わーかったよ、えとなー。ほら、あたしって十八歳なわけじゃん」
「知ってるよ、先日二人きりで誕生日パーティやったじゃん」
「弟、弟よ。二人きりってくだりはいらないだろ、楽しく誕生日パーティをやったでいいじゃんか」
「ごめんごめん、悪かったよ、根っからの正直者なんだよ。それで?」
「いや、それでっていうか、それだよ。十八歳ってのがやばいなーってことだよ」
「あ。あー、そういうこと? 十八歳っていうそろそろ少女って呼べない年頃なのに魔法少女を名乗るのは如何なものかってこと?」
「そーだよ、そろそろやばいだろ。十八歳で魔法少女はぎりぎりだろ」
「魔法少女の時点でぎりぎりだよ。年齢なんてこの際些末なものだって、気にせず頑張っていけばいいよ。さて、結論も出たことだし寝ようか」
「寝ねーよ、意地でも寝ねーよ、そして結論は出てないぞ」
「何だよ姉ちゃん、これほど明確なる結論はそうそうないよ?」
「あるだろ、何一つとしてあたしのやばさが解決してないぞ」
「分かった、分かったよ、もう少し付き合うから。それで何さ、姉ちゃんはやばいに対して何か指針たる考えを持ってるの?」
「えー聞いちゃう? 気になっちゃう?」
「いや今すぐ寝て今晩のことは忘れたいよ」
「おーい、大切な思い出の一つとして保存しろよ」
「分かったよ、厳重に保管して二度と開かないよ。それで姉ちゃんは何を考えてるのさ」
「んー、そうだなー。ほら、やっぱり魔法少女なわけだし、ミラクルに素敵なんだし、若輩に道を譲ろうかなと考えてるんだよ」
「あーそれはいいことだね、丸きり肯定するよ。魔法少女をやめて若輩の魔法少女に任せるってことだね、いいんじゃない?}
「だろー? でもな、一個問題があるんだよ」
「一個で済むなら万々歳だよ、どんな問題さ?」
「後継者が必要なんだよ」
「んーっと? あ、もしかして若輩の魔法少女ってのは目処が立ってるわけじゃないの?」
「え? いやいや違う、根底からして違う。はー、あんたは魔法少女ってのをちっとも分かってないな」
「生きる上で何一つ知らなくていいことだからね、そんなため息混じりに落胆されたら姉ちゃんが不憫に思えてくるよ」
「えげつない、お前はほんとにえげつない弟として育ったなー。小さい頃は姉ちゃん姉ちゃんって擦り寄ってきてたのになー」
「純真無垢な頃合は大体皆そうだよ。えーっと、話は終わったんだっけ?」
「終わってないよ、始まりだしたところじゃん。なに? おねむなの?」
「もちろん眠たいよ、それに姉ちゃんと話してると脱線が多くてめんどくさいんだよ」
「おおーう、あれだぞ? 今、あたしは結構本気でまじ泣きしようか悩んでるぞ?」
「いやいや不毛なことで悩まないで話を進めてよ、後継者が何だっけ?」
「ええ? あー、後継者な。そうそう、このまま十八歳のぎりぎりさを抱えて魔法少女をやっていくのは如何なものかと、そんで後継者に道を譲ろうかなと考えてるんだよ」
「一分前くらいに聞いたよ、それで? 譲ればいいんじゃないの?」
「お前は何でも簡単に言うなー。少しくらいは悩まないといい恋愛ができないぞ?」
「………………………………」
「おい、彼氏という現象と無縁のあたしが捨て身で言った突っ込みどころに黙っちゃうって何だよ、姉ちゃんを馬鹿にしてるのか」
「してない、してないよ。突っ込んでいいものかどうか本気で悩んじゃったんだよ。もうその件は流しておこうよ、誰も得をしないから。で? 譲ればいいんじゃない? これ聞くの二回目だよ?」
「お前はすぐに回数で脅しをかけてくるなー。これでも魔法少女なんだし、脅しには屈しないぞ?」
「三回目は言わないよ?」
「ごめん悪かったよ、ちゃんと答えるから姉ちゃんの相談に乗ってくれよ」
「あ、これ相談だったんだね」
「そーだよ、そんでな? お前は簡単に譲れって言うけど、魔法少女は世界に一人なんだよ、あたししかいないんだ」
「あんまり深く聞きたくないけど、後継者がいないってこと?」
「そーだよ、一子相伝なんだよ。あたしが魔法少女をやめるってことは、他の誰かが魔法少女になるってことなんだ」
「いや一子相伝の使い方間違ってると思うけど、別にいいんじゃない? 二重の意味で。姉ちゃんはほんとにもうぎりぎりなんだし、誰かに魔法少女をやってもらえばいいじゃん」
「お前なー、お前はほんとに簡単に言うけど、ちょっとあたしの身になって考えてみろ」
「えーっと? どういうことさ?」
「じゃあ、クイズ形式でヒントを出すぞ?」
「えーやだよ、これだから姉ちゃんと話すのはめんどくさいんだよ」
「おいおい、姉ちゃんの声が震えてきてるのが分かってるのか? 泣く寸前だぞ?」
「ごめんってば、正直さを美徳と信じて疑えないんだよ。じゃあ、ヒントちょうだいよ」
「おーらい、ヒントな。姉ちゃん、携帯を持ってないぞ」
「あ、友達一人もいないから誰にも魔法少女を引き継げないの?」
「ふっぐ。う。えぐ。ぞうだよ。悪いかよ」
「いやいやごめんごめん、ほんとごめんってば。そんな子供も真っ青のまじ泣き披露しないでよ、これから寝るぞっていうのに気分が重たくて仕方がないよ」
「ぐふっ、えぐ。ぐじゅ」
「ほらほら嗚咽は仕方ないとして鼻水は拭おう、十八歳として魔法少女以上にぎりぎりだからさ。それで何だっけ? 後継者が欲しいけどいないって話だったよね?」
「ぞーだよ、ひぐっ、友達いないよっ」
「あー分かった分かった、ちょっと話を逸らすよ。とりあえず落ち着けるようにあんまり聞きたくなかった方向に話を逸らすから。えと、姉ちゃんって魔法少女って言ってるけど、いつからやってるの?」
「いづからってなんだよ、ぐしゅ」
「あー、まだ混乱してるね? 落ち着いて考えてみよう、これ以上ないくらいにちゃんとした質問だったよ。姉ちゃんっていつから魔法少女をやってるの?」
「いつから……えーっと、一ヶ月前くらいかな?」
「相変わらず気持ちの切り替えが早いのは感心するんだけど、え、姉ちゃんって一ヶ月も前から魔法少女やってたの?」
「そーだよ、かれこれ一ヶ月もやってたんだぞ。すごいだろ」
「いや、簡単には頷けないけどね。それで? どうやってなったの? 魔法少女」
「あー、そこ聞いちゃうか? 本丸を責めちゃうか?」
「うんうん、そうだね。それで?」
「それでな? 姉ちゃん、一ヶ月前くらいに車に撥ね飛ばされたんだよ」
「ああ、その時に頭を打ったんだね」
「打ってない、ちっとも打ってないぞ。あれ? 弟、真剣に話を聞いてるか? あたしはこれ以上ないほど真剣に相談を持ち掛けてるんだぞ」
「分かったってば、今から真剣に聞くから。いやでもさ、一ヶ月前っていうけど、車に撥ねられたのなんて知らないよ? 目立った怪我とかしてないよね?」
「そーだな、外傷は一つもなかったぞ。姉ちゃんは頑丈が取り柄だからな」
「それがどうして魔法少女になっちゃったのさ。車に撥ねられて何があったの」
「あれだなー、世界は広いってことだよ」
「そんなことは今更姉ちゃんに言われなくても知ってるよ。で、何があったの? これで二回目だよ?」
「お前はほんとに冗談が通じないなー。いきなり核心を話しちゃうとお前がびっくり仰天して倒れちゃうかもしれないから冗句を挟んだんだぞ」
「分かったよ、姉ちゃんの気配りには感動してるよ」
「だろー? それでだな、車に撥ねられちゃったあたしは妙な研究施設に運ばれ、そこで改造手術を受けたんだよ」
「えーっと、病院に運ばれて治療を受けたんじゃないんだね? そこははっきりさせておかないといけないとこだよ?」
「おーらい、そんくらい姉ちゃんだって分かってるって。あそこは確かに病院じゃなくて、謎めいた研究施設だったよ」
「そこで改造手術を受けた結果、どうなっちゃったの?」
「魔法少女になっちゃったんだよ」
「………………………………」
「あーもう、びっくりして倒れちゃうって言っただろ。あたしが世界は広いって冗句を絶妙のタイミングで挟み込んでたから、お前は黙っちゃう程度で済んだんだぞ?」
「いや、いやいや、姉ちゃんの思考回路にびっくりして黙っちゃったんだよ。え、ちゃんと突っ込んだ方がいいの? 姉ちゃん、それって魔法少女じゃなくて改造人間になったってことだよね?」
「はあ? 改造人間って、ぷっくく、その発想はないだろー」
「いやいや姉ちゃんの発想がないよ、あるがままに受け入れたら改造人間だよ。え、その研究施設の人って姉ちゃんを改造手術して何て言ってたの?」
「えー? そこは聞いてないから知らないよ」
「聞こうよ、そこは重要だよ。今からでも遅くないから聞いてみようよ」
「それができたら苦労はしないっての。あのな、まだ話は終わってないぞ」
「えー、まだ続くの? 改造手術されて魔法少女になった先に何があったのさ」
「いやー姉ちゃんって気が小さいだろ? だから逃げちゃったんだよ」
「逃げたって、研究施設から?」
「そうそう、一目散だよ。脱兎の如くって例えてもいいくらいだよ」
「いや、例えなくていいよ。ええっと、改造手術を受けたけど何も聞かずに一目散に逃げちゃったってこと?」
「だなー、要約するとそんな感じだなー」
「そうなると姉ちゃんがどこをどう誤認して自分を魔法少女だと公言しているのか、大きな疑問が浮かび上がるよね」
「いやいや、そこに疑問はないだろ。姉ちゃんは確かに改造手術を受けたんだから、これはもう魔法少女以外の選択肢がないだろ」
「うんうん、そうだね。でもさ、姉ちゃんって何も聞かなかったんでしょ? そうすると魔法少女の引継ぎの件っておかしいんじゃない? 一子相伝とか言ってたけど、どうやって引き継ぐのかは分かってるの?」
「おー、お前は鮮やかに会話の進路をとるな」
「姉ちゃんはいつもその場でぐるぐるしてるよね」
「姉ちゃんを馬鹿にしてるのか? 明日のお弁当作ってあげないぞ」
「ごめんごめん、何でも言わずにはいられない年頃なんだよ。ほら、会話が逸れちゃうから、さっさと寝たいから説明してよ」
「魔法少女を引き継ぐ方法だな?」
「そうだね、その辺のことを知ってる理由もついでにね」
「あのな、説明書が入ってたんだよ」
「今時ゲームにすら入ってないのに親切な研究施設だね」
「だろー? まあ正確には説明書っていうか、改造手術を施した被検体の取り扱い方みたいなやつなんだけどな」
「あー、まず間違いなく姉ちゃんに宛てたものじゃないね」
「おおい、そういう言い方しちゃったら、まるであたしが説明書を盗んできたみたいじゃないか。違うぞ? 姉ちゃんの手は真っ白だからな?」
「はいはい、分かったよ。それで説明書には何て書いてあったのさ」
「えっとだなー、この被検体で何ができるのかってのと、被検体の特性のみを本体から移植する方法について記されてたんだよ」
「それで?」
「それで? いやいや、それだよ。移植する方法ってのが記されてたから、それを実行すれば魔法少女の役目は解任になるってことだよ」
「ああ、はいはい。こういうことだね? 改造手術を受けて魔法少女になっちゃったけど十八歳で魔法少女ってのも何だし引き継ぐ方法ってのは分かってるし、でも引き継がせる相手がいないから困ったな、どうしよっかなっていう相談をしたかったってことだね?」
「おおう、さすがはあたしの弟だな。あたしと似て理解が早いぞ」
「いやいや姉ちゃんの説明がしっかりしてれば二分で終わった話だよ。っていうか一ヶ月も経ってからじゃなくて、その日に相談してくれてれば良かったのに」
「お前なー、姉ちゃんがこの一ヶ月、どう過ごしてたのかを知らないのか? 毎晩毎晩、こうして部屋の隅っこでお前が通り掛かる度に、困ったなーとかそろそろやばいわーって言ってたんだぞ? 相談をしようとしてたのに気付いてくれなかっただろ」
「何でそんなに受け身姿勢なんだよ、普通に声掛けてよ。コミュニケーションの始まりを誤解しすぎだよ」
「過ぎたことは気にするなって、今は相談の解決法を考えようぜ」
「もっと考えるべきことは多くあるはずだけど、もう眠たいし分かったよ。後継者がいなくて困ってるってことだよね? これ聞くの二回目だよ?」
「あー、はいはい、そうだよ。その通りだよ」
「姉ちゃんがそんな態度なら今すぐ部屋に戻って何もかもを忘れるよ」
「うっぐ。そ、そんなこと言うなよ、ひっぐ、一ヶ月も掛けて相談したんだぞ?」
「あーごめんごめん、もう逸らす話もないから泣かないでよ。じゃあ僕でいいよ、僕が後継者になるから」
「……ぐずっ。ほんとか? 魔法男子になるのか?」
「いや、その肩書きだとなりたくないけど、とにかくちゃっちゃと済ませようよ。そろそろ日付も変わるし眠たいよ」
「お前はあれだなー、魔法少女を引き継ぐのに何の感動も葛藤もないんだな」
「そりゃないよ、だってなったからって何をするわけでもないんでしょ?」
「何でそんなことが言い切れるんだ、魔法少女ってのは大変な仕事かもしれないぞ」
「いやいや、だって姉ちゃん家に帰ったら全然外出ないじゃん。休みの日もずっと家に引きこもってるじゃん」
「姉ちゃんがヒッキーだって言いたいのか?」
「違うの?」
「………………いや、そうだけれども」
「じゃあ、ほら、さっさと移植しちゃおうよ。姉ちゃんは十八歳の魔法少女じゃなくなるんだし、相談は解決でしょ」
「おーらい、じゃあやるぞ」
「え、何で口に指を突っ込んでんの? 大丈夫?」
「ふぁ? ふぉーひないほはめはんだよ」
「いやいや、一旦指を抜こうよ。ちゃんと説明してから始めてくれないと不安で仕方がないよ」
「えー? あー、そうか? あのな? あたしの歯に銀歯みたいなのが被さってて、それを取り外してあんたの歯に被せたら移植は成功なんだよ」
「うん。うん、姉ちゃん、ちょっと頭を働かせれば分かると思うんだけど、それって移植とかしないで外して捨てちゃえばいいんじゃない?」
「ばっかだなー、それができないから困ってるんじゃないか。そんくらいのことは姉ちゃんだって二日目に気付いたよ」
「何で二日も要してるんだよ。いや、それはいいとして、できない理由って何さ」
「説明書に記されてたんだけどな、これって移植されてないと位置情報を発信するんだよ」
「あー、技術を無駄に使ってる感じだね。移植されてると発信されないんだ?」
「らしいぞ? そんでな、位置情報が発信されちゃうと、逃げた立場のあたしとしては大変だろ?」
「色々と盗んじゃってるわけだからね」
「おおい、人聞きが悪いだろ。怖くてついつい逃げ出しちゃったんだから仕方ないだろ」
「はいはい、とにかく姉ちゃんには後ろめたさがあって見つかるわけにはいかないから捨てるに捨てられないってことだね」
「そうだな、外した瞬間に位置が割れて即座に誰かが来たら姉ちゃんはパニックに陥っちゃうからな」
「それじゃあ、位置情報ってのが発信されないくらいに素早く移植を済ませないといけないね。さっきのままやってたら間違いなく失敗してたよ」
「そんなことはないだろー」
「いやいや、いきなり銀歯みたいなのを差し出される弟の気持ちになってみようよ、姉ちゃんはまず想像力を養った方がいいよ」
「そっかー。じゃあ、今度こそオッケーか?」
「いいよ、すぱっとやっちゃおう」
「外したらすぐさま渡すぞ?」
「一回洗いたいとこだけど、すぐに歯に被せるよ」
「おーひ。はすすほー」
「無理して喋らないでよ」
「抜いた!」
「受け取った――はめたよ」
「おー、流れるような作業だったな。姉弟のコンビネーションが炸裂したな」
「うんうん、そうだね。これで問題は解決、ぐっすり眠れるね」
「何だよー、そんなにおねむだったのか。言ってくれればいーのに」
「ちょこちょこ言ってたよ。んじゃ、おやすみ」
「おー、待って待って、まだ一個説明が残ってるから」
「え。いや、姉ちゃん、移植を終わらせたのに説明が残ってるのはおかしいよ。そういうのは最初に言っておかないと」
「え? あー、そうか? ごめん、姉ちゃんの気配りが足りなかった」
「その他にも色々と足りないけど、なにさ?」
「あのな、それを被せてると魔法が使えるんだよ」
「魔法? あー、ただ妙なものが被さってるだけなのに何で改造手術とか魔法少女とか言ってたのか甚だ理解ができなかったけど、何かできるんだ? 何ができるの?」
「汗で物がぶち壊せるようになるぞ」
「ん? んー、詳しく説明してよ」
「いや、そのまんまだぞ? 手汗をかいて触れれば壁とかぶち抜けるんだよ。体に汗かいちゃうと着てる服がぼっろぼろになるんだよ、超大変だよな」
「えーっと、割りと深刻な問題を最後にさらっと出してきたね?」
「え? ええ? いや、いやいや、違うぞ? 姉ちゃんはお前に大変さを押し付けようとしたんじゃなくて、十八歳だし魔法少女は卒業した方がいいんじゃなかろうかと大層悩んで相談しただけだぞ? ほんとだぞ?」
「それだけ疑問符が多いと本心を偽ってるとしか思えないよ。まあ、うん、いいよ。これは僕が適当に処分しとくから」
「ほんとか? 怒ってないのか?」
「姉ちゃんが常識から見捨てられてるのは重々承知してるから大丈夫だよ、怒ってない」
「そっかあ。あー、良かった、肩の荷が下りたー」
「それにしても、よく一ヶ月もばれずに生活できてたね」
「姉ちゃんはヒッキーだからな。今月は学校以外の外出をしなかったからな」
「全然威張れることではないけど、まー良かったよ。っていうか、こんなものを人に埋め込むって、その研究施設って怪人でも作ってるんじゃないの?」
「あー、かもしれないぞ。きっとあいつらは悪党だったんだ、そうに違いないぞ」
「あ、そう思い込むことで逃げたこととか盗んだことを正当化しようとしてるね?」
「そ、そんな馬鹿な、違うぞ? 全然そんなことはないぞ?」
「ああ、はいはい。分かったよ。とりあえず問題は解決したんだし、そろそろ寝ようよ」
「ん。そうだな。あ、あのな?」
「ん? なに?」
「ひっぐ。ふぐ。ぐしゅ」
「いや、いやいや、何でいきなり泣き出してんの? 思考回路が規格外すぎて不安になってくるからやめてよ、どうしたのさ」
「ぶしゅ。ほんとどうしたらいいか分からなくて困ってたんだ。ぐしゅ。あのな、ありがとうな」
「あーもう、気にしなくていいから。ほら、さっさと寝ないと明日も学校だからさ」
「ひっぐ。おやすみ」
「ん、おやすみ」
「あ、寝汗でベッド壊さないようにな?」
「あー、壊したんだね? 気をつけるよ。おやすみ」
「ん。おやすみ。愛してるぞ」
「はいはい、僕もだよ」