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短編集。  作者: 伯灼ろこ
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くせ者揃いで遠足へ行くと大変なことになるという教訓。

※実際に作者が奈良へ行った時の体験談です。


■『影操師』シリーズを読んでいないと意味不明。

■キャラ崩壊注意。

■テヘペロ★

 電車に揺られ、辿り着いた先は古代の都。かつて平安京があった京都府を妙にライバル視する、奈良県だ。


「奈良にキター!」


 近鉄奈良駅から地上に這い出た伊佐薙マオは、長く辛い冬の果てに訪れたポカポカ陽気に包まれた世界が嬉しいらしく、人目をはばかることなく大声を上げた。


「キター!」


 そんなマオを止めることなく、一緒になって声を張り上げたのは梨椎世槞だ。通行人がこの2人を避けるように歩いている。

 世槞は大きく深呼吸をし、古都の空気を可能な限り取り入れようと欲張る。


「なにここ?! 鹿がいるわ……野生の鹿が、都会の街中に放たれているわ! それもおぞましい数の! 奈良が鹿に占領されているわ! 新手の侵略行為よ!」


 次に地上へと足をかけた山茶花さくらが、何食わぬ顔で鎮座する鹿の群れを見て大声を張り上げた。鹿と通行人が、さくらから同時に距離を取る。


「奈良に鹿は有名だヨー。ほらほら、そんなに怯えてないでさ、近寄って見てごらん? さくちゃんより百倍可愛いから!」


 いつの間にか背後にいた可ノ瀬朧の頬を、さくらは光の速さで引っ叩いた。


「ううっ、酷い。ボクは真実を言っただけなのに……ねぇ、マオマオ?」


「うわっ、俺に振んなっ」


 さくらの平手打ちがマオを襲う頃、柊ゆうと笹楽坂茴の初々しいカップルが地下階段より姿を現す。


「茴、奈良は初めて?」


「ええ。話には聞いていたけど……奈良って、本当に街まるごとが鹿オンリーの動物園だったのね」


「ははは。それ、勘違いも甚だしいね。誰に聞いた話なの? 僕が凝らしめてこよう」


「えーと、確か世槞さん……」


「え?」


 柊が世槞を見た時、世槞は満面の笑顔でこう答えた。


「え? 違うの?」


 どうやら世槞も間違った情報を聞いた被害者らしい。


「マオがそう言ってたんだけど――」


「ぎゃああ! 世槞ちゃんっ、これ以上俺を鬼に引き渡さないでくれ!」


 柊は黒い笑顔でマオを見る。


「……僕、前からマオさんに言いたかったことがあったんですよね。腹に溜まりすぎて爆発するかと思われましたが、今、それを発散出来そうです。機会を頂いたこと、感謝します」


 背後で何かが執り行われている間に、梨椎愁と朱槻ル哥が仲良く階段を上ってくる。


「なにこれ。どういう状況?」


 奇妙な組み合わせをみた世槞の一言だ。


「つーかル哥、お前なんでまだ日本にいるのよ?」


「そりゃぁアレだ。作者の都合だ。こういう、歴代のキャラクターが集合する話には参加しないと後々不味いだろ。梨椎先生とは面識すら無いんだけどな」


 愁は着用している白衣の胸ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。


「俺もな、自分の可愛い妹を殺そうとしたやつと共演はおろか、仲良しを装うなどはらわたが煮えくり返る思いだが、神(作者)の意志には従わねばならんと思い、こうして作り笑顔を無理やりに引き出しているんだよ」


「ちょっ……、愁、ル哥が怯えてるから止めて。超止めて」


「ああ……止めてるつもりなんだが、どうしてもこう……オーラに混じってしまう。殺気が」


 ル哥は速やかに愁の元を離れ、比較的安全と思われる七叉の陰に隠れるように立った。


「あ、七叉いつの間に」


 階段をタタッと駆け上り、最後の1人と思われる夕柳十架が姿を現す。


「すみません、遅れました」


「遅かったなぁ。全員、一緒に電車を降りたはずだろ? 車両は各々のワガママのせいで別々だったけど」


「ええ。俺は世槞と同じ車両を切望したのですが、見えない壁に阻まれて不可能でした」


「は?」


 意味がわからないが、まぁいい。

 世槞は駅前に集まった面々を眺め、大人(作者)の事情により参加出来なかった2人の姉弟を除く全員の点呼を取る。


「ちゅうもーく。皆そこに並んで座ってー。今から名前を呼ぶから、呼ばれた人は返事するのよ。はい、そこ立たなーい。えーと……まず、相模七叉くん」


「はい」


「朱槻ル哥くん」


「……ああ」


「夕柳十架くん」


「はい」


「柊ゆうくん」


「はい」


「笹楽坂茴さん」


「は、はい」


「山茶花さくらさん」


「はーい」


「可ノ瀬朧」


「なんでボクだけ呼び捨てなの?」


「伊佐薙マオ」


「安心しろよ、朧ん。俺もどうしてだか呼び捨てだ」


「梨椎愁お兄ちゃん」


「……お前に“お兄ちゃん”などと呼ばれたのは初めてなんだが」


 点呼を終え、世槞は首を傾げる。


「参加者は、私を含めて11人だろ? 1人……足りな……あ」


 飲食店のガラスに映った己の姿を見て、世槞は自分が誰を忘れているか思い出す。


世槞「やべー……」


さくら「それはヤバいわね」


茴 「どうしてですか?」


ゆう「僕も茴に忘れられたら悲しいよ」


茴 「私はゆうのこと絶対に忘れないわ」


ゆう「ありがとう」


朧 「ニヤニヤするねぇ、キミたちの関係」


マオ「若いっていいな……」


世槞「……やべぇ。わ、私、今すぐ紫遠を探してくるから、皆は先に東大寺へ向かっててくれる?」


十架「俺が探しましょうか? 世槞は一応、今回の遊びの立案者ですから、皆の先導を……」


世槞「ダメ! 今、十架が行ったら確実に死ぬ!」


ル哥「俺もそう思う。なんの迷いもなくそう思える」


七叉「夕柳は本気で怖いもの知らずだな……」


愁 「お前らグダグダ煩いぞ。早く世槞を行かせてやれ。……あの世への片道切符を切られたくなければな」


 世槞は奈良に集まったやたら悪目立ちする団体から離れ、1人、来た道を戻る。

 奈良駅の改札前にて、『せ●とくん』なる異形の怪物像を前に立ち尽くしている梨椎紫遠の姿を発見する。世槞の顔色はサッと青ざめ、紫遠を目掛けて疾走する。


「しーおーんー! そのバケモノを見たらダメだー! 食われるぞー!」


 その一言で奈良県民全員を敵に回した世槞は、紫遠と共に駅内から摘み出されることになる。


「……皆は?」


 奈良県民からの集中する鋭い視線を受け流し、紫遠は世槞に尋ねる。


「先に行ってもらったよー。東大寺で良かったよね?」


「そう、良かった。じゃあ僕らは明日香村にでも行こうか」


「えっ? そうだっけ? もしかして私、指示を間違えた……?」


「間違ってないよ。僕らは当初、東大寺への旅を予定していた。でもね……」


 紫遠はあきらかに声を震わせ、拳を握り締める。


「僕ら2人だけのデートにする予定だったのに、何故だか姉さんは余計な野郎共まで引き連れてきた」


「?? デートって、つまり遊びに行くことだろ? ……遠足、だろ? 遠足は皆で楽しむもの……」


「デートだよ?! デート! デートと遠足を同じにしちゃうって何?! どんな発想なんだよ!」


「ひいいっ! やっぱり紫遠の存在忘れてたこと怒ってるんだ!」


「なに言ってんの?!」


「ごめんなさい! この人が謝ってくれるから許して!」


 世槞は通行人の頭を鷲掴みにし、地面にこすりつける。


「その人、この上なく関係ないよね」


 紫遠はズレた謝罪をする世槞を見て、もうどうでもいい、と思う。


「皆と合流しようか」


「いいの?」


「その方が姉さんは楽しいんでしょ?」


「えっ? そうなの? 私は紫遠と2人だけでも楽しい!」


「姉さん……」


 予期せぬ感激が紫遠を襲う。


「じ、じゃあやっぱり明日香村に……」


「お前ら遅いぞー。梨椎先生に様子を見に行けって言われて来てみれば、紫遠がゴネてるだけじゃねぇか」


 空気を読まずにル哥が現れる。


紫遠「5秒以内に僕らの前から消えてくれる? このシスコン野郎」


ル哥「いやいや、お前にだけは言われたくねぇの極みだから」


世槞「行こ、行こ。早足で行けばすぐに合流出来るから」


紫遠「ル哥。君は僕らの10倍ほどの速度で行ってくれないかな」


ル哥「泣きたいくらいに分かりやすい厄介払いだな」


朧 「3人ともー! こっちこっち! 意外と早かったね。待ってた甲斐があったよぉぉ」


世槞「まさか皆、行かずに待っててくれたの?! ごめん! ありがとう!」


紫遠「余計なことを……」


朧 「しおたーん。今さぁ、超ショック受けるような言葉が聞こえたんだけどぉ」


ゆう「きっと空耳ですよ。では皆さん揃ったことですし、行きましょうか。あそこで服を鹿に食べられているマオさんのことは無視して構わないと思います」


マオ「待ってくれー! お前ら助けろよぉぉぉぉ。鹿たちの為に鹿せんべいを大人買いした結果がこれなんて酷すぎんだろ!」


さくら「あら、可愛いじゃない。鹿に囲まれて羨ましいわ」


ル哥「さっきまで鹿を侵略者扱いしてた人間が言う台詞じゃないな」


 さくらはル哥の突っ込みを華麗にスルーする。


さくら「私も鹿せんべいを買う……って、売り切れじゃないの! なに買い占めてんのよ、この馬鹿!」


茴 「さくらさん。向こうにも鹿せんべいの販売店があります」


十架「ああ、あっちの店の鹿せんべいもマオが買い占めている姿を見ましたよ」


七叉「どこまで馬鹿なんだ……。おい、皆、東大寺の近くには鹿せんべいの販売店が点在しているはずだ。マオは捨て置こう。戦場では、時には仲間を見捨てることも大切だからな」


 一行が東大寺へ向かう途中、世槞は奈良公園の中にポツンと建つ門だけの史跡を発見する。


世槞「“鴎外の門”だって。これって、あの森鴎外?」


紫遠「他に鴎外さんいるかい?」


世槞「いないよねー」


紫遠「ここはね、森鴎外が帝国博物館総長として奈良に滞在していた時の宿舎跡なんだよ」


世槞「ふーん」


朧 「コン、コーン。森先生のお宅ですかぁ? ボク、不治の病に倒れた母親を助けてほしくって……」


さくら「ハァ? ここは田中の家ですけど。間違えてんじゃないわよ」


朧 「すみませーんっ。じゃあ森先生の家はどこでしょうか?」


さくら「自分で調べたらどうなの」


七叉「いや、待て。ここは森先生の家で間違いはない。俺はここで森先生に何度かお会いしている」


朧 「えっ?! つまりっ……?」


七叉「事件の臭いがする。おい女、お前は一体……」


さくら「ふっふっふ。今更気付いても遅いのよ! 森鴎外はすでに」


紫遠「くだらない」


 紫遠は世槞の手を掴み、即席コントを繰り広げる変人たちから足早に離れる。


世槞「おおっ。観光客と鹿で埋め尽くされてるところが見えてきたけど……あそこが東大寺?」


紫遠「東大寺へ至る道だね。近くには春日大社や若草山があるよ」


世槞「ひゃーっ、鹿がいっぱい! 可愛いー! 私も鹿せんべいあげたい! ねぇ、買ってよ」


十架「構いませんよ。何セット欲しいのですか?」


紫遠「出てくるな、人形オタク」


愁 「待て、夕柳。妹に手を出したいならば、まず俺に許可を申請しろ」


十架「出ましたか。最終関門が」


紫遠「愁。それで許可を出したりしたら、僕、普通に怒るんだけど。怒った後は姉さんを連れてここから消えるよ」


ゆう「お三方。世槞さんはすでに修学旅行生からお金を巻き上げ、鹿せんべいを買いあさっていますよ。更にその行為をマオさんが斡旋しています」


十架「あいつ生きていたのか。仕方ない、とどめは俺が」


愁 「任せる。妹の手を犯罪に染めさせないでやってくれ」


紫遠「もう遅いよ……深く傷ついた姉さんの心は僕が癒やしてあげるとしよう」


十架「紫遠さん、抜け駆けは禁止ですよ」


紫遠「黙れ。腐れ外道」


十架「おや、心外ですね。なにを根拠にそんな暴言を――」


紫遠「読んだんだ」


十架「なにを」


紫遠「作者の部屋にあった、『影操師―人形師―』を」


十架「え」


紫遠「君さ、僕がいない間になに好き勝手やってくれてんの。ほんと、殺したくて仕方ないんだけど」


十架「……お前が悪いんですよ」


紫遠「なにが」


十架「世槞の恋愛感覚を破壊し、自分好みにカスタマイズするなんてな! 腐れ外道の名はお前にこそ相応しい!」


紫遠「姉さんは僕のものだ。自分のものをどうアレンジしようが、僕の勝手だろう。勘違いするな、所詮は姉さんと血の繋がっていない他人め」


十架「他人で結構。というか、普通、恋愛というものは他人同士で成り立つもの――」


紫遠「氷閹! こいつを殺せ! それ以上無駄口を叩かせるな!」


 奈良公園の一部に謎の吹雪が発生している頃、柊ゆうと笹楽坂茴は一足先に東大寺南大門に足をかけていた。


「ふふ、作戦成功ね」


 茴はクスクスと笑い、ゆうの手を握る。


「うん。大成功だ。――邪魔者を排除し、僕ら2人だけで東大寺デート」




終……?


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