タクキ宅にて
頭がぼーっとする。ふわふわ浮いているようだ。何だか、身体の節々が痛くて仕方がない。
熱だ。
体温計を手に取り、計ってみる。
ぴぴっ。ぴぴっ。
「やばっ!」
タクキは、悲鳴をあげた。
「何度よ?」
さほど興味はなさそうに漫画を読みながらマサキが聞く。
「6度!」
「平熱じゃあねぇかよ!」
漫画本をタクキに放り投げる。タクキは、女のように悲鳴をあげた。
「いや、でもさ。何か辛いから寝るわ」
布団を敷き始めるタクキ。
「おう。俺は漫画読むから」
タクキにぶつけた漫画を拾いあげ読み始める。
「あー。床擦れおこすまで寝るぞー」
もそもそ布団に入るタクキ。
「おー」
とりあえず相槌をするマサキ。
「いやーそこはさ。寝返りはしろよ?とか、突っ込んでくれない?」
「面倒くせーよ。早く寝ろよ」
「おうおう!寝るぞ!」
「はいはい。寝ろ寝ろ。おやすみー」
「……ねぇねぇ」
「何だよ!寝ないのかよ!」
「いや、寝る空気を作って欲しいのよ!子守唄歌ってくれない?」
「iPodで自分の好きな曲聴けばいいじゃん」
「生声がいいのよ!マサキの」
「……。ねーんねん。ころーりよ。おこーろーりーよー……」
「え?終わり?」
「いや、続き知らないから歌えねぇよ」
「そこはさ!創作してくれよ!」
「俺は、漫画が読みたいんだけど⁉何で子守唄創作しないといけないんだよ!」
「いや、まじで!頼むわ!寝かしつけてくれ!」
「…………ねーんねーん。こーろーりーよー。おこーろーりーよー。……。坊やは良い子だ。ねんねーしーなー。あーそこのおやまはなんてーいーう。とうさん。かあさん。おら、しーらーねー。あのやまこえたーらなにあーるーだー。ねぇやーは、15で嫁にいきー」
「ぶっ!混ざってねぇ?」
「ああ。何か混ざったな。何が混ざった?」
「赤とんぼじゃあねぇの?ってか、創作うますぎだろ。マサキ天才」
「俺、そっち系いくわ」
「おう!いけいけ!」
「ってか、お前寝る気ないだろ?」
「いやいや!あるから!身体だりぃし!赤とんぼ混ざらなかったら寝てたから!」
「嘘つけ!子守唄の創作をがんがん覚醒しながら聴いてたじゃあねぇかよ!」
「いや、まじで!眠気が今そこらにあるから!転がってるから!」
「じゃあ、拾って寝ろ!」
漫画を読み出すマサキ。
「……。あかん。あーあかん!あかん!あかん!」
「うるせぇよ!」
再び漫画をタクキに向かい放り投げる。
「さっきの子守唄がツボに入って寝れないんだよ!」
「じゃあ、起きてろ!」
違う漫画を手にとり読み出すマサキ。
「…………なぁ。」
「…………」
「なぁってばぁ!」
「なんだよ!」
「ティッシュ取ってくんね?」
「……嫌だ」
「何でよ」
「近いじゃん。手を伸ばせば届く距離じゃん」
「だりぃんだよ」
「俺はお前の執事じゃあないから」
「マサキは俺のメイドさんじゃん」
「お前、まじで何言ってんだよ!」
「あー。ティッシュが俺を呼んでいるー。しかし、わずか10センチが彼を悩ませるー」
「…………」
「シカトしないで下さーい」
「俺、帰るわ」
「ごめんなさいごめんなさい。まだ居て下さいお願いします」
「いや、もう遅いしさ。この漫画借りるわ。また、明日学校でな」
「……うーっす……」
何だかさみしそうに返事をするタクキ。
マサキは帰宅後、翌日には漫画を返そうと思っていたので、その日の内に読んでしまった。漫画本は鞄にしまいこんだ。
そんな翌日。
タクキは、学校を休んだ。
インフルエンザだったらしい。
「まじか!」
マサキは、自分も感染したのではないかと異様に心配し、友人であるタクキから借りた漫画本を帰ってから徹底的に除菌したのであった。