まどろみ
夢を見た。あいつが俺に笑いかける。優しい声。ああ、幸せだ。もう離れないでいよう。放さないでいよう。
そして、俺は目を開けた。
「.....これも、夢か...」
とりあえず手をついて、体を起こす。
昨日の傷跡が痛む。枕元には血まみれのカッター。
またやったか。いや、覚えてはいる。
死ねやしないんだから、もうやめればいいのに。やめたいのに。
カッターにこびりついた血を爪で削り取っていると、ケータイが鳴った。うるさい。
ディスプレイに出たのは、あいつの名前。思わずケータイを壁に叩きつけた。そして、憎々しい気持ちをすべてこの言葉に乗せる。
「死んでくれ」
そう、死んでくれ。そしたら俺は楽になる。
あまり日の差さない小さなアパートの朝。
俺は長袖のシャツに袖を通す。傷口にはいつも通り、でたらめに包帯を巻いた。まだ血が滲むが、黒いシャツだから大丈夫だろう。
そう、いつからか、全てがでたらめになっちまった。
子供の頃見た、爽やかな風も、熱い香りも、柔らかな日差しも、愛しい感覚すべてが、愛しさそのものまでが、誰かに奪われた。
返してくれ。
優しい時間を返してくれ。
だけど、滴る血は、止まらない。
鏡の中の目つきの悪い奴も、笑顔を覚えない。
誰か助けてくれ。そう叫び出す前に、ため息をついて、面倒事は受け流す。
家のドアに手をかける。今日は暑そうだ。
学校への道々、考えていた。本当に死んでしまおうか。
俺が死んだところで、世界は毛ほども傷つかないだろう。むしろ、穀潰しがいなくなって、喜ぶかもしれない。
そうしたら、俺も目的を果たして、そう、みんなハッピーだ。
「うん、イケるかもな」
「何が?」
いつの間にか学校に着いたらしい、講義室で、隣の席の、知らない奴が、俺に聞いた。
誰だこいつ。
「あんた、誰だ」
「誰でもいいだろう、何がイケるんだ?」
「あんたに関係ないだろう」
「そう言われるとないなあ、でも、聞かせてくれよ」
「聞いてどうするんだ」
「さあ?まだ聞いてないから、それは知らないな」
「.....ちょっと、死にたいなって思っただけだ。ほら、あんたには関係なかっただろ」
「そうか、そうだな、じゃあ、死なないようにな」
そいつは、束ねたプリントを抱えて、どこかへ消えた。
なんだあれ。まあ、この学校は広い。もう会うこともないだろう。
俺は、帰りに死ぬ方法を考えようと、今は授業に集中するために、前を向いた。
帰り道に、いろいろと考えたが、最終的に首吊りに落ち着いた。かなり確実で、苦しまないからだ。
だけど、ロープを買うのも金がかかるので、テレビのコードを使うことにした。
いよいよ死ぬ。椅子に登って、古い鴨居にコードを結ぶ。
ああ、最後にあいつを殺しとくんだった。惜しいことをしたな。
俺は椅子を蹴る。
「また、夢......」
俺は汗びっしょりだった。息が切れている。うなされていただろう。
どうしようもない。きっと、俺は夢でしか死ねない。そう思った。
夢の中で話しかけてきた奴を思い出したら、あいつと同じ顔をしていた。
ケータイは鳴らない。そう、もう何年も。
俺の時間は、あの時で止まっている。
お前が死んでから。
俺はパソコンの電源を入れる。
今日も一日、ネットサーフィンだ。
疲れたな。
いつ、笑うのが嫌いになったのか。
もうわからない。俺はただ、逃げ切るだけ。
あいつとの思い出すら、死んで欲しかった。
今日はいつにも増して頭が休まらないので、俺はまた寝ることにして、目を閉じる。
耳元で誰かが囁く。
出てこい
歩け
死ぬな
生きろ
諦めるな
がんばれ
俺はすべてにノーと答え、まどろみに飛び込む。
俺が目覚めるには、まだ時間がいるんだ。
このままでいるつもりはない。
けど、もう少し時間をくれ。
まだ足が痛いんだ。
To be continued.....?
胸くそ悪くなりましたらすみません。
さいきん変なのを書くことが多いです。