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舞踏会3

作者: WAIai
掲載日:2026/09/12

ーまた来てしまった。

メアリーは賑やかな音楽と優雅に踊る場に、参加していた。

本当は来たくなかったのだが、家族が行けと言うので、渋々、来たのだった。

「あ、私に1つ」

メイドが持つグラスを手に取ると、口に含む。

お酒なので、かあっと身体が熱くなったが、構わなかった。

皆、蝶を呼び寄せるように、くるくると回転し、華やかなダンスを舞っている。

私はそこには加われないわと、やはり1人でベランダへ出る。

すっとした風の通りに、目を細め、気持ちいいと感じる。

手すりに手を伸ばすと、このまま逃げようかしらと本気で思う。

ー誰も来ないわよね?

周囲を見回すと、皆、狂ったように騒いでいる。

メアリーは酔いもあって、足を上げたその時、

「どこへ行くんだい?」

出た、とメアリーは警戒する。

振り向くことなく、メアリーは無視する。

ーどこかへ行ってしまえばいいんだわ。

腹を立てているのも当然で、またダンスに誘われるのは、お断りだった。

「答えないの? どうして?」

「…」

ふいと顔を背けると、男性が静かに近づいて来た。

「来ないでくださいませ!!」

威嚇すると、男性がふと笑う気配がした。

何? と思っていると、足早に近づかれて、後ろから抱きしめられる。

「な…!!」

メアリーは暴れようとして、もがいたのだが、男性のほうが力が強かった。

それでも抵抗を試みると、頭に男性の顎が乗る。

「ー僕が誰だか分かった?」

「!!」

振り向きたくても、男性の身体が邪魔してできない。

メアリーは抵抗しても無駄だと悟ると、大人しくすることにした。

ー何で、抱きしめられてなんか…。

少し顔を赤くする。

男性に抱きしめられるなんて思わなかったから、急に身体が火照ってくる。

鍛えられた身体だと、胸の厚さから知り、腕の力が強いのも、そのお陰かと思う。

「…暴れませんから、離してくれませんこと?」

緊張気味に言うと、男性は何故か逆に抱きしめる力を強くしてくる。

「駄ー目。僕のことを思い出して」

「そんな…」

焦った声で、メアリーが言うと、男性はくすくすと笑う。

メアリーが困っているのが、楽しくてしょうがないようだった。

「…全く。性格がひねくれていますわね」

「おや。それはどうも。でもお互い様だよね?」

切り返されて、メアリーはぐうの音も出ない。

ーここは素直に言ったほうがいいわね。

メアリーは白旗をあげると、男性の腕を叩く。

「申し訳ありませんが、あなた様の正体については、考えてみたのですけれど…分かりませんでしたわ」

「へえ…。考えてくれたんだ。それは良いことだ」

頭を撫でられ、メアリーは子ども扱いするなどばかりに、顔を上げる。

仮面をかぶった顔に見覚えはなく、悔しくて仕方がなかった。

「ー正体を明かしてくださいませ」

「おや。僕に興味をもった?」

「ち、違いますわよ!! そ、その…いい加減、離してくださいませんこと?」

「正直じゃないな」

髪にキスしてきたので、メアリーの身体が慌てる。

男性にここまで接近されたことがなかった。

ーあ、もう!! 何でもいいわよ!!

こうなったらギブアップするしかなく、男性に言う。

「私の負けですわ。名前と正体を教えてくださいませ」

「素直でよろしい。ーじゃあ、ヒントはこれ」

そう言うと、男性は仮面を取った。

メアリーは窺うように見つめると、端正な顔を凝視する。

ーどこかで見たような…。

男性はふと笑うと、ぽんと頭を叩いてくる。

「分かったかな?」

優しく聞かれ、メアリーの頭に浮かぶものがあった。

「こ、この前…!! お兄様の狩りの仲間の…!!」

「し。静かに」

さらさらした髪の毛に触れられ、指に絡めとられる。

メアリーとしてはそんなに触れられても困るのだが、動けないのでしょうがない。

「…でも、もっと昔に会っているんだけどな」

「…え? 何ですの?」

よく聞こえるさなかったので、聞き返すと、男性は整った顔を仮面で隠すと、言ってくる。

「名前はなーんだ?」

「な、名前…。そんなの知りませんわ。挨拶しかしていませんし」

「教えて欲しい?」

月光が2人を照らす中、男性が魅了するように笑みを浮かべてくる。

メアリーは反抗心もあり、男性の手を叩くと、負けずに言う。

「教えてくださいませ。その、お兄様に聞いてもいいのですけれど」

「駄目だよ。ケントには内緒。分かった?」

「何故ですの? 友達でしょう?」

「いいから秘密。仮面舞踏会は嘘と幻と、夢でできているんだよ」

不思議なことを言う御方だと思いつつ、メアリーは降参する。

「お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」

「ーダニエル。僕の名前は忘れないでね」

本当かどうか分からないが、ダニエルと名乗った男性は、面白がってメアリーで遊び始める。

ウエストに触れてみたり、ドレスのレースを撫でたりと、まるで人形を相手にしているみたいだった。

「わ、私で遊ばないでくださいませ、その、ダニエル様」

「そう? 僕的には楽しいんだけどな…。ね、メアリー?」

耳元で言われると、びくりとメアリーの身体が反応する。

耳に弱いと自覚し、空いた手で塞ぐ。

「卑怯だわ!! あなただけが余裕があるのは」

「そうなのかな? 僕的には、メアリーを気に入っているんだけど。…子どもの頃から知っているし」

「何? 何ですの?」

「何でもない。あー、よく喋った」

話は終わりとばかりに、今度は肩に顎を乗せてくる。

どうしたらいいのか分からず、メアリーは捕らえている腕に爪を立てる。

「き、気安く触らないでくださいませ!! ダニエル様」

「うん? そう? 社交界って、そういう場だろう? メアリーが潔癖すぎるんだよ」

「け、潔癖…? 私がですの?」

「そう。まだ殻のついたひよこみたいなものかな」

そう言うと、項にキスしてきて、メアリーはますます困惑する。

ースキンシップに慣れているわ、この御方。

何とかして離れないかしらと、足元を見るが、ヒールで踏みつけても離れそうにないので、うーんと唸る。

ちょうど飲み物を持ったメイドがやって来て、助かったと思ったのだが、

「飲み物はいらないから。あっちに行って」

ダニエルが断ってしまい、メアリーはああと落胆する。

「その…そろそろ離してくださいませんこと? ダニエル様」

「メアリーは嫌なの? 僕に触れられるのは?」

逆に聞き返され、メアリーはどうしようと途方に暮れる。

嫌悪感はないのだが、初めてのことなので、対応が分からなかった。

今度、兄のケントにこっそり聞こうと思いつつ、ポンポンとダニエルの腕を叩く。

「負けですわ、負け。もう正体を知ったので、それで満足ですわ」

「満足した? …僕としては、まだなんだけどな」

「はい? 何かおっしゃいました?」

「いや、何でも。メアリーといると、楽しいな」

ふふふと笑ってきて、そっと放してくれる。

メアリーとしては安心したような、淋しいような、訳が分からない状態だった。

「メアリー、正体が分かったところで、一曲、いかがですか?」

手を差し伸べられ、受け取ろうかどうしようか悩む。

「何で私ですの? 他に綺麗な方達がいらっしゃるのに?」

「メアリーがいい。それじゃあ駄目かな?」

魅惑の声と表情で言われ、メアリーはどきりとする。

天然なのかは知らないが、立っているだけで、人を魅了する御方だと、メアリーは罪深いですわと頬を膨らませる。

何だか自分だけ慌てていて、悔しかった。

「私、ダンスはしませんわ。この前みたいに、一曲だけでなく、2、3回も踊るなんて…。それに他の華達にも、人気のようですし。遠慮しなくても…」

「残念だけど、メアリーは僕と踊るの。ーさあ」

強引に言われ、メアリーはぐうの音も出ず、静かに手を差し伸べる。

正解とばかりに、秋風が2人を包み込んで、通り過ぎていく。

空を見上げれば、星が流れたようだった。

「うわ…。綺麗」

「何が? 僕のこと?」

「ち、違いますわよ。星がその、宝石みたいに美しいと思って」

「星か。しばらく見てないな。…小さい頃はよく知っていたんだけど」

またごにょごにょと言葉が聞こえず、メアリーはダニエルを見つめる。

ダニエルもメアリーを見つめ返し、2人は無言となる。

ー何か大きな秘め事をしているみたい。

どうしてか分からないが、そう思うと、ダニエルが腕を差し出してくる。

メアリーは自然とその腕に自分の腕を絡ませると、ダニエルに合わせて歩いていく。

段々と現実感がわいてきて、華やかだが、嘘や噂が飛び交う世界に戻される。

「ーいい? メアリー」

「いいですわよ。受けてたちますわ」

平然を装って言うと、メアリーは顔を上げる。

ウィンストン家ー伯爵家の娘として、恥ずかしくないようにしなければならなかった。

ーまるで舞台みたい。

賑やかな音楽に、派手な華達。

その間を行き交う蝶の様子に、負けてたまるかと毅然とする。

ダニエルが目を細めたようだが、流しておく。

「行きましょう、ダニエル様」

「もちろん!! 一曲、お相手いたします、お嬢様」

ホールの真ん中を陣取ると、2人は音楽に合わせて、華麗に踊り始めたのだった。

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