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断罪現場に陰からツッコミを入れる

作者: 井上さん
掲載日:2026/02/28

よくある断罪物


名前を借りました



「お前と婚約破棄する!」


 大広間の真ん中で、突然始まった。


〈目立ちたがりなのかな?

大勢の前で。普通に話し合えば良いのに〉


 私は小声でツッコミを入れる。


「理由をお聞かせください」


 婚約者である公爵令嬢グロリア様が、婚約破棄を突き付けたセドリック王子に聞く。


「お前が、私の愛するマーチをいじめたからだ!」


 王子は、男爵令嬢マーチを腕に絡ませている。


〈婚約者がいるのに、他の女とイチャイチャするとか頭おかしいのかな?

先に婚約解消してから付き合えばいいのに〉


「婚約者のいる人と親しくしてはいけないと言っただけですが?」


「明らかないじめじゃないか!この性悪女!」


 〈本当のことだし、婚約者のいる男に擦り寄る女のほうが、よほど性悪だと思うんだが〉


「それに、毎日のように罵詈雑言を浴びせ、突き飛ばし、殴ったと聞いている」


「そんな事してません」


 〈毎日?そんな事する暇ないよ。

授業終われば、遊びほうけたあんたの代わりに生徒会の仕事や執務をしてたから。王子妃教育もあるのに。

いや〜何で片方の意見しか聞かないのかなぁ?バカなのかなぁ?バカなんだね〉


「お前とは婚約破棄だ」


 〈うん。むしろ浮気男とは別れた方がいい〉


「もうお前は何もするな」


 〈マジかそれ大丈夫?〉


「学園を辞め王城から出ていけ」


 〈えっそれ困るのあんたじゃない?〉


「北の辺境への追放とする」


 〈出たよ北の辺境!バカの一つ覚え!

北の辺境は流刑地じゃないっつーの〉


「野蛮な領主から迫害され、何もない僻地の辺境で苦労しろ!」


 〈隣国の脅威から国境を守ってもらってるのにバカにしていいのかな?

独立するとか隣国に寝返るとかしたら、領土が減るよ?大変だね〜でも頭空っぽだから分かんないか〜〉


「かしこまりました」


 公爵令嬢グロリアが礼をする。


「え?」


 〈泣いて縋ると思ってたんか?〉


「それでは失礼します」


「え?」


 〈お前が捨てられたんだぞ〜

分かってんのか?頭お花畑だし無理か〜

明日から仕事回らなくて大変だね

まぁ自分のせいだもんね

がんばれよバカ王子〜〉


 公爵令嬢グロリアは、凛としたまま会場を後にした。


 〈さ、帰ろ帰ろ〜

永遠にさようなら〜頭も中身も空っぽ王子〜〉


「ぶはっ」


 後ろから声がしたのでびっくりして振り返る。


見ると、1人の男が腹を抱えて笑っていた。


「お前最高だな!ははははは…」


「聞いてたんですか?」


「ちょっと通りかかっただけなんだけど…聞こえちゃった」


 見たことない男。不審者か。騎士服を着ているが、見たことない騎士服だ。


「誰ですか?」


「俺?」


 それ以外に誰がいると?


ここは、グロリア様が出ていったのとは別の、大広間の出入口。

 バカ王子が何かやらかすんじゃないかと思って、テラスで待機していた。


貴族達は皆、大広間の中でバカ王子の茶番を見ていたから、誰も私の声は聞こえない。と思っていたから油断していた。


「俺は、北の辺境伯領の騎士団長だよ。辺境伯の代わりに夜会に参加してたんだけど、とんだとばっちりだね。王子の婚約者…元婚約者を受け入れないといけないなんて」


「冤罪なんですけどね」


「何故冤罪と思うんだい?」


 男は首を傾げる。


「私も一緒にいましたから」


「え?」


「予定みっちりだったんですよ。マーチに関わってる暇があれば、決裁書類にサインしてますよ」


 男は、目を瞬いた。


「君は…公爵令嬢とはどういう関係?」


「私はクラスメイト兼護衛ですね」


「クラスメイト兼…護衛?」


「うちは公爵家の派閥なんです。同い年なので、令嬢に仕えろと親に言われてて」


「なるほど。今日は護衛は?」


「他の人がいます」


「そっかぁ…じゃあもう少し話してもいい?」


「は?」


 私は男を睨みつけた。


「俺も辺境伯の部下として、うちに来る公爵令嬢の情報が欲しいからさ」


 黙って男をじとりと睨む。


「冤罪なんだろ?詳しい話を教えてくれたら、公爵令嬢を丁重に扱うように辺境伯に伝えるからさ」


「…分かりましたよ」


「じゃ、行こうか」


「何処へ?」


「君の家に送るから、話を聞かせてよ」


 私は黙って馬車乗り場へ向かった。


「それで?」


 男は、馬車の戸が閉まると同時に聞いてきた。


「公爵令嬢のグロリア様は、セドリック王子の婚約者として、王子の代わりに学園の生徒会の仕事をしたり、王子の執務をしていました」


「その間、王子は何してたの?」


「マーチとイチャイチャしてましたね」


「…それは…」


 男は絶句した。


「マーチと1回しか話したことないのに、グロリア様がマーチをいじめているって学園に噂を流して」


「その1回って?」


「グロリア様は、セドリック王子の婚約者。婚約者に絡んでくる女に注意をするのは当然でしょ?」


「『婚約者のいる人と親しくしてはいけない』って?」


「そうです」


「当然のことだし、いじめだと断罪するなんて悪質じゃないか。弁解はしないのか?」


「セドリック王子は、マーチの言う事を真に受けて聞く耳を持たないので、グロリア様の父である公爵様から国王様には伝えてもらってます。多分、今頃王子は国王様から叱られてるんじゃないかな」


「そうなんだ。じゃあ公爵令嬢は、うちには来ないか」


「グロリア様は北の辺境伯領に行くと思います」


「どうして?」


「セドリック王子なら、婚約破棄からの北の辺境伯領へ追放、ってしそうだねって、話してたんです。セドリック王子と離れれば、王子の仕事をしなくて済むから行こうかなって」


「あ〜」


 馬車が我が家に到着した。


「公爵令嬢がうちに来るなら、君も来ないか?」


「は?」


「公爵令嬢も、1人だと心細いだろ?」


「それは…」


「俺は北の辺境騎士団の団長のガゼール。君の名前は?」


「シルビアです」


「シルビア嬢か…考えてくれないか?是非、公爵令嬢と一緒に来てほしい」


 男は馬車から降りると、私に手を差し出して馬車から降ろした。


「俺はすぐに領地に帰って辺境伯と話をつける。準備して待ってるから」


 そういうと、男は、我が家の馬車の後からついてきていた辺境伯家の馬車に乗り込み去って行った。


「変な人」


 私がついていくにしても、家族やグロリア様と話さないと。


???

あれ?行く気になってる?






 それから、家族に婚約破棄騒動を話した。


本当にグロリア様が北の辺境伯領に行くのか確認しないといけないが、辺境の騎士団長を名乗る男に勧誘された事も家族に伝えた。


 母は寂しがったが、父は、公爵令嬢についていけ、と言った。


公爵家におもねる父ならそう言うと思った。


 翌日、公爵家へ先触れを出し、グロリア様と面会をする事にした。


グロリア様は、許可してくれ、すぐに用意して公爵家へと向かう。






「まさか想像通りだとは思いませんでした」


 挨拶もそこそこに、グロリア様が話しだした。


もう一人の護衛こと、グロリア様の従兄弟のローレル様も


「王子があんなで、この国は大丈夫なのか?」


 と、頭を押さえた。


「国王様が、1ヶ月の謹慎処分にしたって、お父様が言ってたわ」


 グロリア様が言うと


「「やっぱり」」


 私とローレル様の声がハモった。


「王子が動けないうちに、移動した方が良いんじゃないですか?」


「そうね」


 グロリア様とローレル様の言葉に、重大な事を思い出した。


「それなんですが」


「どうしたの?」


「昨日あの後、変な人に捕まって」


「何かされたの?」


 グロリア様が眉を寄せた。


「北の辺境伯領の騎士団長と名乗ったんですが」


「本当かな?」


「分かりません」


「それで?」


「グロリア様の事を教えてくれたら、辺境伯様に、グロリア様を丁重に扱うように進言するからって」


「教えたのか?」


 ローレル様が聞く。


「教えました」


「他に何もされなかった?」


 グロリア様が心配そうに聞く。


「グロリア様と一緒に来ないかって」


「一緒に?私と一緒に辺境へ来ないかってこと?」


「はい」


「何て答えたの?」


「何も…私の一存では決められませんから」


「そうね…それで、その男はどうしたの?」


「領地に帰って辺境伯様に話しつけてくるからって帰りました」


「他には何もされなかったのね?」


 グロリア様が私の手を握る。


「はい」


「良かった〜」


 ほっとした顔をするグロリア様。


「ご心配おかけしました?」


「心配したわ。それにしても…あなたが来てくれたら私も心強いけど…家族が心配するでしょ?」


「父はついていけって言いました」


「まぁ…」


「そう言うと思ってましたから」


 特に、何の感情もなく言う私に、心配そうにグロリア様が言う。


「それなら、一緒に来てくれる?」


「はい」


「じゃあ、急いで準備しないとね」


 そんなこんなで、話し合いも済み、10日後に辺境伯領へ出発することにし、辺境伯様にその旨の手紙を出した。






 辺境伯家からの迎えの馬車に揺られること7日、やっと辺境伯領に着いた。

グロリア様とローレル様と私は、馬車から周りを見る。


高い塀に囲まれた領地の入口に、騎士達が待っていた。


「ようこそ、辺境伯領へ。城までご案内します」


 声を掛けてきたのは、王城で会った男。騎士団長のガゼールと名乗った。


「あの人です」


 私が言うと


「本当に騎士団長だったのね」


 グロリア様が、安堵の表情をした。


馬車が馬に乗った騎士達についていく。


半日程して辺境伯城に着いた。


 ローレル様が馬車から降り、グロリア様をエスコートした。


私も降りようとすると、騎士団長ガゼールが手を差し出した。

ガゼールの手を借り馬車から降りる。


グロリア様の視線を辿ると、男が立っていた。


「お待ちしていました。私は辺境伯のレパードです」


 何だか熱の籠もった視線をグロリア様に向けている辺境伯様。


「お初にお目にかかります。グロリアです」


 グロリア様に合わせて、私とローレル様もお辞儀をする。


「長旅お疲れでしょう。先に部屋に案内しますので、お寛ぎください」


「ありがとうございます」


 年配の執事が、ローレル様にエスコートされたグロリア様を案内する。


「では行こうか」


 ガゼールは、そのまま私をエスコートして、グロリア様達について行った。


「???」


 私の頭が?でいっぱいになっていると


「来てくれて良かった」


 とガゼールが満面の笑顔で話しかけてきた。


「ちょっと貴方!私のシルビアにちょっかい出さないでくださる?」


 グロリア様が振り向いて言った。


「これは失礼しました。しかし、グロリア様の護衛について、話し合いをしたく…許可頂けますか?」


 ガゼールが、恭しく返す。


「私とローレルが同伴するなら良いわ」


「かしこまりました。では、休憩して、辺境伯様に挨拶した後、お時間を頂けますか?」


「分かったわ」


「ありがとうございます」


 グロリア様の部屋に着き、両隣が私とローレル様の部屋だと言われる。


ひとまずグロリア様の部屋に入る。


ガゼールは、では後ほど、と言って去っていった。


 執事から、グロリア様お付きのメイドを紹介される。

ソファに座ると、メイドがお茶を淹れてくれて、人心地ついた。


「辺境伯様、優しそうな方だったわね」


 グロリア様の言葉に


「野蛮な領主から迫害され…は無さそうですね」


 私もローレル様も安堵する。


「それにしても、あの騎士団長?貴方に執着してるみたい」


 グロリア様が私を見つめる。


「そうですか?」


 私が首を傾げると


「悪い男に引っ掛からないようにね」


 何故か心配された。






 しばらく休んだ後、執事が呼びに来て、辺境伯様の執務室へ案内された。


促されるままソファに座ると、お茶が用意される。


「改めまして、辺境伯のレパードです。よろしくお願いします」


「グロリアです。これからお世話になります」


 辺境伯様は頷くと


「こちらは騎士団長のガゼールです」


 辺境伯様の紹介に、ガゼールが頭を下げる。


「こちらは私の護衛で、ローレルと、シルビアです。ローレルは私の従兄弟です」


 グロリア様の紹介に、グロリア様を挟んで座る私とローレル様も頭を下げる。


「これからよろしく」


 辺境伯様が私とローレル様にも挨拶してくれた。


「国王から、セドリック王子の件を知らされた。グロリア嬢は、大切な客人としてもてなそうと思っています」


「恐れ多いことです」


「貴方のような華奢で綺麗な方が辺境へ来るなんて…貴方が不自由しないようにしたい。何か困った事があればすぐに言ってください」


 辺境伯様が真面目な顔で言う。


「今は、隣国も落ち着いているので、心配は無いと思いますが…住み慣れた王都から離れて、淋しいことでしょう。辺境は、何もないところですし…」


 心配そうな顔でグロリア様を見つめる辺境伯様。


「ガゼールから話を聞きました。

客人として扱うつもりでしたが…その…私は貴方に一目惚れしました!

でも、無理強いはしません!

おそばで貴方を守らせてください!」


 何と、辺境伯様は、グロリア様に一目惚れしたようだ。


グロリア様どころか、私もローレル様も驚いている。


ガゼールも驚いていた。


「私は…王子に婚約破棄された身ですから…」


 グロリア様は、遠慮がちに言う。


「貴方は何も悪くない」


 見つめ合う辺境伯様とグロリア様。


これは、両方とも惹かれ合ってるんじゃないか?


「グロリア様…せっかくですから、辺境伯様の事をもっと知ってから、お返事をされたらいかがですか?」


 私が、グロリア様の手を握る。


「援護ありがとう」


 辺境伯様が私にお礼を言った。


「シルビア嬢の言う通り、私の事を知ってほしい。それでもダメなら…」


 辺境伯様はショボンとした。

叱られた大型犬みたい。


「分かりました…返事は辺境伯様の事を知ってからにします」


「良かった…私の事は、レパードと呼んでください。貴方の事はグロリア嬢と呼んでも良いですか?」


「は…はい…」


 嬉しそうに笑う辺境伯様。

セドリック王子にぞんざいに扱われていたグロリア様は、ちょっと戸惑っていた。


「挨拶も終わった事だし、次は護衛について話しても良いですか?」


 ガゼールが割り込んできた。


「ガゼール…」


「大切なグロリア様をお守りするのは当たり前でしょう?」


「そうだな」


 丸め込まれてるぞ辺境伯様。


「ローレル殿とシルビア嬢が、どの程度の実力か見たいのだが」


「私は、普通の騎士としてもやっていけるので、護衛として選ばれました。シルビア嬢は、護衛というよりも補佐として選ばれました。グロリア様を1人にしない為に」


 ローレル様が答える。


「なるほど…それなら俺かローレル殿が交代で護衛するのが良いですか?」


「そうだな…やはり女性の騎士もほしいな」


「これから育成しましょう」


 辺境伯様とガゼールがローレル様を見ながら話し合う。


「何があるか分からないから、グロリア嬢、絶対にシルビア嬢と一緒にいてくださいね」


 真剣な目で辺境伯様が言う。


「はい。私の為に、ありがとうございます」


「私がずっと側にいられれば良いのだが」


「お忙しいでしょう」


「グロリア嬢程大切なものはない!」


 言い切ったぞ辺境伯様。


グロリア様は目を丸くしている。


「セドリック王子に爪の垢を煎じて飲ませたい」


 私が呟く。


「…セドリック王子は、グロリア嬢を大切にしていなかったのか?」


 辺境伯様が聞いてきた。

グロリア様が俯く。


「婚約者なんだから代わりに仕事するのは当たり前だろって、全部押し付けられて」


「学園の課題も押し付けられて」


「婚約者同士の交流のお茶会は来ないし」


「手紙も贈り物も無いし」


「浮気するし」


「大勢の前で婚約破棄宣言するし」


 私とローレル様が交互に暴露する。


「酷いな…グロリア嬢…辛かったな…」


 辛そうな顔でグロリア様を見る辺境伯様。


「辺境伯様…」


「私の事はレパードと」


「レパード様…」


 見つめ合う辺境伯様とグロリア様。


もう2人だけの世界かな。

邪魔しないように出てった方が良いかな?







 一方その頃、王都では。


「セドリック様、生徒会の仕事して頂けますか?」


「セドリック様、執務が残っています」


「セドリック様、課題の提出がまだですが」


 今までグロリアが代わりにやっていた事が全て戻ってきていた。


「私は忙しいんだ!」


「それなら、辞めれば良いんじゃないか?」


 セドリックの叔父である、王弟が言った。


「叔父上!」


「セドリックは忙しいんだろう?生徒会を辞めれば良いんじゃないかな?」


「はい!辞めます!私は生徒会を辞めるぞ」


 生徒会役員に言いながら、マーチと共に王子の執務室から出ていった。


「学園も王子も辞めれば良いんじゃないかな?」


 王弟の言葉はセドリック王子には聞こえなかった。






 謁見の間で対面する国王と王子。


「お前は、王子でありながら執務をせず、生徒会の仕事もせず、学園の課題も提出していない…それなら全部辞めればいい」


「生徒会は辞めました!」


「学園も王子も辞めれば良い。それなら忙しくないぞ。そこの女といつまでも一緒にいろ」


 国王が言う。


「良いんですか?」


 王子が嬉しそうに言う。


「もう王子じゃないから城から出ていけ」


「何故ですか?」


「王子も辞めるんだろう?」


「辞めません!」


「それなら仕事しろ」


 王子は一瞬詰まったが


「仕事しないグロリアが悪いんです!」


 開き直った。


「グロリア嬢とお前は婚約破棄したんだぞ」


「グロリアがマーチをいじめたからで!」


「証拠は?」


「証拠?」


「グロリア嬢がマーチ嬢をいじめた証拠を出せ」


「マーチがグロリアにいじめられたと言っています」


「マーチ嬢以外の証言を出せ」


「…では、呼んできます」


 王子は国王に大見得を切って謁見の間を出て行った。






 王子は学園で、マーチがグロリアにいじめられているのを見た者は証言しろ、と全生徒に通知するように手配した。

謹慎処分中だから、私室と執務室しかいけないが、待っている間、相変わらずマーチとイチャイチャしていた。


 手配してしばらく経ったが、誰1人としてやって来ない、と報告があった。


「どういう事だ…?」


 グロリアがマーチをいじめているのを見た者はいない。

そもそもいじめていないのだから。

だから、誰も名乗り出る事は無かったのだ。


マーチの言う事を真に受けず、その場で調べていたら、グロリアは1回しかマーチに会っていない事を知る事ができただろう。

だが、王子は全く調査も確認もしなかった。


「証言するなとグロリアに脅されているんだな。グロリアめ…卑怯な…」


 そんなセドリック王子に、誰も本当の事を教えない。






 国王は、まだ王太子を決めていない。

それは、セドリック第一王子が怠け者で短慮で頼りなく、第二王子であるエルグランドの方が王太子としての資質があったからだ。

 公爵令嬢であるグロリアと婚約して、公爵家の後ろ盾を得て、学園の成績などを鑑みてから、及第点が取れればセドリックが王太子となる予定だった。


 今回の婚約破棄騒動で、エルグランドが王太子になる事が確実になりそうだった。


 グロリアからも話を聞いていれば、グロリアとの婚約を破棄しなければ、王太子位を手にできたかもしれない…とは、セドリックには考えが及ばない事だった。


 王子の執務や、謹慎期間中に出された学園の課題を見るたびに、面倒になってくるセドリック。


「グロリアはずっと私の代わりに仕事してた。私を愛しているからだ!迎えに行けばきっと喜んで帰ってきて、また私の代わりに仕事するはずだ。そうすれば私はマーチとイチャイチャしていられる」


 セドリックは、斜め上の考えをして、謹慎処分が解けると同時に北の辺境伯領へと向かった。




 


 辺境での生活に慣れる為、グロリア様は城を探索したり、街を探索したり、辺境伯様の執務を手伝ったり、騎士団の訓練を見学したりしていた。

 グロリアの護衛の為に女性騎士見習いを募集し、集まった5人と私と共に、護身術を習っている。

 

 王子妃教育を受けたり、王子の執務を代わりにしていたので、辺境伯様の執務を手伝うのは、何も問題なかった。


 休憩に、お茶をする時間もある。

王都にいた頃には考えられないくらい、ゆっくりと過ごしていた。


 辺境伯様は、一緒にお茶をしたり、ドレスやアクセサリーや花束やお菓子を贈ったり、街の探索や庭園の散歩を一緒にしたりと、グロリア様を大切にしてくれた。

セドリック王子がしなかった事だ。


最初は戸惑っていたグロリア様も、段々慣れてきたのか、笑顔で過ごせるようになった。


 雑な扱いに慣れてはいけない。


グロリア様を眺めながら、私は考えていた。



 王子が復縁迫ってくるのが、お約束なんだよなぁ…



 何で、そんな事が分かるかって?

それはもちろん、私が転生者で、悪役令嬢断罪系の小説を読みまくっていたからだ。


元婚約者は、自分に尽くすのは当たり前だと思っていて、自分の立場が危うくなると、戻ってこいとか言うんだよね。

自分を愛してるから、戻って自分に尽くせるのは幸せだろ、とか言うんだ。


 そんな訳ないじゃん。

新しい生活送ってて幸せになってるから、元婚約者のことなんて、もう忘れてるって。

しかも、元婚約者よりハイスペイケメンに溺愛されてるんだよ。

何で落ちぶれた過去の亡霊とより戻さないといけないんだ。

むしろ復縁迫って来たら迷惑なんだよ。

言われる前に気付こうね!


 とりあえず、アホ王子が襲来するかもって、辺境伯様に伝えておこうかな。


グロリア様には…

伝えた方が良いのかな?


 私は夜、辺境伯様の執務室へ向かった。

本当はアポ取らないといけないんだけどね。

アホ王子がいつ来るか分かんないし。

もうすぐ謹慎処分が解ける頃だし。


 執務室のドアをノックすると、辺境伯様が返事をした。


「辺境伯様、シルビアです。相談したい件がありまして」


 ドアの外から声を掛けると、ドアが開いた。


「どうした?」


 辺境伯様が、ソファに座るように促す。

私は座ると


「もしかしたら、セドリック王子がこちらに来るかもしれません」


「セドリック王子が?なぜ?」


「今までグロリア様に押し付けていた仕事を自分でしなければいけなくなって、仕事したくなくて、グロリア様を呼び戻そうとするんじゃないかと思うんです」


「あり得るな…」


 辺境伯が頷いた。


「なので、対策をしたいのです」


「どんな対策だ?」


「絶対に王都に戻らなくてすむような…」


「絶対に王都に戻らなくてすむ方法があるのか?」


「…例えば、辺境伯様と婚約するとか」


「婚約…!?」


 辺境伯様が目を見開いた。


「婚約者がいれば、めったに手を出せないでしょう」


「それはそうだが」


「早く手を打たないと、王子が連れ戻しに来ますよ」


「それは…そうだが…」


「婚約を国王へ報告する時間が掛かります。その前に王子が来たらどうするんですか?そばで守ると言ったのは、嘘だったんですか?」


 私の言葉に、辺境伯様が


「嘘ではない!」


 と、声を荒げた。


「他に案があるなら出してください」


「…」


「私はグロリア様に幸せになってほしいんです。辺境伯様がグロリア様を守れないなら、グロリア様を連れて隣国にでも行きます」


 何も言えない辺境伯様に迫る。


「セドリック王子は1ヶ月の謹慎期間が終われば、すぐに来ると思います。それまでに対策を終わらせないと」


 私は、立ち上がり、失礼します、と言って執務室を出た。


執務室の外にはガゼールが立っていた。


「今の話は本当か?」


「来たら嫌だから、対策したいんです。私だけでは、どうにもならないんで」


 私は、自分の部屋に向かいながら話す。


「俺も協力するよ」


 私はガゼールに胡散臭い目を向ける。


「グロリア様がいらしてから、文官が仕事しやすくなったって言っててね。俺も助かってるし…」


 そこで、一旦言葉を区切り、また続ける。


「シルビア嬢にいなくなられるのは嫌だ。まだ、何のアプローチもしてないのに」


 呆れた目をしてガゼールを見るも、ガゼールは真面目な顔だった。


「シルビア嬢の事、気に入ってんだ。グロリア嬢からの信頼を得たら、アプローチしようと思ってたのに」


「…」


「俺の事嫌いか?」


「セドリック王子見てるから、男は嫌い」


「…始末してこようかな」


 完全に八つ当たりである。


「まずは友だちからでもどうかな?」


「…」


「俺は、生まれも育ちも辺境だ。あの夜会の時…」


〈北の辺境は流刑地じゃないっつーの〉

〈隣国の脅威から国境を守ってもらってるのにバカにしていいのかな?

独立するとか隣国に寝返るとかしたら、領土が減るよ?大変だね〜でも頭空っぽだから分かんないか〜〉


「愛着のある辺境を貶されて悔しかったけど、シルビア嬢は、誰も聞いてなかったけど…反論してくれた。辺境の重要性を分かってくれる、貴重な人だと思った。この人は逃してはいけない。だからあの時、君に声を掛けたんだ」


 真剣な目で言うガゼール。


「シルビア嬢に辺境に来てほしかった。グロリア嬢を丁重に扱うように進言するって言ったのも、君の気を惹きたかったからだ」


 私は黙って聞いていた。


「君は聡明だ。顔も気立ても良い。騎士達が声を掛けるのを禁止する位には、君は人気がある」


「え?そうなんですか?」


「気付かなかったろ?」


「私はグロリア様をお守りする為にいるので」


 それ以外は興味無かった。


「分かってる。だから、君がグロリア嬢と隣国へ行くって言うなら、俺はついて行く」


「え?」


「愛着ある辺境を捨ててでも、君のそばにいたい」


「え〜っと…」


 私は、何と言えば良いのが分からなかった。


「私まだ許可してないわよ」


 声がした方を見ると、グロリア様が

いた。


「グロリア様」


「きちんと伝えておかないと、後悔すると思いましたので」


 きっぱりと、ガゼールは言った。


「それはそうね」


「優秀な部下を手放したくはないな」


 後ろから、辺境伯様が現れた。


「なら、レパードも動くしかないだろ」


 ガゼールは驚かなかったから、辺境伯様がついてきているのを分かってたんだろうか?


「グロリア嬢…本当はもっと時間を掛けたかったし、王子が理由なんて嫌だが…」


 辺境伯様は、グロリア様の前で跪いた。


「私と婚約してください」


「え?」


「誰にも貴方を取られたくない。せめて、婚約者として貴方を守りたい」


「どうして…」


「セドリック王子が貴方を取り戻しに来るかもしれないと…」


 辺境伯様が私を見る。


「グロリア様にまた、仕事を押し付けに来るんじゃないかと思いましたので」


「それはありそうね」


「私が婚約者だからって、突っぱねることができる。婚約を国王へ報告しないといけないから、時間が無いと言われて…」


「でも、申し訳ないわ」


「婚約したいと思ったのは王子対策のためだけじゃない。

グロリア嬢が嫌なら、王子の件が終わったら、婚約を白紙に戻しても良い。でも、できればずっと一緒にいたい。この辺境で幸せに暮らしてほしい」


 辺境伯様が、グロリア様に手を差し出す。


「私も、覚悟を決めました。必ず貴方を守ります。守らせてください。」


「レパード様…」


 見つめ合う辺境伯様とグロリア様。


「だいぶお世話になったみたいだから、盛大におもてなししないと。辺境の悪口を言ってたんだろう?」


『野蛮な領主から迫害され、何もない僻地の辺境で苦労しろ!』


 セドリックの言葉を思い出す。


 辺境伯様は立ち上がり、悪い笑顔で皆を見回した。


「作戦会議といこう」 






 王子は威張り散らしながら辺境の城にやってきた。

応接室のソファに座り、ふんぞり返り、入室してきたグロリア様を見るなり


「グロリア!迎えに来てやったぞ!城へ戻って仕事しろ!」


 と、宣った。


〈わ〜性懲りもなくやってきたぞ〜

自分から追い出したのに戻ってこいとか、頭お花畑は言うことが違うね〜〉


 私は、隣の部屋から聞いていた。

何かあれば、飛び出してグロリア様を守るためだ。


「お前、私の事が好きだから、私の代わりに仕事していたんだろ?」


〈違います。あんたが、婚約者なんだからってやれって無理矢理押し付けたから、仕方なくやってただけです〉


「私が迎えに来て嬉しいだろ?」


〈まだ自分のこと好きだと思ってやんの〜プークスクス〉


「マーチをいじめていた事は、マーチに謝れば許してやろう」


〈そもそもいじめてないんだよ。自分の都合の良い事しか聞かないからな。聞いても脳内変換しちゃうんだろうな〜〉


「また私に尽くせるんだ。嬉しいだろう?」


〈凄い自信だね〜浮気した挙げ句に冤罪掛けて追い出したのに、まだ好かれてると思うんだ〜へ〜凄いねえ〉


「シルビア嬢…相変わらず厳しいな」


 隣のガゼールが呟く。


「言いたいことはそれだけか?」


 グロリア様の隣に座っていた、辺境伯様が冷たく言う。


「何だと!?」


 セドリック王子が辺境伯様を睨みつける。


「グロリア嬢は、私と婚約している。国王と公爵の許可も取ってある。つまり、セドリック王子の元には戻らない」


 辺境伯様の言葉に


「はぁ?グロリア!お前浮気したのか?私という婚約者がいながら!」


 セドリック王子が喚いた。


〈浮気する人って、相手も浮気すると思うんだよね。浮気しない人がいるって知らないんだよね〜〉


「婚約を破棄したのはセドリック様でしょう。今のセドリック様の婚約者はマーチ様です。私に辺境に行くように言ったのも、セドリック様ですよ」


 グロリア様が言う。


〈自分が言った事も覚えてないんですね〉


「私と婚約していたんだから、私に尽くすのは当たり前だ!婚約破棄しても、お前は私の仕事をしろ!」


 セドリック王子は、立ち上がり叫んだ。


〈うわ〜どんな頭してるんだろ?婚約破棄したら、赤の他人なのに〜赤の他人の仕事するわけないじゃん〉


「セドリック王子。そんなに仕事したくないんですね」


 辺境伯様が、呆れたように言う。


「違う!私の仕事はグロリアの仕事だ!」


〈セドリック王子の仕事はセドリック王子の仕事でしょ〉


「王子、仕事しなくてすむように、私が手配しましょう」


 辺境伯様が言うと


「仕事しなくてすむ?」


〈王子辞めたら仕事しなくてすむね〉


「はい。王城へ戻ったら、仕事しなくてすむようにしますので」


「そうか!頼んだぞ!」


「はい。お任せください」


 意気揚々と帰るセドリック王子。


〈仕事しなくてすむなら、グロリア様連れて帰らなくていいんだね〉


 国王には、辺境伯様がグロリア様と婚約したいと伝え、許可されている。

 それと同時に、セドリック王子がグロリア様に仕事を押し付けに来るかもしれないから、もし来たら、仕事しなくてすむようにしてほしいと頼んでいる。


 ちなみに辺境伯様は、前国王の妹の孫なので、王家に要望を通せるという話を、作戦会議の時に言われた。

セドリック王子が来たことを、城に着いた時点で国王に知らせたので、王子が王城に帰り着いた時には、王子でなくなっているかもしれない。


「王子でなくなれば、仕事しなくてすむな。セドリック王子」


 セドリック王子が乗る馬車を見送り、悪い笑顔で辺境伯様が言った。


「人の話を真に受けて…」


 グロリア様が、元婚約者を憐れむように見る。


「悪意に気付かないのは、王族として致命的なのでは?」


「あの感じだと、グロリア嬢が冤罪なのも知らないんだろうな」


「グロリア様が、そのままで良いと仰るので、放置しているだけですよ。本来なら、断罪返しをして、マーチ共々絶望の淵に落としてやるところですよ」


「まぁ…物騒ね、シルビア」


 私とガゼールの話に口を挟んできたグロリア様。


「グロリア様と王子の顔合わせの時の事、まだ覚えていますよ」


 真顔で言う私に、まぁ…と顔を曇らせるグロリア様。


「何があったんですか?」


 遠慮がちに聞いてくる辺境伯様。


「顔合わせに遅刻」


「開口一番『何でお前なんかと婚約しないといけないんだ』」


「『父に言われたから仕方なく来たんだ。もう帰る』」


「顔合わせ終了」


 ローレル様と私の暴露大会は、すぐに終了…しない。


「婚約が嫌なら国王様に嫌だと言えば良いのに」


「国王様に良い顔して、婚約を受けたんですよ、あの王子」


「『婚約してやったんだから、王子教育の課題を代わりにやれ』」


「『私の意思で婚約したわけじゃないから、交流はしない』」


「『お前が頼むから仕方なく婚約したんだ』と学園の生徒の前で発言」


「『私と結婚したければ、私の仕事を代わりにしろ』」


「『何でお前に気を使わないといけないんだ。婚約者のお前が私に気を使え』」


「『私より目立つな!婚約者なんだから私を立てろ』」


「『私が言う前に仕事をやっておけ!気が利かないな』」


「『私が何をしようが私の勝手だ』と言ってマーチとイチャイチャ」


「マーチは、婚約者がいる男子生徒に片っ端から声を掛けて、王子がいない時は、その男達と遊んでいるんですよ」


 苦い顔をする辺境伯様とガゼール。


「知らぬは王子だけ」


「王子には、誰も教えないけど」


 ローレル様と私が続ける。


「あれが国王になったら、この国は終わるな」


「むしろ、廃嫡する理由を作ってくれてありがとう」


「王子であるしか価値が無いからね」


 成績は悪い、浮気する、生徒会長なのに生徒会の仕事をしない、王子の執務をしない…公爵令嬢であるグロリア様と婚約したから、弟王子より、王太子位に一歩リードしていたのに。


「さて、セドリック王子の事はもう忘れて、これからは幸せに生きてくれ」


 辺境伯様が、グロリア様に向かって言った。


「はい。ありがとうございます」


 また2人だけの世界ができた。


私とガゼールとローレル様は、こっそりと部屋を出た。






 結局、セドリック王子は、廃嫡されて、マーチの実家の男爵家に無理矢理婿入りさせた。

マーチの父である男爵は、仕事ができないセドリック元王子とマーチの教育に四苦八苦した。


 第二王子のエルグランドが王太子位に就き、侯爵令嬢と婚約した。

よほどの事が無い限り、この国の平穏は守られるのだろう。


 辺境伯様とグロリア様も、焦れったいながらも、ちょっとずつ近付いていった。


ローレル様も、女性騎士見習いの1人と婚約した。


私とガゼールは…どうなんだろうね。


「グロリア嬢の許可も得たことだし、これからはしっかりアピールするよ」


 ガゼールは、毎日熱烈に口説いてきた。

私が折れるのは、まだまだ先の話。


読んでいただきありがとうございます

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