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1学期

「ありがと。それじゃ行ってくるわね!」


 姿見でご自身のお姿を確認されたシェリル様は身を翻して扉に向かわれた。ピンク色に近いストロベリーブロンドの髪の毛が歩く度に揺れるのが可愛らしい。


 思わずほっこりとしたあたい(・・・)だったけど、すぐに心配そうな顔をして自分のお仕える方に声をかける。


「お嬢様、くれぐれも言動には注意なさってください」


「もー、ベティは心配性ねぇ。大丈夫よ、ちゃんと気を付けてるから」


 田舎訛りがまだ残るあたいの言葉に振り向いたシェリル様が笑顔で返答なさった。愛くるしいお顔ということもあって輝いているように見える。


 意地悪な貴族様が珍しくない中、シェリル様は平民にも気さくで優しい。これはとても幸運なことだとあたいは思う。でも、そんなお方にも欠点というか問題があった。それだけは本当に何とかしてほしい。


 そんなあたいの思いに気付くこともなく、お嬢様は前を向いて部屋の外へと出て行かれる。


「行ってらっしゃいませ」


 かなり使い込まれたよそ行き用のドレスの裾が扉の向こうへと消える直前、あたいは自分の主人に頭を下げた。そのままじっとしていると扉の閉まる音が耳に入る。


 あたいは小さくため息をつきながら頭を上げた。




 主がいなくなった一人きりの室内をあたいは少しの間眺めた。男爵家のご令嬢にあてがわれる部屋は女子寮の中でも狭い方だと聞いていたけど、それでもあたいの実家より大きい。もう慣れたとはいえ、さすが貴族様が住まわれる部屋だと今でも感心する。


 けど、いつまでもじっとはしていられない。あたいはシェリル様付きのメイドだ。服の洗濯と裁縫、部屋の掃除、日用品の確認、食材の買い出しなど、やることがたくさんある。なので、すぐに仕事を始めないといけない。自分に気合いを入れるとすぐに動いた。


 最初に手を付けたのは部屋の掃除だ。この女子寮に引っ越して来た当初にしっかりと掃除をしておいたからあまり手間はかからない。高位の貴族様のところだと何人かのメイドが手分けして仕事をするけど、シェリル様にお仕えしているのはあたいだけだから仕事は効率良くする必要がある。


 掃除が終わると次は洗濯だ。一日の仕事の中でも特に重労働だから大変。洗濯女に頼めば楽なんだけど、うちのお家にはそんな余裕はない。寝台のシーツや昨晩使われた下着、それにその他色々な衣類や布を洗濯籠に入れて部屋を出た。


 女子寮から少し離れた場所にある洗い場へとあたいは足を向ける。すると、途中で二人の同業者(メイド)と出会った。思わず嫌な顔をしてしまう。


「あら、田舎者のベティじゃない。もう言葉の訛りはなくせた?」


 足を止めてしまったあたいは返事ができなかった。王都にあるサンフラワー学園にやって来てまだ一ヵ月しか経っていない。要領の良くないあたいの言葉にはまだ訛りがあちこちにある。


 王都の近くに領地を持つボイド子爵家のご令嬢にお仕えするサラの言葉は完璧な王都風だ。隣に立つ、クルック男爵家のご令嬢に仕えるセルマも同じ。この二人はいつも田舎出身のあたいを笑ってくる。


 腹は立つけど、王都じゃあたいたち田舎出身者はよそ者だから反論しにくい。向こうもそれを知っているから好き放題だ。


 あたいを馬鹿にした表情のセルマが更に続く。


「あんたは言葉の訛り以外にも厄介なことがあるから大変よねぇ。お仕えする方があんな破廉恥なことをしているんだから。私だったら恥ずかしくて表を歩けないわ」


「でも、仕事があるから外に出ないといけないし」


「そうよねぇ。そこは同情してあげるわ。あはは」


 楽しげに笑うセルマの言葉にあたいは歯を食いしばった。サラ共々性格が悪いから二人とも嫌いだけど、セルマの指摘は事実だから言い返せない。


 意地悪できて満足でしたのか、サラとセルマはそのまま立ち去った。


 その様子を見送ったあたいは大きなため息をつく。今回は短めで済んで安心した。あたいたちメイドには常に何かしら仕事があるから、意地悪ばかりしていられないという事情もある。


 不愉快なことから解放されたあたいは洗い場にたどり着いた。井戸を中心に大きな屋根が広がっていて、周りに洗濯を叩きつける石が並べられている。そこでは洗濯女やあたしと同じメイドが洗濯に勤しんでいた。


 知り合いの近くに寄るとあたいは二人に挨拶をする。


「ラナ、ナタリー、おはよう」


「おはよう、ベティ。朝から疲れた顔をしてるじゃない」


「サラとセルマの二人に会っちゃったのよ」


「うわ最悪」


 挨拶を返してくれたラナに返答したあたいの言葉でナタリーが顔をしかめた。この二人もあの都会っ子たちの被害に遭っている。だからあたいの心情をよく理解してくれていた。


 あたいも立てかけてある大きな洗濯桶に井戸から汲み上げた水を入れて灰汁(あく)を混ぜ、そこに洗濯物を()ける。それからは何度も揉み、思いきり絞り、目の前にある石へと洗濯物を力一杯ぶつけた。そこに先程の悔しさも少しばかり入っているから作業は少しだけ(はかど)ってくれる。あんまり認めたくはないけど。


 調子良く洗濯をしていたあたいだけど、この重労働は何度も繰り返していると当然疲れてくるからたまに休憩を入れる。他の人と話すのはこういうときだ。


 同じように一息入れたラナがあたいに話しかけてくる。


「あんたの仕えてるお嬢様、相変わらず複数のご子息に親しげに声をかけていらっしゃるみたいね。婚約者のいらっしゃるエドワード王子様にも平然と近づくだなんて」


「うっ」


「結構あちこちで聞くから学園全体にもう話が広がっているんじゃない?」


 そんな気がしていたあたいはラナから目を背けた。そこへナタリーが顔を寄せてくる。


「何人かのご子息様と楽しく話をしてるところ、あたしも見たことがあるわ。人目を憚る気なんて全然なさそうだったわよ」


「ううっ」


「同学年生だけじゃなくて、上級生にも平気だそうじゃない。すごいわねぇ」


 感心しているのか皮肉を言っているのかよくわからない様子のナタリーにあたいは口をへの字にした。自分が悪いわけじゃないのに肩身の狭い思いをするのは理不尽だと思う。


「あたいがいくらお諫めしても全然聞いてくださらないから、どうしようもないじゃない」


「頑張っているのは知っているからその努力は認めるけど、ご主人様の方があれじゃぁね」


「そうそう。耳を貸さないんじゃなくて、聞き流されているんだっけ? きついわねぇ」


 弱々しげに反論したあたいはラナとナタリーから同情の視線を向けられた。それはいくらかの慰めになる。でも、どうせならあたいのお嬢様を何とかする方法を教えてほしい。


 学園で知り合った二人に見守られながらあたいはため息をついた。




 あたいが仕えているのはシェリル様は、ガーデン王国の端の領地を治めるデーモン男爵家の一人娘だ。今年十六歳になられたから王都にあるサンフラワー学園に入学された。


 親元を離れて一人暮らしをする貴族様のご令嬢には必ず使用人が付く。そのため、あたいは女子寮に一人で住まわれるシェリル様の身の回りの世話をするために雇われた。本当は別の人が行くはずだったんだけど、病気で働けなくなって急遽選ばれたと聞いている。


 そんな感じで選ばれたものだから、あたいがお嬢様と一緒にサンフラワー学園の女子寮に移ったときは本当に大変だった。この学園は貴族様のための学校だから生徒の皆様はもちろん、下っ端の使用人に至るまでみんな洗練されていたから。


 さすが王都と最初は思ったけどすぐにそんな思いは消し飛ぶ。あたいが貧乏な平民の田舎娘だってわかると、サラやセルマみたいな意地悪な都会っ子たちがことあるごとに田舎娘だって馬鹿にしてきた。都会は恐ろしいところだって聞いたことがあるけど、その片鱗を味わった気分だったわ。


 でも、田舎から王都にやってきたのはシェリル様とあたいだけじゃない。田舎出身の貴族様は他にもいらっしゃったし、当然その方々に仕える使用人たちもそう。だから、同じ田舎出身の貴族様に仕えるメイド同士で固まるのは自然だった。都会出身のメイドから馬鹿にされたことを愚痴り合い、不満(おもい)を共有することで仲良くなる。おかげで掃除のやり方とか食材を安く買えるお店とかも教えてもらえて大助かり。


 でも、女子寮に引っ越して二週間が過ぎた頃、その仲間から微妙な目で見られるようになってしまう。それどころか他の貴族様に仕えるメイドたちからも。最初はその理由がわからなかった。けど、あるとき仲良くなったラナからこっそり教えてもらう。


「あんたの仕えてるお嬢様、なんだか無茶苦茶してるみたいよ。複数のご子息様に親しげに声をかけたり、婚約者のいらっしゃるエドワード王子様にも」


 初めて聞いたとき、あたいは何を言われているのかわからなかった。貴族様のご令嬢はみだりに殿方に声をかけてはいけないっていう習慣がある。なのに、あろうことか婚約者のいらっしゃる王子様にも声をかけるなんて普通じゃない。


 最初は何かの間違いではと思った。けれど、あるとき宰相を務めるジーキル侯爵家のご子息フェイビアン様と騎士団長を務めるカーンズ伯爵家のご子息ギデオン様の二人に遠慮なく話しかける自分の主人の姿を見て唖然とする。


「なんで、なんでそんなはしたないことを平然と、しかも高位の方々に」


 ギデオン様は伯爵家の方なのでぎりぎり男爵家でも手の届く範囲と言えなくもないけど、フェイビアン様は無理があった。それに、どちらも婚約者はいらっしゃらないとはいえ、二人同時になんて一体あたいのお仕えするシェリル様は一体何を考えていらっしゃるんだか。


 さすがに高位の貴族の方々へ自分から気さくに接するのはまずいとあたいは思った。あるとき、部屋に戻られたシェリル様をお諫め申し上げる。


「お嬢様、最近複数のご子息様へと積極的にお話されていると耳にしますが、本当ですか?」


「そんな噂になってるの? いやぁねぇ、もう。みんな噂好きなんだから」


「あたいが聞いた噂によりますと、エドワード王子様やフェイビアン様、それにギデオン様のお名前が上がっていました」


「そうねぇ。主立ったところはそのくらいね」


「主立ったところ!?」


 てっきり三人だけだと思っていたあたいはひっくり返りそうになった。不敬であることを忘れて思わずシェリル様に詰め寄る。


「どういうことです? 他の方にも話しかけていらっしゃるんですか?」


「うわわ、近いわよ、ベティ。大丈夫だって。ちゃんと相手は攻略対象だけに絞ってるんだから」


「攻略対象?」


「ああいえ、こっちの話。ともかく、そんなむやみやたらになんて話しかけていないって」


「いえもう充分にむやみやたらに話しかけていらっしゃいますよ。というか、そもそも貴族様のご令嬢はみだりに殿方に声をかけてはいけないっていう習慣があるんですよね?」


「あーあー、聞こえなーい」


 耳を塞いだシェリル様が首を横に振っていらっしゃるのをあたいは半目で睨め付けた。


 それにしても、今回の『攻略対象』という言葉のように、シェリル様はたまによくわからないことをおっしゃることがある。初めて聞いたのはサンフラワー学園の女子寮に引っ越す途中の馬車の中だった。乙女ゲーの舞台へなんて口にしながらだらしない笑顔を浮かべていらしたのを覚えている。次は入学して数日後の夜、部屋の中でベッドに入られた直後だ。きゃーハーレムゥなどと枕に顔を当てて口走っていらっしゃった。あの笑い方が気持ち悪かったのをよく覚えている。


 あのお方のお世話をしているとああいう言葉をたまに聞くことがあった。大抵ははしたない顔や残念な動きをしながら。


 あたいのような平民のメイドにも優しくしてくださるのでそんな言動を見聞きするだけなら我慢もする。けれど、やっちゃいけないことを実行してあたいにも実害が及ぶのは勘弁してもらいたい。シェリル様がやらかす度に仕えるあたいも他家の同業者から白い目で見られてしまう。肩身の狭い思いはこれ以上したくない。


「お嬢様、あたいたちメイドの間でも噂になってるくらいですから、貴族様の間でもきっと知らない方なんていないはずです。こんなことをしてると、皆さんに避けられてしまいますよ」


「大丈夫よ。私だってみんなから非難されるのは嫌だから、その辺はちゃんとしてるわ」


「でもお嬢様って、まだお茶会にお呼ばれしたことないじゃないですか。あたい、そういうお約束の伝言を受けたことないですよ?」


「うっ。だ、大丈夫だって。一応女の子同士の付き合いもしてるから!」


 完全に目を泳がせながらシェリル様はあたいに言葉を返された。全然信用できないから更に追及する。でも、結局はぐらかされるばかりだった。こういうとき、一介の田舎娘でしかないあたいの学のなさが残念に思う。




 六月になった。最近は洗濯物がよく乾いてくれるので嬉しい。体を動かしていると少し暑いと思うようになってきたけど、このくらいならまだ我慢できる。


 日々忙しく働いているあたいは部屋の外で他家の同業者(メイド)と会うことも多い。世間話なんかを通じて色々と世情に詳しくなっていくためにもこういう機会は重要だ。特に田舎出身者は王都(とかい)のことを早く知って馬鹿にされないようにならないといけない。


 けれど、困ったことにあたいは同業者から目立つ存在になりつつあった。シェリル様の噂が広まるにつれて悪い意味で注目されるようになっのだ。特に高位の貴族様に仕えるメイドからは避けられるようになる。


 あたいも自分のお嬢様の噂を色々と耳にするようになったから肩身が狭かった。前に話しかけるご子息様は限っているとは聞いたけど、それでも複数人の殿方に話しかけていることには違いない。そのため、シェリル様の評判は日に日に悪くなるばかりだ。


 それでも、この時点ではまだ話ができる相手は割といた。低位の貴族様に仕えるメイドとは一応会話はできたし、その中でも田舎出身のメイドたちとはそれなりの関係を保てていたから。


 この日は洗濯物の洗い場で知り合いのラナとナタリーの二人と一緒に洗濯をしていた。


 半分ほど洗濯を終えたあたいが腰を伸ばすとラナが声をかけてくる。


「ベティ、あんたんとこのお嬢様、噂を聞かない日はないわよ」


「言わないで。あたいだって何度もお諫めしてるんだけど、全然聞く耳持ってくださらないんだから」


「よく怒られないわね。あたしんところだと、一回で差し出がましいって雷が落ちるわ」


「あたいみたいな平民でも優しくしてくれるお嬢様だからその点はいいんだけど。ご子息様たちに声をかけて回るのだけは本当に勘弁してほしいわ」


「あんた、レオノーラ様のところのメイドに特に睨まれてるもんね」


 指摘されて思い出したあたいは嫌な顔をした。エドワード王子様の婚約者でいらっしゃるレオノーラ様はマクラフリン侯爵家のお嬢様だ。そんな貴族様に睨まれたら田舎の男爵家なんて簡単に潰されてしまうというのに、シェリル様はまったく気にされていない。


 おかげでそのしわ寄せがあたいにも来つつある。レオノーラ様に仕えるメイドたちに嫌われたのだ。当然だと思う。完全なとばっちりだけど。


 落ち込むあたいに今度はナタリーが声をかけてくる。


「でもどうしてシェリル様はそんなに声をかけて回るの? 可愛らしいお顔をしていらっしゃるんだから、黙っていても男の人に声をかけてもらえるでしょうに」


「あたいも気になって聞いたことがあるけど、どうも今声をかけてるご子息様がいいらしいのよ。だったら一人だけに絞り込めばいいのに。エドワード王子様以外で」


「婚約者がいらっしゃる人にも声をかけるのはちょっとねぇ。あのレオノーラ様に勝てると思ってるのかな?」


「わからないわよ、そんなこと。せめて王子様だけでも止めてくれないかなぁ」


 ラナよりは興味本位という様子のナタリーから尋ねられたあたいは首を横に振った。シェリル様は何も考えずに行動しているのかもしれない。


 その後、洗濯を済ませて女子寮へと戻った。部屋の掃除や服の繕いなど仕事はきりがない。でも同時に、最近では悪い噂を聞かずに済む落ち着いた時間でもあった。


 楽しみながらあたいが仕事をしていると、昼下がりに扉を静かに叩く音が耳に入る。珍しいと思いつつも扉を開けると、あたいなんかよりもよっぽど立派な仕立ての服を着た女の人が立っていた。


 冷たい表情を隠すことなく目を向けられてあたいは一瞬息が詰まる。


「マクラフリン侯爵家のご令嬢レオノーラ様の侍女ポーリーンです。用件を伝えに参りました。本日、授業が終わり次第、すぐにこちらのお部屋に来るようあなたの主人に伝えなさい」


「はい、わかりました」


 話し終えたポーリーン様は踵を返されました。そのお姿が見えなくなるとあたいは大きく息を吐き出す。


 えらいことになった。お茶のお誘いなどという和やかなお話ではないことは一目瞭然。よりにもよって次期王太子妃様に呼び出しを受けるなんて。


 そんな不安を抱えながらあたしが仕事をこなしているとシェリル様が部屋にお戻りになられた。鞄を机に放り出し、メイキングしたベッドにそのまま飛び込まれる。


「あー、つっかれたぁ! ベティ、お茶いれてよ」


「わかりました。それと、伝言を預かっているのでお伝えします」


「伝言? 珍しいわね」


「レオノーラ様の侍女のポーリーン様から、授業が終わり次第、すぐにあちらのお部屋を伺うよう言付かっています」


「イベントきたー! 間違いないのね? レオノーラから呼ばれたのよね?」


「ええ。でも、お茶会のお誘いとは明らかに違いましたが」


「知ってるわよそんなこと。私を説教するために呼びつけたんだから」


「それがわかってて喜んでるんですか?」


「いずれ呼ばれることはわかってからね。ちゃんと夏期休暇前でよかった。予定通りね!」


 これから高位の貴族様のご令嬢に叱られに行くにもかかわらず、シェリル様は非常にご機嫌でした。あたいにはさっぱりわからない。


「お嬢様。これから侯爵家のご令嬢に叱られるんですよね? 怖くないんですか?」


「普通は怖いんでしょうけど、これは大丈夫よ。結果なんてわかってるんだから」


「結果がわかってるんですか?」


「そうよ。だから恐れなくてもいいんだから」


 お茶の用意をしながらくシェリル様の話を聞いたものの、あたいはどうにも理解できなかった。恐怖のために既におかしくなられていると言われた方がまだ納得できる。


 あたいの入れたお茶を飲んだシェリル様が外出されると夕飯の支度を始めた。買い置きがあるので今日はそれを使うことにする。デーモン男爵家の懐事情は常に厳しいから倹約を心がけないといけない。


 食事の準備が大体終わった頃にシェリル様が戻ってこられた。苦笑いされているのを目にして驚く。


「お帰りなさいませ、お嬢様。レオノーラ様のお部屋に向かわれたんですよね?」


「行ってきたわよー! あー疲れた。もー大変だったんだから」


「その割には平気そうなお顔ですけど」


「そりゃ大体思った通りの展開だったもの。とりあえず、これでひとつクリアね。これからもサクサク進めるわよ」


 一部どこの言葉だかわからない言葉を口にされながらもシェリル様が平気そうな様子なので、あたいは内心で首を傾げた。気になったけど怖かったので詳しく聞けない。


 そんなあたいの胸中など知らないまま、お嬢様は用意したお茶を口にされた。

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