第零の夢境の輪廻(2)
そして、夢は今も続いている。
身体が何かに貫かれ、引き裂かれ、引っ張られているようだった。
痛い。でも、これで皆を救えるんだろう?
視界をゆっくりと飲み込むのは、果てしない虚無。
少年は最後の力を振り絞って、かすかに微笑んだ。
——もし私がこのまま死んだら、みんなを驚かせちゃ…駄目だよね……
やがて、彼は何も感じなくなった。
**
夕暮れ。
「おい!あそこだ!見つけたぞ!」
村の猟師たちが林の中を駆け回る中、誰かが驚愕の声を上げた。
「やっぱり……占い師の言った通りだ……」
地面には鮮血が飛び散り、アカシャの身体は壊れた人形のように転がっていた。頭部より下の四肢や内臓は無惨に引き裂かれ、無造作に周囲へ投げ捨てられている。その惨状は、獣に襲われたものより遥かに酷かった。
だが、彼の顔には、微笑みが浮かんでいた。
「神がその魂を回収したのだ。」
猟師の一人が顔をしかめ、まるで穢れた何かを見たかのように目を逸らした。
「運んで埋めるぞ。村から離れた場所にな。」
猟師の頭がそう命じる。その声には、道端で死んでいる小動物を見つけたかのような無関心さがあった。まるでアカシャが村の子供ではないかのように——
いや。彼は最初から違った。
アカシャは、占い師が村の外で拾ってきた子供だった。
「満十七歳の満月の夜、彼を森の神に捧げれば、村には二度と災いが訪れない。」
村では、占い師の言葉は神託と同義だった。
誰もが疑うことなく信じていた。今この時まで——
「神は、約束を果たされたのだ。」
老いた占い師は、猟師たちが持ち帰ったアカシャの亡骸を一瞥し、ただそれだけを言った。
「明日の朝、埋葬しよう。これで、村には永遠の平和が訪れる。」
しかし翌朝、村人たちが遺体を安置していた小屋へ向かうと——
「な、ない!!」
棺を取りに行った村人が、まるで幽霊でも見たかのように血相を変えて村長の家へ駆け込んできた。
「何がないと言うのだ?」
村長は目を細め、彼と共に小屋へ向かう。
「アカシャ——あのモノの——死体が消えた!」
「なっ……!?」
急いで木箱を開けると、中は空っぽだった。
何もない。
それどころか、木箱の内側には血の跡すら残っていなかった。
「まさか……誰かがバラバラの子供の遺体なんかを盗むわけが……」
「木箱をすり替えた者はいないのか?」
村長が問い詰めようとしたその時——
「きゃああああ!!」
外から、子供の悲鳴が響いた。
二人の胸に、同じ不吉な直感がよぎる。
彼らは同時に駆け出した。
**
「村長、おじいちゃん!」
駆け寄ってきたのは、幼く澄んだ声。
村長は、自分の耳を疑った。
「聞いて聞いて!昨日、すっごく勇敢だったんだよ!僕、一人でみんなを助けたんだ!」
そこに立っていたのは——
昨夜、無惨に引き裂かれたはずの少年。
「……どうしたの?なんでそんな顔してるの?僕、何か間違ったことした?」
——アカシャの身体には、一切の傷がなかった。
衣服も真っ白なまま、一滴の血も付いていない。
彼は怪物だった。
それ以来、村の子供たちは誰もアカシャと遊ばなくなった。
アカシャに近づいた者には、呪いが降りかかる——
そう、大人たちは言い聞かせた。
——そして、九年が経った。
**
アカシャが十六歳になっても、彼はずっと独りだった。
村の者は彼に農作業を手伝わせず、狩人たちは彼に弓を持たせなかった。
彼はただ、村の中心にある大樹の下で、一人で野花を摘み、花冠を編むしかなかった。
病的なほど白い肌、暗紅色の瞳、
そして、雪のように白かった長髪の一房に、いつの間にか不吉な黒が混じり始めていた。
少年の顔立ちは整っていたが、彼は知らなかった。
村人たちが、陰で彼を「鬼」と呼んでいたことを。
「決して死なない悪鬼」と——。
「ふふ、できた。綺麗……」
アカシャはそっと花冠を持ち上げ、微笑んだ。
「でも、どうせ誰も使わないよね……」
彼は気づいていなかった。背後に、数人の影が忍び寄っていることを。
「アカシャ、一緒に遊ぼうぜ~?」
「え?」
アカシャが顔を上げると、そこにはデルが立っていた。
その背後には、かつて彼と共に西の森へ『冒険』に行った子供たちがいる。
アカシャの瞳が、喜びに輝いた。
彼は花冠を置いて立ち上がる。
「うん!何して遊ぶ?」
「アカシャ、お前……死なないって本当か?」
デルは笑っていた。
だが、アカシャはその瞳の奥に潜む悪意に気づかなかった。
「……デル、何を言って——」
「とぼけるな、この化け物!!」
デルは突然、アカシャの襟を掴み、地面に叩きつけた。
「お前なんか、あの日森で死ぬはずだったんだよ!!」
彼の拳がアカシャの胸を打つ。
「お前は怪物だから、生き返ったんだ!!」
他の子供たちもそれに倣い、アカシャを殴り、蹴りつける。
「でも……僕、みんなを助けたのに……僕は、『英雄』になるはずだったのに……」
「誰が化け物を英雄扱いするかよ!!」
デルは叫び、小刀を取り出した。
「どうせ死なないんだろ?痛みも感じないんだろ?」
刃がアカシャの腕を切り裂き、鮮血が流れる。
「ねぇ、どうして?」
「すげぇ!こいつ血が出るぞ!」
狂気に染まる子供たちの声が響く。
アカシャは叫ばなかった。誰にも助けを求めなかった。
**
翌日——
村は、何事もなかったかのように、静かに朝を迎えた。
「デル~昨日、一緒に遊んだのに、どうして先に帰っちゃったの?」
水汲みに来たデルは、その声に震え、井戸に落ちかけた。
——また、忘れていた。
アカシャは、死ぬたびに、「自分がなぜ死んだのかを忘れる」のだった。