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ヒト電話

 だいぶ高校にも慣れてきた放課後。日も沈み始めた夕方。

 いつものように和室へ行くと、そこには菫先輩と千雪先輩しかいなかった。

 どうやらふたりも着いたばかりらしく、ちょうどカバンを置いたようだ。


「こんにちはー……ってあれ、先輩たちだけですか?」

「やっほー」

「おやおや。ゆーちゃんがいないとペポくんはご不満なのかなぁ?」


 にんまりとした笑みだった。千雪先輩にからかわれ、少しドキリとしてしまう。


「えっ、いや。そういうわけでもないですけど……あ、里奈はバイトです」

「りょーかいだよー。でねー、ゆまゆまは体育祭実行委員の集まりかなー」

「そういえば来月の中旬なんでしたっけ、体育祭」

「その後、すぐに中間テスト前の部活動禁止週間だねぇ」

「うー。テストやだよー」


 菫先輩が千雪先輩の胸に飛び込み、泣きつく。そうか、もう高校の初テストなのか。

 というか、この部活は毎日が自主的な活動禁止期間のようなものだと思う。


「でもまぁ、普段から勉強していればそんなに困ることは……」


 ぽつりとつぶやけば、薄く涙を溜めた菫先輩にねちっこいジト目を向けられる。

 視線に込められた〝失敗しちゃえ〟オーラがなんとなく見える気がした。


「こらこら。中間はたぶん一年のおさらいだから、すーちゃんも大丈夫だからねぇ」

「うん、わたし頑張る……」


 よちよーち、と。千雪先輩が優しく頭をなで、甘やかしながら気を落ち着かせていく。

 それからふたりはお互いの瞳を見つめ合い、吐息が交わるほどに近づいて――


「――――っ!?」


 お構いなしにキスをし始めた。いや、あの、ちょっと…………。

 とても困る。どうしよう。ひとまず本棚から漫画を取り、コタツで縮こまっておく。


「「んっ、んぁ……」」


 微熱を押し殺すじれったい喘ぎは、鼓膜をそっと震わす。

 全身の血が沸騰するような感覚だった。頭がクラクラして――ページをめくった。


「……ぁ」


 切なさとともに駆け巡る充足感が、細胞の隅々まで広がり――ページをめくる。


「……んっ」


 聞こえるかすかな水音。心臓の鼓動がうるさく感じられ――ページをめくれなかった。

 結論から申し上げますと、ストーリーはまるで頭に入ってこなかった。


 ……当たり前か。とっとと観念し、漫画を閉じてコタツに突っ伏すことにする。

 関わらないのが一番。大人しく嵐が通りすぎるのを待つべきだろう。


「「ふぅ……」」

「ひゃいっ!」


 いきなり両耳から息づかいを感じ、身体が小さな波のようにぴくりと揺れた。


「あ、かわいいー」

「や、あのっ。こ、こういうのはっ。ちょ、ちょっと……」

「えー、何か問題あるのー? わたしたちはー、しりとりをしようと思っただけー」

「そうそう。糸電話……あらため――ヒ、ト、デ、ン、ワ」


 逃げようと思った時にはすでに手足を絡め取られ、体重も半分預けられていた。


「しっ、と」

「――り、りっ」


 ちりちりとねぶるような声が、熱っぽい吐息混じりに甘く鳴る。


「りっ、ぽう、たい……いってる、びうむ……むせい、せいしょく……くり、とり、あ……」

「あるみな、せら、みっくす……すいじょう、ちかんほう……うぃき、ぺでぃ、あ……」


 まるで頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱して抜けるバイノーラル――立体音響だった。

 いつもなら何でもない単語が、とてつもなく卑猥に聞こえてしまう。


「あなふぃら、きしぃ、しょっく……くちゅく、かいなるじ……じゅぷ、とる……」

「るい、じあな……なか、じき……き、ん、ぴ、ら……らいぷ、にっつ……」


 細い指先でわき腹や太ももにいじらしく円を描かれ、伏せた顔が燃えるように熱い。


「つる、かめ……めす、てぃいそ……そう、せいき……きとう、し……」

「しり、あす、てん、かい……いけ、ぶくろ……ろいやる、みるくてぃ……」

「てぃく、りぃと……とぉ、いっく……くうはく、いき……きちゅ、らかん……」


 張りつめた緊張がわずかに緩んだ。これで終わりか、とそんな安堵に胸をなでおろす。

 けれどさりずりのような二つの笑いは、その隙を見逃してはくれなかった。


「ふふ。だーめ」

「おしまいとは言ってないかなぁ」


 かぷり。両耳に噛みつかれた。言葉を返す間もなく「ひゃぅ」なんて声が漏れる。


「おな、もみ……おきゅ、ぱい……しゃぶ、しゃぶ……ぶらん、まんじぇ……」

「ぎゅう、すじ……ぱん、てら……かき、たま、じる……どぴゅっ、しぃ……」


 しりとりという枷から解き放たれ、とどまるところを知らないらしい。


「ぬき、あし、さし、あし、おっぱじめ……せいにゅう、びちく……おす、ぷれい……」

「きょうゆう、けつ、ごう……しん、ちん、たい、しゃ……ふえ、らむね……」


 さりげなくブレザーのボタンを外し、脱がそうともしてくるので無視もできなかった。


「ぱん、くちゅ、ある……しゃぶり、わいん……せるふさぁびす……ち、ん、こ、う……」

「にゅる、ぶるく、りんく……えいち、でぃ、えむ、あい……ろぉたりぃ、ばるぶ……」

「ちゃぷ、ちぇ……しんぽ、じうむ……かちかち、やま……しょう、ちく、ばい……」

「ゆう、だち、なか、だち、すたん、でぃんぐ、おべぇしょん……」


 いつの間にか制服は乱れていて、筋肉質と自負する胸板がさらされる。

 ふたりがなぞるように肌へ触れ、「すっごく、かたいね……」とささやいた。


「なで、しこ……めき、しこ……ちん、ぎす、はぁん……」

「――なで、しこ……めき、しこ……ちん、ぎす、はぁん……」

「…………っ!!」


 まずい、と感じたその時だ。ばたり。何かを落としたような音がした。

 目を向ける。そこには小刻みに震え、あんぐりと口を開く部長の姿があった。


「いや、ちがうんですよ部長。何がちがうかは説明できませんけどってうぉっ!」


 拾い直したカバンが強肩から放たれ、受け止める。もちろん、先輩たちは避けていた。

 しかも「こわーい」なんてわざとらしい声で、俺の後ろへ隠れている。やめて欲しい。


 狂犬が突っ込んでくる。その瞬間だった。「えいやっ」と背中を押され、半裸のまま部長を押し倒してしまう。しかし言い訳などはせず、俺は大人しく頬を引っぱたかれた!



 ――以下、おまけ。


 智「……絶対、えっちく聞こえる単語を日々収集してますよね?」

 菫「えー、むしろなんでしてないと思ったのー?」

 千「うん、千雪たちがえっちな努力を惜しむと思われてたなんて心外だなぁ」

 由「じーっ」

 智「言葉だけの非難に見せつつ、器用に薄皮一枚だけつねらないでください部長……」

 由「ふんっ、神聖なる和室で不純異性交遊すっからだ」

 智「そんな設定ありましたっけ。あ、いたいたい、痛いですって」

 菫「でーでん! はーい、ここでじぇらってるゆまゆまに朗報でーす」

 千「ご存知パブロフの犬はベルを鳴らして犬にエサを与え続けた結果、ベルを鳴らしただけで犬がだ液を分泌するようになった実験だよね。とすると仮に〝部長〟や〝由真〟といった言葉がペポくんの興奮に結びつくと彼は一体、どうなってしまうのかなぁ?」

 由「!!」

 智「話しかけようとする度、びくんびくんってしてる絵面はシュールかもですね……」

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