メイド・イン・コタツ
「……なにやってんですか? こんなとこで」
いつも通りの放課後。和室の前。いつもの顔ぶれが目に入った。
階段をのぼってすぐに理由を訊けば、千雪先輩が笑顔で答えをはぐらかす。
「あぁ、ペポくん。ちょっとね。あれ、もしかしてりーちゃんは今日もバイト?」
「いえ。図書室寄ってからなんで、5分もすれば来ると思います」
「それはよかった。全員がそろうまで少しここで待っていて欲しいんだ」
「わたしたちから重、大、発、表! がありまーす!」
「ぐぬぬぬっ、やっぱ許せん。絶対おかしいだろ、こんなの。どう考えても!」
菫先輩が上機嫌な一方で、不満のあるらしい部長は「ぐるるるぅっ」と唸っていた。
今にも襲いかかりそうだったので後ろから失礼し、両脇から部長を持ち上げる。
軽い。腕立て伏せの重りならともかく、抱える分にはさして苦ではないのだ。
「うぉっ、なにするペポお前! はーなーせぇっ!」
じたばたと部長は暴れるが、低い位置を保つ限り蹴りがクリティカルすることもない。
「貴戸さんは自分が知らされてなかったから不満、ってことでしょう?」
「古賀ちゃんの言うとおーりッ! 部長に内緒でっ、重大発表くんはいかんでしょが!」
抱えられたままの体勢で、「おわかりになれよ!」と大きく胸を張る部長。かわいい。
「あー、今。ぺぽぺぽがー〝ちっちゃくてかわいいー〟って顔してたー」
「え? 先生のほうがすごくかわいいわよね?」
「うるさいよ。いえ、なんだか幼稚園の年長組のリーダーみたいだなぁ、と」
「おわかりになるでち! 部長のわたちにないちょなんて許ちぇないでち! でちでちっ!」
先生の余計な一言の連続で、背中越しの威圧感が増していくのがわかる。
「幼稚園児みてーな先生がよく言うよ。とりあえずシメとくか」
「ですね」
「フフ、いつもいつも恒例行事みたいに押し倒して、物理的マウントが取れると思わないことねぇ! 心は純潔! 屈してな――……ゆ、許してなのぉお! ごめんなさいなのぉ……」
「――い、一階まで響いてましたよ? 叫び声。恥ずかしいです、古賀先生……」
気づけば5分経っていたらしい。やって来た里奈も慣れたのか、やや塩対応寄りだ。
味方を失った先生は「どぉぢでなのぉ……」と、ひとり床ペロしながら泣いている。
「ほらほら。りーちゃんも来たことだし、ゆーちゃんもペポくんもその辺で」
「ではではー。改めまして茶道兼模型部御一行様ぁー、ご案内ぃー」
言って菫先輩が鍵を開き、ようやく和室の中へ。それからすぐに室内を見回す。
しかしどれだけ見回しても、どこをどう見ても和室はいつもの和室だった。
たぶん同じことを思ったのだろう。困惑気味の里奈が恐る恐る疑問を投げる。
「? え、と……これってその、どこか変わったんですか?」
「――――っ!! ばか! りーぽんのおばか! よく見て感じろ、コタツの鼓動をっ!」
「えっ。変わったのってコタツなの? 茅沼さん?」
と、半信半疑の古賀ちゃん。いや、放置されると思ったからって復活早すぎだろ……。
何はともあれ目を輝かせる部長に向けた、先輩たちの顔を見るにどうやら正解のようだ。
「はい、というわけで一部改修が完了し、コタツは掘りゴタツにもなれるようにましたぁ!」
「わーっ、どんどんぱーふ! どんどんぱーふ!」
「「「わ、わぁー……」」」
「うぉおおおおおっ!!」
部長だけは歓喜のあまりコタツの中へ顔をつっこみ、人目も気にせずお尻を振っていた。
「貴戸さん、まるでスカートを一生懸命に下から覗く波瀬くんみたいねぇ」
「うわぁ……ひでぇ比喩。俺、熱心に覗いたことなんて一度もないのに」
直後。天井に顔を背け、ほぼ同時に前後からジトっとした視線が突き刺さる。
そんな光景を「言わなければいいのに」と笑う千雪先輩が、俺に言った。
「じゃあ早速なんだけれどね。ゆーちゃんがコタツを堪能し始める前に、掘りゴタツを使って皆で遊ぼう! そんなわけでペポくん、今朝言った通りコタツの中へいざ行かん!」
「いやなにも聞かされてないですし、すでにイヤな予感しかないです……」
「まー、まー。細かいことはー、気にしない気にしないー」
強引な菫先輩に中へ押し込まれ、すっぽりと暗がりに全身が収まる。内部はわりと広いうえなぜか涼しい。それからほどなく女性陣の名前が書かれた札が五枚、投入された。
すぐにろくでもないクイズと確信し、瞬間。誰かの足先が目の前に現れ――……え?
なるほど。つまりはその、状況の意味するところは理解できる。できるのだけど、
(や、やりたくねぇ……でもやらないと閉じ込めてきそうだしなぁ)
ひとまず諦めて素直に観察すれば、長さ的に部長はあり得ないとすぐにわかった。
里奈だった場合も出るまでが早すぎるし、足がうるさくないので先生は論外。
つまり二択なのだが……悩んだ末、俺は〝宇城菫〟の札をコタツの外に差し出す。
ややあって、〝次が本番、罰ゲームあり〟と書かれたメモが放り込まれた。
(罰ゲームの有無じゃなくて、内容と正答を教えてくださいよ……特に正答)
まぁ、教えたら俺が有利すぎるとわかっているからこその判断だとは思う。
(いやでも、あれだな。最初焦ったけどそんなに難しく、な……――――ッッ!?)
けれど慢心を見透かすように現れたのは、スカートを脱いだ十の素足だった。
(いや。えっ、は? なにこれ。え? 部長と里奈もやってるの? 他はともかく)
だとしたら説得から実行まで早すぎでは? すると思考を遮るように四方から生足が迫ってきた。足探りで顔、後頭部、腋に触れられる。しかし下半身狙いだけは全力ではたいた。
(まぁ、俺まで届いてないやつは部長で確定だとして。このっ! しつこい下半身狙いは先生だろ絶対。で、あと三人が……全然わからん。さっきと同じ足が先輩のどっちかでも、里奈の足はこれ……ある? まぁ、罰ゲーム回避は諦めるか……信じるぞ、俺の第六勘!)
結局、悩みに悩んだ末。三択を運任せで選び、最後に部長の名札を外へ出す。
その時だった。がしり。腕を掴まれ、一気に引きずり出される! そして、全てを知った。
「オメェ……今、触りもしねぇで由真ちゃんって決めつけたろ? どういう了見だぁーあ?」
「うげっ。な、奈留ちゃんっ!? なんでぇっ!」
「うげっ、とはどういう意味だコラ。あぁン? そのまま掘りに沈めんぞ、智ちゃんよぉ」
メイド服を着たケンカ腰の少女――のような女性に、思いきりガンを飛ばされる。
「智成様がお間違えになるのも仕方のないことだと思いますよ、姉さん」
透き通った声のほうを見れば、同じく茅沼家専属メイドの恵千佳さんもいた。
(恵千佳さん、今日も素敵だ……いや、じゃなくてっ! は、反則だろこれは!)
選択肢の増減はさすがにずるいし、正解も先生だけで面倒くさい。部長と里奈にいたってはもはやポールダンスで遊んでおり、今回ばかりはご満悦な先輩ふたりに完敗である。
「あの、もう何でもいいんで。とりあえず五人とも早くスカート穿いてください……」
――以下、おまけ。
瞳「つまりこれ、引くくらいひとみちゃん大勝利ってことよねぇ? ぷくくっ! もしもぉし聞いてますかぁああ? 敗北者の皆さぁあん、準優勝おめでとうございまぁああすっ!」
由「あーぱぁ、ぽーるだんすたのしーなぁー。ねぇー、りぃーぽぉん」
里「だあぅー。えるいーでぃーがー、ぱぁってかがやーいてまぁすよー」
千「えぇと……どうしよう、ゆーちゃんとりーちゃんが壊れちゃった」
菫「叩けば治るんじゃないのー?」
恵「ではお尻になさいますか? それとも臀部になさいますか?」
奈「どっちもケツだし、オメェが叩きたいだけじゃねぇか。智ちゃんのケツでも叩いてろよ」
智「!」
恵「ふふ。そんな風に期待の眼差しを向けられると、わたくしも困ってしまいますわ」
奈「匂い、足、声フェチで。さらにスパンキングも追加かよ……立派じゃねぇか」
瞳「ほほーん。なら今度は壁尻でもいいわよ? まぁ? また勝っちゃうんだけどねぇっ!」
智(……か、帰りてぇなぁ)




