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入部2

「戻りましたー」

「し、失礼します……」


 慌ただしい放課後。通い慣れない和室。

 緊張したままでいる里奈の手を引いて中へ入ると、先輩たちは笑顔で迎えてくれた。


「おぉ、相変わらず早いねぇ」

「ねー、写真撮ったー? 見せて見せてー」

「茶化さないでくださいよ。べつに見たければどうぞ」


 千雪さんたちにスマホを渡す。特にパスワードも設定してないので、好きにフォルダの中を漁られた。服を剥かれ、顔を腫らしながら正座する男なんか見て楽しいのだろうか。謎だ。


「その手、だいじょぶか」


 繋いだ手を離し、自分の両手に視線を落とす。グーパー、グーパー。問題ない。


「平気ですよ。リア充見かけて壁を殴りすぎただけなんで」

「……そっか」


 部長さんはどうにも寂しそうに答えた。俺の返事はもちろん冗談である。

 ボコるついでに四台のスマホを粉々に破壊したので、さすがに痛んでいた。


「部長さんこそ、平気ですか?」


 ぎょっと驚いて「えっ」と部長さんの肩がびくりと跳ねる。

 自分ではそんなつもりがなくとも周りから見ればすぐにわかる、なんてのはよくある話だ。


「いや、なんか目元が赤いんで……」

「――っ! う、うそっ。み、見るな! ぅ、ぐ……見ちゃダメっ!」

「え、えぇっ?」


 何故か俺の両目を塞ごうとし、けれど身長差で届かず。しょうがないので自分の視界を両手で隠す、という迷走っぷりを披露する部長さん。ゆかいな人だなぁ、と思った。


「ね、でも消毒くらいしたほうがいいと……思う」


 いつの間にか制服の端をつまんでいた里奈が、ぽつりとそう言った。

 日常的に持ち歩いているのだろう。自然にカバンから消毒液を出し、手当してくれる。


「……っ、染みる染みる」


 自前のポケットティッシュで拭き取り、謝る里奈がぺたりと絆創膏を貼った。


「ともともー。堪能したよー、ありがとねー。へい、パース!」


 いきなりスマホが飛んできて――キャッチ。とりあえず、チェックはするべきだろう。

 見るとやっぱり、LINEの送信履歴が増えていた。他は特に目立った変化もない。


「そんなぽんぽん投げないでくださいよ、菫さん」

「えへー、ごめんねー」

「まぁまぁ。何かあったら千雪が助けてあげるし、お金も茅沼重工様に頼んであげるから」


 あの顔は絶対またやるな、と諦め半分でいれば、千雪さんがなだめるようにさらりと言う。


「いえ、それは……はい、ありがとうございます」

「そうそう、何事も素直が一番だよねぇ」

「え? か、茅沼重工って……ナノマシン技術の応用だとかで、医療とか宇宙開発だとか色々手がけている世界シェアトップクラスの大企業な、あの茅沼重工ですか……?」

「うん、その茅沼で合ってるかなぁ。よろしくねぇ」


 千雪さんの実家――茅沼重工の名前を出されて、動揺しない人間はたぶん少ない。

 俺もそうだった。ぺこぺこ頭を下げる里奈を、千雪さんは困ったように見つめる。


「それよりー、ふたりとも座ったらー?」

「は、はいっ。ぇ……春に、コタツ?」


 ストレートな疑問を投げる里奈。先輩たちも気持ちはわかる、という顔をした。

 つまり、そこまでじゃないのかも? 遠慮がちに布団を触ってみれば、思った通りだった。


「あ、これ……」

「普通のコタツ布団より、明らかに軽くて薄いですね。やっぱりご実家の?」

「せいかぁい。ゆーちゃんがうるさくてさぁ、オーダーメイドなんだよね」

「しょ、しょうがねーだろ。生まれつきの体質的に寒がりなんだから」


 コタツに座り直した部長さんが、ぬくぬくとテーブルに顎を乗っけながら唇を尖らせる。


「でも寒がりって色々と温かそうで羨ましいー。ねー、ともともー」

「なんでそこで俺に振るんですか……知りませんよ、経験ないですし」

「えー? 決めつけひどーい。誰もえっちな話だなんて言ってないのにー」

「だってどうせそうじゃないですか、菫さんだし」

「えへー。まー、そうなんだけどねー」

「……えと、知り合い?」


 気の置けないやり取りと思ってか、隣に座った里奈がきょとんと首をかしげる。


「まぁ、その、なんだ。前にちょっとお世話になったことが」

「はいはーい。わたし、いっぱいお世話しちゃいましたー」

「とてもお世話してたねぇ。たとえば、そうだなぁ――……」

「そ、その節はたくさんお世話になりましたっ! ほんとうにありがとうございますっ!」


 ひどく狼狽する俺を見て、ふたりが楽しげに笑う。まぁ、話はなんてこともない。

 病死した母を言い訳に荒んでいた中学時代。家に転がり込んでいた時期があっただけだ。

 あえてつけ加えるなら、あの頃に比べて千雪さんの男嫌いはずいぶん落ち着いたと思う。


「…………」

「? ……部長さん。なにか?」


 じっと見ていたので訊けば、「な、なんでもない……」とそっぽを向かれてしまった。

 それから改めて自己紹介をすることになり、やがて里奈が――同じ波瀬を名乗る。すると、


「ふぇ、あ……り、里奈ちゃんはっ。い、義妹……だったの、か?」

「え? は、はい。そう、なりました。えと、それがどうかしました?」

「い、いやっ、いいんだ気にするな! そ、そうか。そっかそっか、うん……そっか」


 何度も頷いて、何故かホッとしたような顔をしていた。かわいらしいひとだなぁ、と思う。

 そのまま雑談を続けるうち。入部届も書き、ちょうど書き終わる――そんな時だった。

 頭上に響くわずかな怒りを含んだ校内放送は、俺と里奈をご指名だそうだ。


「お、ちょうどいいな。もうついでにそれ出してこい、お前ら!」

「……いいんですか? えと、由真先輩」

「当ったり前だろ! 文句があるやつは私たちが全員、とっちめてやるから!」


 初対面の内気な印象は勘違いだったようで、どうやらこっちが部長さんの素らしい。


「じゃあ部長さんのお言葉に甘えて。行くとするか」

「う、うん……」


 里奈が俺の手を取って立ち上がる。そうして、ふたりで生徒指導室へ向かうのだった。



 ――以下、おまけ。


 由(そっか義妹だったのかぁ……てっきり私、彼女かと思っちゃった。ふぅ……)

 千・菫「にやにや。ニヤニヤ」

 由「な、なんだよお前ら! ニヤニヤすんな! 古賀ちゃんかよっ!」

 菫「えー、だってゆまゆま顔に〝義妹でよかったーッ!〟って書くんだもーん」

 由「そ、そんな顔に出てる……? チユ」

 千「出てるねぇ。もう露骨にぱぁっと咲いちゃってるよ、ゆーちゃん」

 菫「ちなみにわたしとちゆちゆはー、義妹ができたこと自体は知ってたよーぅ。ゆまゆまにはあえて言わなかったんだけどねー。理由はもちろん、反応が面白そうだからー」

 千「ごめんね、ゆーちゃん」

 由「ぐぬぬぬっ! おかしい、部長と生徒会長のパワーは学校では強いはずっ!」

 菫「パワーと言えば義妹でふたり暮らしとかー、ちょっと手札が強すぎるよねー」

 千「うーん。正直、相当の出遅れと言っても過言ではないねぇ」

 由「え、ウソ。ホント? ふたり暮らし? え? ど、どどどどぉしよおおっ!?」

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